第118話 クラーケン

 お昼が近かったので、海水浴場に行く前にツァハリアスさんのオススメのお店を貰った地図に従って探す。そのお店は海沿いに立っていて、はっきりとは言えないけど、貴族の人が寄るようなお店には見えなかった。まあ、料理がおいしければそれでいいんだけどね。さあ、中に入ろう。


 中に入ると、思っていたよりも明るい店内だった。よく見れば窓には透明なガラスが使われている。テーブルやイスも飴色あめいろに輝いていた。店員さんが7人座ることのできるようにテーブルをくっつけてくれた。注文は魚介類を中心にお任せにした。


 魚介料理は川魚や干物しか食べたことが無かったけど、新鮮な海鮮料理がこんなにも美味しいものだとは思わなかった。生で食べることに最初は抵抗があったけど、食べてみるとこれが美味しい。薄味がつけてあり、他にも色んなソース類があってなかなかいい。


 中には独特の風味があるソースもあったけど、それはそれでいいものだった。クリスも「チーズと比べると敷居は低いですね。」と言って、食べ進めていた。大人組は「酒が欲しい。」と言って白ワインを頼んで飲み始めた。


 結局、お店には1時間くらい居た。まあ、その分お金を使ったからいいよね。その後は、海水浴場に向かった。砂浜があって、その先は、波が打ち寄せる海だ。本で読んだ通りの風景だ。馬留めがあったのでそこに馬を繋ぎ、波打ち際まで向かう。寄せては戻る波を見ていると、レナータさんが近くにやって来て言う。


「ガイウス君、海の水はね塩辛いのよ。しかも凄くね。」


 試しにすくって舐めてみたら本当に塩辛かった。すぐに【水魔法】で水を出し、口の中を洗い流して、普通の水を飲む。レナータさんたちは僕のその様子を笑いながら見ていた。


「ガイウス君、凄かったでしょう?でも、それのおかげで塩が作れるのよ。確か“天日塩”とかいったかしら?海水を塩田に取り込んで、太陽光で水分を蒸発させるやり方だったはずよ。」


「流石、レナータさん。博識ですね。」


「もっと、褒めてもいいのよ。」


 そう言って胸を張るレナータさん。どうやって褒めようか迷っていると、ユリアさんが近寄って来て耳元で「頭を撫でればいいのよ。」と言ったので、その言葉通り、レナータさんにかがんでもらって頭を撫でた。


 最初はポカンとした顔をしていたレナータさんだけど、次第に顔が赤くなっていき、耳まで赤くなった。あれ、恥ずかしかったかな。僕が撫でるのをやめると、屈んだ状態の上目遣いで「もう少し、撫でて。」と言ってきた。なんか妙に色っぽいけど、気にせず撫で続けることにした。尻尾がユラユラ揺れているから、嫌ではないんだよね?顔は赤いけど。


 そんなことをした後は、みんなして波打ち際で遊んでみた。打ち寄せる海水が冷たくて気持ちがいい。アントンさんは日当たりが良くて気持ちがいいということで、砂浜に外套をしいて昼寝を始めた。


 30分くらい波打ち際で遊んでいると、“カン!!カン!!カン!!”と鐘の音が響いた。アントンさんはすぐに飛び起き、いつでも動ける体勢に入っている。勿論、僕たちも。何の合図だろうと思っていると、近くの高塔から【風魔法】に乗せた声が響いた。


「沖にクラーケンが出た!!海岸から離れて海から距離を取れ!!クラーケンの餌食になるぞ!!」


 沖に目をやり強化された視力で探していると、すぐ見つかった。魔物図鑑で見たイカという魚介類をすっごく大きくした魔物が海面付近で、10本の触手のような手で海面をバシャバシャしていた。


 何をしているんだろうと、さらによく見てみると、魚をその大きな触手で捕まえては食べていた。あんな食べ方されたら、人間の分が無くなっちゃうよ。ていうか、海岸に徐々に近づいてきているような。高塔の人が言うようにやっぱり人間も食べるのか。


 これは、マズイと思い、馬留めまで向かい騎乗したところで、海軍基地のほうからアドロナ王国海軍・シントラー領海軍の連合艦隊がクラーケンに近づいていくのが見えた。一番大きな軍艦にシントラー伯爵家の紋章旗が掲げられている。もしかして、ツァハリアスさんが直接指揮を執っているのかな。


 艦隊からは弓矢に弩、各種【魔法】攻撃がクラーケンに浴びせられる。かなり強力な連続攻撃だ。クラーケンに反撃させる隙を与えない。クラーケンは前進をやめ、艦隊に対して攻撃を繰り出そうとするが、触手が持ち上がるたびにそこに集中攻撃されて、後退あとずさる。


 もう少しで倒せるというところで、クラーケンがもう1体、艦隊の背後に現れた。


「あれ、まずいですよね。」


 僕がそう言うと、みんな首肯する。ならば、出し惜しみせずにクラーケンに対抗できる海のモノを【召喚】するべきだろう。僕は翼を生やし、飛び上がり、艦隊の上空へと向かう。ツァハリアスさんが乗艦しているであろう旗艦を見つけると、【風魔法】を使いながら、大声で言う。


「ガイウス・ゲーニウス辺境伯である。後方のクラーケンは私が対処しよう。諸君らは攻撃中のクラーケンに集中したまえ。」


 すると、ツァハリアスさんが指揮所らしきところから出てきて言った。


「お願いします!!閣下!!」


 僕は頷き、後から現れたクラーケンと対峙する。よし、それじゃあ、やりますか。想像するのは、今、海上にいる軍艦よりも大きくて頑丈な軍艦。そして、クラーケンを一撃で屠れる最大、最強の軍艦だ。


「【召喚】!!」


 言葉と同時に僕とクラーケンの間に巨大な魔法陣が現れ、光があふれる。光が消えると同時に、黒鉄くろがねの超巨大軍艦が現れた。ツァハリアスさんの乗艦が小舟に見えるようだ。


 大きい三本の筒を一纏めにしたモノが、艦の前部と後部に合わせて3つ。さらにはそれの小さいモノが前部に1つ、右舷と左舷に1つずつ、後部に1つの計4つ。そして、銃を多数装備している。と云うことは、あの筒も大きい銃だと考えればいい。えーっと、確かジョージは“大砲”とか言っていたかな。


 そして、艦首には、衝角が無くて、花の紋章?菊?かな。それが、ある。そして、艦中央のマストと思しき所には赤い丸からいくつもの赤い線が伸びている旗が掲げられている。まるで、太陽が昇っている様子を図にしたような旗だ。とりあえずこの軍艦の指揮所に下りてみよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る