第120話 ショッピング

 ユリアさんの言葉に地味にショックを受けつつ、すぐにネヅロンの冒険者ギルドに向かう。用件は、さっき仕留めたクラーケンを買い取ってもらうためだ。海のないインシピットの冒険者ギルドだと怪しまれちゃうからね。


 冒険者ギルドに入ると、お昼過ぎだから少ないと思っていたら、思いの外、冒険者が多かった。なんでだろうと受付カウンターに向かいながら耳をすませてみると、


「クラーケンが現れたらしい。」「艦隊が出たから大丈夫だろう?」「2体出たらしいぞ。」「なら、防衛戦を海岸で行うのか?」「さあな、わからん。ギルドマスターから指示が無いからな。」「集まったはいいが、俺たち基本的に一匹狼だからなあ。」


 などなど聞こえてきた。これは、バレたらマズイやつだね。急いで、買い取ってもらおう。ユリアさんに視線を送ると頷いて、冒険者証を見せつつ受付カウンターの職員さんに声をかける。


「準1級のユリア・レマーです。私たちの所属するパーティで大物を仕留めたのですが、査定カウンターに乗りきるものではありません。どこか、広い場所はありますか?一番広い場所の方が、仕留めたヤツを出したときに施設への被害が最小限に抑えられますよ。」


 そう言うと、すぐに練習場に案内された。確かにここなら充分な広さがある。


「ガイウス君、出してください。」


「わかりました。ユリアさん。」


 そう言って、偽装魔法袋に【収納】してあるクラーケンを取り出す。“ドスンっ!!”と音を立て、大穴の開いた巨体が横たわる。ついてきたギルド職員はあまりの事に言葉も出ないようだ。


「精算に時間が掛かるはずですから、終わったらクリスティアーネ・アルムガルト嬢宛で、ツァハリアス・シントラー伯爵家へ使いをよこしてください。明日の朝までにはお願いしますね。それでは、みなさん、ショッピングにでも行きましょう。」


 ユリアさんのその言葉に従い、みんなでいそいそと冒険者ギルドをあとにする。僕らが出た後に、色々と有ったみたいだけど、しーらない。悪いことはしてないもんねー。


 そして、僕たちは、ユリアさんの言った通りに色んなお店に寄った。水着という服を置いているお店に行ったけど、これってほとんど下着と変わらないような気がするんだけど、気のせいかな。


 お店の人の話によると、普通の下着は水を吸って重くなるけど、水着は水を弾くから海や川を自由に泳ぐときにちょうどいいらしい。下着みたいなのはデザインだそうだ。そういうことで、僕はクリス達の水着選びに付き合わされることになった。


 女性用はトップスとボトムスが繋がっているワンピース水着とそれぞれが独立したツーピース水着ってのに分かれているみたい。ワンピース水着のスリングショットを見た瞬間、目を逸らした僕の行動は間違っていないと思いたい。いや、でも、着ている所を想像すると・・・。いやいや、いけない、いけない。ただでさえみんなスタイルがいいんだから、スリングショットはいけない。


 クリスはワンピースの中でも、Aラインという可愛らしい水着を選んで、柄や色とかに悩んでいるようだ。大人組はみんなツーピース水着のセパレーツとかビキニとかいうモノを選んでいる。今は、海水が冷たいから、また来た時のためだそうだけど、このお店で1時間近く時間を使ったよ。


 ちなみに、エミーリアさんのが1番時間が掛かった。胸のサイズがね、大きすぎて、なかなか無かったんだ。あ、お金は僕が支払ったよ。プレゼントってことで。


 そんで、アントンさんだけど、彼は早々に逃げて、同じ通りのカフェで甘味とお茶を楽しんでいた。ズルい。でも、その後、別のカフェで僕たちみんなに甘味とお茶を奢ってくれたから許しちゃう。


 その後は、海岸沿いの道に戻り、海産物を売っているお店を覗いてまわった。内陸のインシピットでは見られない様々な海産物は見ているだけでも楽しい。干物になる前の姿とか、魔物みたいなタコとか。棘が沢山ついているウニとかいうモノはどうやって食べるか知りたかったので人数分購入して、お店の人に食べ方を聞きながら、棘のついた殻を割り、中身を食べた。初めて食べた味だ。何というか味が濃くて深みがある。大人組は酒が飲みたくなったようだ。


 ということで、あの後、何軒かお店をまわって、お酒とそのおつまみの海産物を手に入れて、シントラー伯爵邸に戻ってきた。門番の衛兵さんは顔をもう覚えてくれたらしく、すぐに門を開けてくれた。馬は使用人さんに預け厩舎に。僕たちは、表玄関から執事さんの出迎えを受けた。


 お屋敷の中に入るとすぐにユリアさんが、


「街で買ってきた食べ物とお酒を楽しみたいのですが、どこか使ってよい部屋はありますか?」


 と聞くと、執事さんは困ったような笑みを浮かべながら答えてくれた。


「ええ、ございますが、すぐにご用意できるお部屋ですと、我々が使用しております厨房に近い賄い室のみとなります。」


「ええ、そこで、構いません。ガイウス卿とクリスティアーネ嬢にはジュースか果実水をお願いできますか。」


「承知しました。すぐにお持ちいたします。」


 そういうことで、意外といってはなんだけど、豪華な賄い室で僕たちは夕飯をご馳走になる前に、各々の舌で厳選した海産物を楽しむという少しの贅沢な時間を味わうのだった。

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