第103話 家臣取得のために

 ゆっくりとお茶を飲みながらベドジフさんが戻ってくるのを待つ。結局、戻ってきたのは、約10分後だった。熱心に祈っていたんだろうね。


「いやあ、ガイウス様、申し訳ありません。年甲斐にもなくはしゃいでしまいまして。」


「いえいえ、お気になさらず。フォルトゥナ様のお告げともなれば、皆がそうなると思いますよ。ところで、僕の家臣になっていただくのであれば、確認したいことがあります。と云っても、難しいものではありません。まず1つ目は、ご家族がいらっしゃるかどうかです。2つ目は、いらっしゃるのであれば、ご家族の許可をとってあるかどうかです。3つ目は教会をする段取りがしてあるかどうかです。神官長というお立ち場ですから、ここはしっかりとしていただきたいですね。それと、4つ目、これで最後ですが、なぜ聖騎士団という教会でも地位の高い立場を捨て、王都から離れたインシピットで神官長をされているのでしょうか?」


「まずは、1つ目と2つ目のご質問からお答えします。結婚はしています家族もいます。子供たちはすでに成人していますので、妻と二人きりです。妻には“ガイウス様の臣になりたい。ゲーニウス領に、旧ナーノモン領に行くことになる。”と伝えたところ了承してくれました。3つ目ですが、後任は既に決めてあります。司祭様と神父様には了承を得ています。あとは、本人に話すだけです。それで、4つ目ですが、端的に言いますと、権力闘争に巻き込まれるのが嫌だったからです。以上でよろしかったでしょうか?」


「ありがとうございます。踏み入った質問になるのですが、聖騎士団に未練などは?」


 ベドジフさんは、考えるような表情になりながら、お茶を飲む。自分の中で整理をしているんだろう。そして、口を開く。


「無いと言えば、嘘になります。部下の教育をもっとしたかった、もっと討伐で活躍したかったと云う気持ちがあります。しかし、権力闘争に家族も巻き込まれそうになった時点で、わたくしは聖騎士団をめる決心がつきました。」


「答えにくい質問に、答えていただきありがとうございます。ゲーニウス領に来ていただく日取りは、任意で構いません。一応、5月末には国から派遣されている者たちが、王都に戻るそうです。」


「わかりました。その前後には着くように、ゲーニウス領に向かいましょう。」


「お願いします。それでは、僕はこれで失礼させていただきます。」


「ご足労、ありがとうございました。こちらの玄関からどうぞ。礼拝堂を抜けるよりは早いでしょう。」


 そう言って、教会・孤児院職員専用の出入り口まで案内してくれた。教会を、出るときに2,3言葉を交わし、僕は冒険者ギルドに向かった。ただ、真っ直ぐは行かずに、修理のため預けてある鎧を受け取ってからだけど。


 冒険者ギルドの受付にメリナさんがいたので、アンスガーさんの面会予約を入れていたことを話すと、すぐに調べて、


「もう、11時前ですが、今なら、来客も会議も無いので、すぐに会えますよ。どうします?」


「それでは、今からでお願いします。」


「わかりました。では、ご案内・・・は、必要でしょうか?」


「いえ、大丈夫です。」


「では、どうぞ、お入りください。」


 そう言って、受付カウンターの仕切り板を、開けてくれる。お礼を言い、2階のギルドマスター執務室に向かう。部屋の前に来て、ノックをする。「どうぞ。」とアンスガーさんの声が聞こえたので、「失礼します。」と言ってから扉を開ける。室内では、アンスガーさんが書類に目を通している所だった。


「お仕事中にすみません。」


「構わないよ。ちゃんと、正規の面会予約をしていたのだから。さ、立っていないで座って。」


「ありがとうございます。」


 そう言って、応接用のソファに座る。対面にはアンスガーさん。そして、扉がノックされる。「お茶をお持ちしました。」メリナさんの声だ。アンスガーさんが「どうぞ。」と声をかけると、お茶とお茶請けを載せたお盆を持って入室してきて、僕とアンスガーさんの間にある応接机へと置いて行く。お礼を言うと、「ごゆっくり。」と言って退室していった。


「さて、ガイウス君。何か問題でも起こしたかな?」


「僕がトラブルメーカーみたいに言わないでくださいよ。あちらからやってくるんですから、対応しないわけにはいかないでしょう?」


「だが、先日の私の実家への挨拶は、充分と愉快なものになったそうじゃないか。」


「いや、あれは・・・。確かに僕が悪かったですけど・・・。」


「まあ、いいさ。クリスティアーネが悲しまなければそれでな。では、本題に移ろうか。」


「はい、実は現在、旧ナーノモン領に展開している国軍から引き抜きたい人物がいまして、オツスローフ方面軍司令官のジギスムント・クンツ男爵という方です。」


「ほう、帝国と黒魔の森に接している辺境地とはいえ、男爵で方面軍司令官とは優秀な人物だ。で、彼を国軍から引き抜きたいと。」


「はい、できるだけジギスムント殿に迷惑がかからないようにしたいんです。」


「うーむ。なら、私の友人に軍の総務局で働いている者がいる。人事管理は総務局の人事部が行っているはずだから、どうにかできないか相談してみよう。そうだな、王領で男爵なのに方面軍司令官なわけだから、勤務成績が良好なはずだ。辺境伯に引き抜かれての名誉除隊という形がとれないかだな。辺境に再配置されるわけだから他の貴族には根回しはせんでもいいだろう。1つ席が空くわけだからな。それと、父上と兄上にも軍務大臣にかけあうように進言しておこう。ただし、私は進言するだけだ。ガイウス君の問題なのだから、キチンと先触れを出して、アルムガルト家に行くこと。いいね?」


「わかりました。アンスガーさん。しかし、先触れとなると・・・。それなりの地位の方がいいですね・・・。ベドジフ殿はいかがでしょう?」


「教会の神官長のベドジフ殿かい?」


「はい、僕の家臣になってくれるそうです。」


「それは、なんともまあ・・・。良い人材に恵まれたね。うん、ベドジフ殿で大丈夫だろう。そうそう、これを君の宿に届けようと思っていたんだ。家紋入りの封蝋印だよ。それと、家紋入りの旗に剣だ。」


「わあ、ありがとうございます。」


 受け取り、嬉しくて眺めていると、


「そうしていると、無邪気な子供にしか見えないんだがねえ。」


 と言われた。まるで、子供じゃないみたいじゃないですか。全くもう。子供の無邪気さで骨折りますよ?

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