第119話 大和

 指揮所と思しき所に下りると、艦長らしき人が現れ敬礼をする。答礼をするとこの軍艦名と自己紹介をしてくれた。


「大日本帝国海軍大和型戦艦1番艦“大和”艦長の高柳儀八であります。司令官、ご命令を。」


「命令を伝える。あの艦隊を護りながら、目の前のイカの化け物クラーケンの1体を討ち取るんだ。艦隊が攻撃していない元気な方だ。あとは、すべて艦長に任せるよ。」


「了解しました。では、艦橋内へお入りください。外は危ないので。」


 そう言われて、艦橋の中に入る。さっき下り立ったところは防空指揮所というところだったらしい。艦橋内に入ると全員が敬礼してきたので答礼する。高柳艦長が指示を出していく。すると、前部の大砲が旋回し始めてその照準をクラーケンに定める。クラーケンはいきなり出てきた黒鉄くろがねの大和にどう対処しようか悩んでいるようだった。ま、いきなりこんなでっかいのが現れたらビックリするよね。


「砲術長!!主砲及び副砲発射用意。水平射だ。外すなよ。各員、主砲発射の衝撃に備えろ。」


 高柳艦長の声が響く、全員が耳を押さえている。その理由に気付くのには時間があまりにも無かった。


「撃ちーかた、始め!!」


 閃光と爆音が響く。今までで聞いた中で一番の轟音かもしれない。鼓膜が破けるかと思った。僕は轟音でフラフラになりながら標的となったクラーケンを見た。大和の主砲と副砲の一斉射を受けたクラーケンは体に18個の穴を開け、沈んでいこうとしていた。僕は未だにフラフラしながらも艦橋から飛び立ち、クラーケンの死体を【収納】して回収した。


 クラーケンをこんなにも簡単に仕留めるなんて、改めて地球の技術ってすごいなあと思うよ。こっちの世界だとここまでの技術は出来上がってないからね。【魔法】に頼らないほうが技術の発展が進むのだろうか?そんなことを思いながら大和の艦橋に戻る。


 艦橋に入るとすぐに高柳艦長が、


「司令官。もう1体にも攻撃をしますか。」


 と聞いてきたので、


「いや、あれはアドロナ王国海軍・シントラー領海軍連合艦隊の獲物だ。獲物の横取りはしたくはないかな。それにあの様子だと手出しは無用だろうと思う。」


「ふむ、確かに。艦隊の攻撃で十分押せていますな。まあ、念のために主砲と副砲の旋回及び発射準備はさせておきます。」


「そこは、艦長に任せるよ。しかし、【召喚】しておいてなんだけど、凄い艦だね。大和は。」


「ええ、大日本帝国海軍の総力を挙げて建造した艦ですから。」


 大和を【鑑定】してみる。


「全長263m、全幅38.9m、153,553馬力、最大速力27.46ノット。主砲の45口径46cm3連装砲塔が3基、副砲の60口径15.5cm3連装砲塔が4基。その他にも高角砲に機銃までか・・・。本当に凄いや。この世界エシダラに存在するどの軍艦よりも強んじゃないかな。帝国艦隊なんて一蹴できそうだ。」


「してみせましょうか?それと、武装面は軍機なのですが、ここでは関係ありませんね。」


「まあね。【送還】したら、この世界エシダラのことは覚えていないみたいだから、地球での機密とか口に出しても問題ないと思うよ。」


「まあ、それでも軍機は軍機です。あまり、他言しないようにお願いします。」


 そんなやり取りをしながらアドロナ王国海軍・シントラー領海軍連合艦隊の戦いぶりを大和の艦橋から眺める。お互いに上手く連携をとりながら、クラーケンを翻弄ほんろうしている。


「わかったよ。艦長。ところで、船首についている菊みたいな紋章と、マストに掲げられている白地に赤色の模様の旗は何かな?」


「船首のものは菊花紋章で、旗は旭日旗ですね。簡単に言えば菊花紋章は大日本帝国の皇室の家紋ですね。旭日旗は太陽と太陽光を表したものとなっています。我が海軍の軍艦旗です。」


「なるほど、なるほど。ん?でも、以前、召喚した島津義弘の率いる部隊は、違う家紋をつけていたよ。」


「島津ですと、丸に十の字ですな。まあ、なんといいますか、時代が違います。島津義弘公ですと、我々からすれば300年近く前の人物になります。その時代には日本のなかでいくつもの国に分かれて治世を敷いていたので、それぞれの家紋があります。皇室が中心となって日本を治めるようになったのは、70年ぐらい前からですね。」


「ああ、そうなんだ。わかった。ありがとう。」


「いえいえ。あ、あちらさんももう少しで決着ですね。」


 そう言われて、連合艦隊を見てみると、確かに最後の総仕上げにかかっている。半円状に軍艦を配置して、弱り切ったクラーケンを囲み、間断なく攻撃をしている。


 そして、遂にクラーケンは力尽き、海面に倒れ込んだ。艦隊から歓声が上がるのが聞こえてくる。そして、各艦から小舟が降ろされ、クラーケンの死体の曳航の準備をしている。その様子を大和の艦橋から見ていると、連合艦隊の旗艦の指揮所からツァハリアスさんが出てきてこっちに手を振っている。行った方がいいよね。


 高柳艦長たちにお礼を言い、僕は大和から飛び立つ。旗艦に下り立つと、「【送還】。」を唱え、大和を【送還】した。ツァハリアスさんを含めて周囲の人がみんな驚いている。僕は、努めて笑顔を作りながら、


「いやあ、クラーケンが無事、征伐出来てよかった。艦隊のほうにも被害はなさそうで、安心した。さて、私は海岸に戻るとしよう。諸君ご苦労だった。」


 そう言って、呆気あっけに取られているみんなを無視して一気に海岸まで飛んでいく。クリス達の所に着くと、アントンさんが笑いながら、


「また、どえらいモンを【召喚】したなあ。あの攻撃の音は此処ここまで響いたぞ。」


 と肩をバシバシ叩きながら言う。


「いや、別に“大和”を指定して【召喚】したわけじゃないんですよ。ただ、強い軍艦と思って【召喚】しただけなんです。って、なんですか、みなさんそんな胡散臭いモノを見るような目で僕を見ないでくださいよ。」


「いやあ、だってガイウス君ですもん。」


 そうユリアさんが言うと、みんなが頷く。地味にショックなんですけど・・・。

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