第121話 戦力強化?

 まかない室でのちょっとした食事会が終わると、夕食まで各々が用意された部屋でくつろぐことにした。ツァハリアスさんも海軍基地から帰ってきていないので、ちょっとしたゆっくりとした時間を過ごす。


 ツァハリアスさん帰ってきたら、“大和”のことと【召喚】のことは絶対に聞かれるよねえ。どうするかな。それに、あんなにたくさんの人に見られたわけだし、誤魔化せないよなあ。聞かれたら正直に話そうか。そうしよう。


 程なくしてツァハリアスさんが帰って来て夕食となった。夕食は豪華な海鮮料理だった。どれも美味しくて、ペロリと平らげてしまった。大人組は珍しいお酒を飲みながら楽しんでいるようだった。


 ちなみに、お昼にギルドにお願いしていた、クラーケンの査定が終わったと使いが来たので、アントンさん、レナータさん、ユリアさんの高ランク冒険者の3人がギルドに向かった。変な査定をしていたら、締め上げてやると言っていたよ。おお、怖い怖い。


 そして、僕は夕食後、ツァハリアスさんに呼ばれて、執務室に執事さんの先導で向かう。執事さんが扉をノックし、告げる。


「ゲーニウス辺境伯様をお連れしました。」


「お入りいただくように。」


「はい。では、辺境伯様どうぞ。」


 そう言って、執事さんが扉を開けてくれる。僕は「ありがとう。」とお礼を言い、室内に入る。


「人払いを頼む。この部屋の近くに人を近づけてはならん。ガイウス閣下と大事な話しがある。」


「かしこまりました。」


 執事さんが去っていく。


「さっ、ガイウス閣下、おかけになってください。人払いを致しましたので、紅茶ではなく果実水を用意させていただきました。どうぞ。」


「ありがとうございます。」


 果実水をそれぞれのグラスに注ぐと、ツァハリアスさんがグラスを掲げて、


「無事にクラーケンを討伐できたことに感謝し、乾杯。」


「乾杯。」


 お互いにグラスを空にして、笑い合う。


「本当なら夕食の席でしたかったのですが、閣下はあの【能力】をあまりおおやけにしたくないように感じましたので、さけさせてもらいました。」


「ご配慮、ありがとうございます。」


「それで、閣下。あの巨大な艦はなんだったのですか?いえ、【召喚】されたモノだというのはわかるのです。しかし、この世界に、あのような攻撃方法を持つ軍艦は私が知る限り、存在しません。あの海戦のあと、私は仮説を立てました。お笑いになるかもしれません。」


「その仮説とは?」


「はい、率直に申し上げます。あの軍艦は“異世界”のモノではありませんか?」


 それを聞いた瞬間、僕は目を見開き直後に大笑いした。


「ハハハ。ツァハリアス殿は、柔軟な発想の持ち主なんですね。」


「いえ、本が好きなものでして、創作物から歴史書など幅広く読みました。その影響かもしれません。」


「しかし、あの軍艦を“異世界”のモノと思われるとは、何か根拠がおありなのでしょう?」


「根拠と呼べるようなものではありませんが、閣下がフォルトゥナ様の使徒であることそして空を飛べることを考えたら・・・。」


「なるほど、なるほど。よくわかりました。笑ってしまい申し訳ありません。」


「いえ、言った私でさえ信じることができていませんから。」


「ふむ、ではお答えしましょう。・・・正解です。あの軍艦は“異世界”のモノです。」


 そう答えると、ツァハリアスさんの顔が驚愕に染まった。


「ま、まことですか?」


「ふむ、ならば証拠をお見せしましょう。【召喚】。」


 フルプレートアーマーと10cm厚の鋼鉄板、M4アサルトライフルを【召喚】し、フルプレートアーマーを鋼鉄板の前に置き、少し離れてM4を構える。それぞれを説明して僕は続ける。


「よく見ていてくださいね。それと、結構な音がしますので驚かないようにお願いします。」


 ツァハリアスさんが頷いたのを確認して、僕はM4の引き金を絞る。単発モードにしているので、30回引き金を引いた。部屋の中には硝煙の臭いと“パンッパンッ”と乾いた発砲音、それと、“カラン、カラン”と薬莢やっきょうの落ちる音が響いた。30発撃ち終わり、M4を【送還】する。後に残ったのは、銃弾によってボロボロになったフルプレートアーマーとそれを受け止めへこんだ鋼鉄板だけだ。


「どうでしたか?これが“異世界”の武器です。」


「・・・。射程はどのくらいなのでしょう?」


「種類にもよりますが、僕が使ったのは300m~500mが有効射程です。」


「そ、そんなに!?騎馬突撃などできないではありませんか。いえ、騎馬だけではありません。フルプレートアーマーがこうも易々と貫通され、しかも後ろの鋼鉄板までへこんでいるではありませんか。もし、フルプレートアーマーがなければ、鋼鉄板の被害も相当なモノになっていたのではありませんか?」


「そうかもしれません。」僕は頷きながら答える。


「閣下は先程の“M4”でしたか、あれを大量に【召喚】できるのですか?」


「そうですね。僕の魔力が尽きるまでできます。そして、僕の魔力は今日【召喚】した軍艦を思い出していただければ、わかると思います。」


「・・・。閣下はこのお力をどのようにお使いになるおつもりで?」


「ふむ、簡単に言えば“民のため”ですかね。ゲーニウス領は帝国と黒魔の森に接しているので、帝国との小競り合いや黒魔の森からの魔物被害から民を護るために使います。」


「王国を護るためではなくてですか?」


「民あっての国だと僕は思っておりますので。」


 僕がそう言うと、ツァハリアスさんはいきなりひざまずき、


「シントラー伯爵家は、国王陛下とは別に閣下に忠誠を誓います。どうぞ、そのお力の庇護下に我が領の民も加えてくださいますようお願い申し上げます。」


 わーお、凄いことになっちゃった。

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