第114話 召還能力の実態

「さて、ガイウス。君が召喚するモノは無生物、生物を問わずにコピー、模造品なんだ。もちろん寸分たがわぬ本物と同じ物だけどね。模造品だから地球から本物が無くなることはない。無生物のモノはこの世界エシダラに【召喚】したままでも大丈夫なのさ。もちろん、無尽蔵にね。だから、例えば、マルボルク城のみで国境を埋めることもできるよ。この世界エシダラのモノについても同じだよ。ただし、地球の生物の場合は、魂を少し分けてコピーされるから同じ人物は何人も【召還】できないよ。そして、【送還】すると、魂が元の量に戻る。そうなると、少しだけ本物に影響がでるね。この世界エシダラの生き物の場合は直接、本人が【召喚】されるよ。」


「以前、【召喚】したジョージ・マーティン中尉に確認したら、地球に戻ったら【召喚】された時のことは覚えていないと言われましたが。」


「そりゃあ、脳に記憶されるモノは残らないよ。ただし、この世界エシダラでのことは魂に残る。刻まれる。だから、地球も少し面白いことになっている。例えば、君がよく【召喚】するあの呂布は今までの歴史では裏切り者として有名だったが、今は幼い皇帝を最期まで守り抜いた忠臣となっている。全くもって面白いものだ。ああ、歴史の大きな流れには影響は与えていないよ。まだね。いやあ、今後どうなるか楽しみだね。」


 アハハハと笑いながら地球の神様は言うが、異世界の、地球の歴史に少しでも影響が出てしまうんだ・・・。僕が考え込んでいると、地球の神様は、


「そんなに暗い顔をしなさんな。裏切り者から忠臣に変えて歴史に名をのこしたんだから、良い変化だったんだよ。確かに、ガイウスの影響が無いとは言えないがね。まあ、呂布も権力闘争に巻き込まれた1人だったわけだ。ある意味では、彼と部下たちの名誉が救われたんだ。だから、ホレ、元気出せ。笑いな。んで、今回のような無生物、マルボルク城を【召喚】して気づいたことはあるかな?」


 地球の神様にほっぺたをムニムニされながら答える。


「そういえば、召喚する前と地形が少し変わっていたような。」


「そう、自動的に建築物などのモノは【召喚】される際に地形をそのモノに最適化して【召喚】される。そして、建物の向きについても自由に変えられる。今回は無意識に正門が街道を向くように【召喚】したみたいだね。」


 へー、すっごい便利機能。ん、と云うことは、組みあわせていけば、地球の神様がさっき言った通り、本当にマルボルク城で国境を押さえることができるのかあ。一考の余地ありだね。


「それと、呂布隊を長期間【召喚】しておくようだけど、それについては問題ないよ。さっきも言った通り、魂を分けたコピーだからね。ガイウスが良い方向に影響を与えるのを期待しているよ。あ、そうだ。これも言っておかないとね。【召喚】した生物、これは地球もこの世界エシダラも変わらないんだけど、万が一、戦死とかしても、問題ないよ。地球から【召喚】したモノは魂が元に戻るだけだし、こっちの世界のモノは死亡して【送還】された瞬間に甦るから。」


「不死の軍団ができそうですね。」


 地球の神様は笑顔で大きくうなずき、


「まさしく、その通り。ま、ガイウスが自分自身で決めることだから、俺は口は挟まないよ。」


「【能力】に頼り過ぎて、溺れないように気を付けます。」


「ああ、それがいい。ま、君の場合は、いつも言っているように“魂のうつわ”が大きいから大丈夫だろうけどね。」


「いつも、僕の“魂の器”のことをフォルトゥナ様も地球の神様も言われますけど、基準がわかりませんよ。」


「その質問には私が答えるべきね。そうね。 “勇者” 筆頭候補になるくらいの“魂の器”よ。」


 笑顔でフォルトゥナ様が答えてくれる。えっ、それって、


「それって、僕が“勇者”になる可能性があったということですか?」


「可能性ではなく。“勇者”として選ぼうとしていたわ。このバカがやらかしちゃったから白紙になったけどね。」


 “このバカ”というところで、かかと落としを頭部に喰らった地球の神様は「うごっ」と呻いて崩れ落ちた。そして、追い打ちの踏みつけ。地球の神様が地面?にめり込む。うん、いつもの光景だ。


「他に聞きたいことはないかしら?」


「いえ、今回は【召喚】のことについて聞きたかったので、大丈夫です。」


「それじゃあ、元の所に戻しましょうかね。貴方、凄い祈られているわよ。」


 そう言って、僕を映した画面を見せてくれた。うわ、凄い祈られている。っていうか僕、今どんな状態なんだろう。仮死状態?


「仮死状態じゃないわよ。あ、思考を読ませてもらったわ。ごめんなさいね。それで、今のガイウスは意識と魂がこっちに来てこっち用の体を作っているだけよ。【召喚】みたいなもんね。まあ、【召喚】と違うのは、ガイウスは記憶を持った状態で戻ることができるということかしら。」


「はあ、そうだったんですねえ。」


「ええ、そうだったのよ。さ、お戻りなさい。」


「はい、ありがとうございました。地球の神様もありがとうございました。」


 フォルトゥナ様は笑顔で手を振り、地球の神様はフォルトゥナ様に踏みつけられた状態で手を振ってくれた。


 そして、僕は、光の中で目を開ける。それと同時に天から下りてきていた光が消えた。そして、包み込んでいた翼も消す。すると、祈っていた信者の人と巫女さんが僕を見てきた。とりあえず、笑顔を作り、巫女さんに対して、小声で話しかける


「フォルトゥナ様とお話しをしてきました。良いお話しができました。」


「それはようございました。辺境伯様。」


 その後は、貴族の仮面を被り、


「これは、少ないが寄進として受け取ってほしい。」


 そう言って、金貨を10枚寄進してから、教会をあとにした。そして、すぐに騎乗し、行政庁舎に戻る。すぐに門番の衛兵さんが案内して代官執務室まできた。ノックして名を告げると、「どうぞ。」とユーソさんの声が聞こえたので、室内に入る。中には、ツフェフレの武官さんと文官さんが揃っていた。あっ、防衛隊長のラッセさんもいる。みんなの視線の中、僕は笑顔を作り言った。


「フォルトゥナ様から、お許しを得ることができた。あの城塞はあのままでよいそうだ。」


 すると、全員が一斉にひざまずき、ユーソさんが代表して言う。


「閣下、まことにありがとうございます。」

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