第104話 勧誘の手
昨日は、封蝋印と旗、剣を貰い、急いで先触れを書いて封蝋印を押し、その日2度目の教会へ行きベドジフさんにお願いに行った。彼は
というわけで、翼を大きく広げ空を飛んでやってきました、アルムガルト辺境伯家の本邸。既に顔見知りとなった門番の衛兵さんに形式上だけど、名前を告げ貴族証を見せる。それを確認した衛兵さんは、すでに門の前で待機している執事さんに引き継ぐ。そのまま、応接室に通され、しばらくしてダヴィド様とヴィンフリート様がやってくる。立ち上がり、礼をする。
「堅苦しいのはなしだ。ガイウス殿。」ダヴィド様が手をヒラヒラさせながら言う。
「父上の言う通りだ。クリスティアーネの夫になるのが決まっているのだから、身内の様なものさ。」ヴィンフリート様も席に着きながら、そう言ってくれた。
「では、お言葉に甘えて。本日、僕がお伺いしたのは、ある人物を国軍から引き抜きたいからです。」
「ジギスムント・クンツ男爵のことかね?」
「はい、既にご
「アンスガーが、昨夜こちらに帰ってきてな。そのことを話した。」
ほう、アンスガーさんはちゃんと約束通りに進言をしてくれたみたいだ。感謝しないとね。
「そうだったんですね。それで、僕としては長年、北の辺境であるゲーニウス領で軍人として
「うむ、よくわかった。孫娘の婿殿の頼みだ。
「私も、ヴィンフリート・アルムガルトとして、力を尽くそう。」
「ありがとうございます。それで、対価はどうしましょう?」
「これこれ、そのように聞くのはご
「わかりました。ヴィンフリート様も?」
「うーむ。私は、特には無いかな。クリスティアーネを幸せにしてくれれば。それと、孫を早く抱きたいね。ディルクとベルントにも見合い話はくるんだが、中々に厳しくてね。」
おっと、孫を抱きたいとは中々に難易度が高い。
「クリスティアーネを幸せにするのは僕の使命だと思っています。子供は・・・、その・・・、お時間をいただければと思います。」
「ハハハ、もちろんだとも。今日、明日という話ではないよ。いずれはということさ。」
「それであれば、必ず。」
「うむ、ならば、クンツ男爵の件について本日はこれで
「ご迷惑でなければ、喜んでご一緒させていただきます。ダヴィド様。」
「うむ、そうと決まればもう少し、
「父上、
「わかった。ヴィンフリート、昼食には遅れるなよ。」
「承知していますよ、父上。それでは、ガイウス殿、また後で。」
そう言って、部屋からヴィンフリート様は出て行かれた。
「そろそろ、あやつに、家督を譲ろうと思うてな。儂がしておった執務をさせておる。娘たち、あやつの姉や妹の嫁ぎ先がいらん口を挟む前に、家督を継がせる。子たちの中で男子があやつ1人だったのは、運が良かったのか、悪かったのか・・・。」
「どうなんでしょう。僕は、庶民が読む物語を教会でよく読んでいましたが、物語に出てくる貴族の家では必ず家督争いが起きていましたよ。それが無いと考えれば、結果的にはよかったのでは?」
「うむ、確かにな。家督争いで改易された家など長い歴史の中で
「責任ある立場の人間の、目に見えぬ苦労というわけですね。」
「ああ、そう言えるかもしれん。ガイウス殿のように、庶民から貴族になった者の方が案外、上手く統治ができるのかもしれん。下手に歴史がある家だと、それに縛られてしまう。」
ふーっと長いため息をついて、メイドさんの淹れてくれた紅茶を飲むダヴィド様。本当に貴族と言うのは、厄介なんだなあと思いながら、その光景を眺める。その後も、昼食の時間まで、ダヴィド様と
お昼の時間になると、執事さんが呼びに来てくれた。僕とダヴィド様は一緒に昼食に向かう。部屋に入ると、アライダ様とドーリス様が既に席に着いていた。僕はお2人に挨拶をして、勧められた席に着く。その後、すぐにヴィンフリート様も来て、昼食を摂った。貴族の作法で食べる昼食は、面倒だからやっぱり慣れないね。
昼食後は、そのままインシピットの町へ飛んで戻った。門の直前まで飛んでいくと騒ぎになるので、近くの黒魔の森に着地して、翼を消してから門から町へと入る。その足で、アンスガーさんとベドジフさんにお礼を言いに行く。あとは、ギルドの練習場で、“シュタールヴィレ”のみんなが帰って来るまで、1人で訓練をした。今日はかなり久しぶりに平和な日だったかもしれない。
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