第102話 神官長ベドジフ

 さて、やってきました。フォルトゥナ教教会インシピット支部、略して教会。礼拝堂に入ると、丁度、神官さんがいたので名前を告げ、神官長のベドジフさんを呼んでもらう。フォルトゥナ様の像に祈っていると、手の平にまた文字が浮かんできた。

“強者は近くにいるから、のがさないようにね  フォルトゥナより”


 ふむ、誰の事だろう。消え行く文字を見ながらそう思う。文字が全部消え去ったタイミングでベドジフさんがやって来た。彼はすぐにひざまずいて、


「ガイウス・ゲーニウス様、辺境伯への授爵、誠におめでとうございます。また、フォルトゥナ様の使徒として各国にお告げがあったことを、お喜び申し上げます。」


「ありがとうございます。ベドジフ殿。さっ、お立ちください。僕に何か用があったのでしょう?」


「はい、まことに個人的で図々ずうずうしい願いだとは思っておりますが、わたくしをガイウス様のしんとしていただきたく。」


 そう言って、また跪こうとするので、それをとめて、どこか落ち着いて話せるところを用意してもらった。場所はベドジフさんの執務室だった。神官長だもんね。個人の執務室くらいは持っているものだよねえ。応接用のソファを勧められ、素直に座る。その対面にベドジフさんが座るのかと思いきや、


「少々、お待ちください。」


 と、部屋を出て行った。それじゃあ、待たせてもらいましょうかね。しかし、思ったよりも、ソファのクッションがへたっているね。年季を感じるよ。ナトス村やオツスローフの教会でも思ったけど、礼拝堂の椅子とか孤児院関係のものは、新品だったりするけど、中の人たちが使うものって結構な年季が入ったものが多いんだよねえ。寄進とかお仕事の報酬とかあるはずなんだけど、あまり、自分たちには使わないのかな。


 そんなことを考えていると、扉がノックされた。「ガイウス様、ベドジフです。」戻ってきたみたいだ。「どうぞ。」と声をかける。部屋の主に“どうぞ”って言うのはなんか不思議な感じだ。


 ベドジフさんは片手にお盆を持って入ってきた。お茶を持って来たみたいだね。


「お待たせして申し訳ありません。お茶汲み係などはいないものでして。」


「いらっしゃるところもあるんですか?」


「王都の教会では、見習い神官と見習い巫女がしていますね。他の町の教会はそれぞれではないでしょうか。少なくとも、ここでは、神父であれ司祭であれ、お茶などは自分で用意するようになっていますね。」お茶を置きながら答えてくれる。


「よいことだと思います。人は地位が上がると、自分自身の“格”まで上がったと勘違いする方がいますから。」


「ハハハ、12歳のガイウス様にそのような言葉を言わせるとは。さて、どんな大人だったのやら。」笑いながら僕の対面のソファに座る。


「とりあえず、12歳の子供が領地を得て辺境伯の地位を得ることに対して不満を言ったり、表情に出したりしていましたね。もう少し詳しく話します?」


「いえ、このお話はこれ以上は聞かない方がよろしいでしょう。中央のゴタゴタやネチネチとした感情は好きではありませんから。」


「ええ、そうですね。あ、お茶いただきますね。美味しいですねえ。先程のお言葉ですと王都にいたことが?」


「ええ、聖騎士団の医療団の団長としておりました。ガイウス様にお会いするまで、自分より優れた【ヒール】の使い手などそうそういないと、20年近く鼻高々となっておりました。ガイウス様の【エリアヒール】を見たら、すぐに折れましたけれど。」


 笑いながらベドジフさんは答えてくれたけど、聖騎士団の医療団の団長ってかなりすごいんじゃないかな。ちょっと鑑定しよう。


名前:ベドジフ

性別:男

年齢:42

LV:65

称号:治癒を極めし者、フォルトゥナ教教会インシピット支部神官長

経験値:32/100


体力:420

筋力:448

知力:450

敏捷:413

etc

能力

・識字 ・格闘術Lv.50 ・剣術Lv.63 ・槍術Lv.78 ・弓術Lv.75

・火魔法Lv.73 ・水魔法Lv.72 ・風魔法Lv.72 ・土魔法Lv.72

・防御術Lv.84 ・回避術Lv.82 ・騎乗Lv.54 ・気配察知Lv.64

・ヒールLv.92 ・リペアLv.0


 これは強い。いやいや、年齢による衰えはあるとはいえ、アンスガーさん越えって・・・。この人、本当に神官?武僧の間違いじゃない?ヒールLv.92って人やめているよ・・・。それに、治癒を極めし者って・・・。それにリペアLv.0ということは覚える可能性があるわけだ。凄いね。


 カップを持ったまま固まった僕を不思議そうに見ながら聞いてきた。


「ガイウス様、どうかされました?」


「いえ、フォルトゥナ様よりお告げがあったので。」


 咄嗟とっさに嘘をついた。でも、お告げ自体はさっきあったからセーフ、セーフ。というか、お告げの強者ってベドジフさんのことだったのか。


「おお、それは素晴らしい。それで、フォルトゥナ様はなんと?」


「ええ、“ベドジフ殿を臣とするは良き選択だと”」


 捏造ねつぞうですけどねー。でも、それに近いお告げは戴いているからいいよね。


「そうですか!?では、ガイウス様、わたくしを臣としてくださいますか!?」


 僕は笑顔を作りながら「ええ、もちろんです。」と答えた。ベドジフさんは「フォルトゥナ様に祈りを捧げなければ!!」と言って、部屋を出て行った。まだ、色々と話したいことがあったんだけどなあ。ご家族の有無とか、いるのなら引越しの許可は取ってあるのかとか、教会をめる段取りはしてあるのかとか。それと、なぜ、聖騎士団をめて、王都から離れたこの場所で神官をやっているのかを。

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