第101話 急患

 寄進のための手続きを終わらせ、孤児院にいたローザさんとエミーリアさんに「帰りますよ。」と声をかけ、礼拝堂でアキームさんに今日のお礼を言っていると、礼拝堂のドアが乱暴に開かれ、


「ガイウス!!【ヒール】だ。頼む!!」


 とアントンさんが血塗ちまみれの人を抱えて飛び込んできた。あ、レナータさんも抱えている。その後ろには冒険者らしき若い男女が3人。3人とも顔が真っ青になっている。


「あー、アキーム殿。少々、礼拝堂の隅のスペースをお借りしますね。」


「ええ、どうぞ。救済のためなら教会は協力を惜しみません。治療室の寝台に空きがあるかを見てきましょう。」


 そう言うと、アキームさんは礼拝堂から駆け足で出て行った。


「というわけで、アントンさんにレナータさん。その抱えているぐったりとしているお2人を、そこの隅に横たえてください。てみます。・・・うーむ。これは酷いですね。焼灼しょうしゃく止血法で血は止まっているみたいですが、骨までザックリいっていますね。相手はなんだったんですか?」


「ロックベアーだそうだ。町に戻る途中で遭遇しちまったらしい。クソッタレ!!俺たちが早めに行動しておけば。俺が昼に祈っていた連中だ。まだゴブリン討伐の常設依頼クエストから帰ってきてなかったから、探しに行くために俺とレナータが黒魔の森に入ったところで、ちょうど交戦中で助けに入った。止血はレナータがした。【ヒール】はそこの嬢ちゃんが魔法使いだから、何回かかけたが新米だからか、効果があまりなかった。」


「なるほど、わかりました。毒が無いのならば【ヒール】でいいでしょう。でも、傷口が深いので、強めに【ヒール】をかけますね。それと、そこの3人のお仲間さんも怪我をしていますね。ならば、【エリアヒール】。」


 金色こんじきまとった膜が、礼拝堂にいるみんなを包み込む。その時に礼拝堂に入ってきたアキームさんが、「こ、これが【エリアヒール】。」と驚いていた。さて、みんなの様子はどうかな。うん、重傷の2人の傷はちゃんと治ったみたいだ良かった。他の3人も自分の傷が治ったことに驚いているみたい。


「治ったみたいです。しかし失った血は戻りません。念のため目が覚めるまで、教会の治療室の寝台を借りましょう。アキーム殿、よろしいでしょうか?」


「ええ、それは、もう。さっ、こちらです。」


 重傷だった2人を、アントンさんとレナータさんが抱えて着いてく。他の3人もお礼を言ってから、その後を追う。しばらくして、アキームさんとアントンさん、レナータさんが戻ってきた。


「先ほどは素晴らしいモノを見せて頂きました。ありがとうございます。あのように金色こんじきの【ヒール】、しかも【エリアヒール】を見ることができ、感激です。」


「いえいえ、そうだ。アキーム殿のその傷跡も治してみましょうか?」


「ふむ、この傷跡は自分が未熟だったあかしです。その心を忘れないために、このままにしておきたいと思います。」


「わかりました。それと、先ほどの彼らはどうなりますか?」


「まあ、一晩泊まって頂き、明日の朝、体に不調が無ければ日常生活に戻ってもらいます。フォルトゥナ様のご加護を祈りましょう。」


「ええ、僕も使徒として祈ります。そうだ、これで、寝ている2人にお肉を食べさせてください。血を補わないといけません。銀貨1枚分ならそれなりの量が買えるはずです。」


「わかりました。お釣りはどうしましょう?」


「少なくなるとは思いますが、寄進します。彼らをお願いします。それでは、本日はここで失礼します。1週間後にはまた来ます。」


「はい、クスタにも改めて伝えておきましょう。」


「それでは。」


 そう言って、教会をあとにした。「ありがとうな。ガイウス。」とアントンさんが言ってきたので、「困ったときはお互い様ですよ。」と笑顔で答える。そうして談笑しながら門の外に出て、オツスローフの町から2kmほど離れてからすぐに【空間転移】でインシピットの町の近くの黒魔の森に戻る。


「うーむ、やっぱり便利だなぁ。コレ。流石は使徒様だな。」


 アントンさんがしみじみと言う。いや、好きで使徒になったわけではないんですけどねー。まあ、そんでもってインシピットの町の門を通る。時刻は17時30分をすでに過ぎている。門の所で、自宅に帰るアントンさんと別れる。僕たちも“鷹の止まり木亭”に戻り、夕食を摂る。あと、1カ月もしないで、ここともお別れかあ、寂しくなるね。夜は、レナータさんと一緒に寝た。


 朝、起きるとレナータさんの尻尾が、僕をグルグル巻きにしていた。手は自由だったので、揺すって起きてもらった。「ごめん。ごめん。」と笑いながら謝るレナータさん。いや、まあ、いいですけど、僕じゃなかったら全身の骨が折れていますよ?


 そんなことがあった4月25日の朝だったけど、みんなで予定の確認をしながら朝食を摂り、いつものようにギルドに向かう。道中で朝食時に引き続き今日の予定を話し合う。


「僕は、教会の神官長ベドジフ殿が会いたいということだったので、会いに行きます。それで、皆さんは、アントンさんと一緒に依頼クエストを受け黒魔の森ですね。」


「そうね。ユリアさんやレナータさんはそうでもないだろうけど、私とエミーリア、クリスティアーネは、もっと頑張って級数を上げたいしね。」


 そう笑顔で言うとエミーリアさんとクリスが頷く。その後も、談笑しながら歩いていると、ギルドに着いた。アントンさんはいつも通り、エレさんとお話し中だ。入ってきた僕たちに気付くと、


「おう、おはよう。今日はガイウスだけ別行動だな。」と声をかけてきた。僕たちは挨拶を返し、


「はい、ですので、臨時リーダーとしてアントンさんお願いします。」とお願いする。


「俺がか?ユリアさんではなく?」不思議そうに尋ねてきたので、ユリアさんが説明する。


「確かに、級数では私が一番上です。しかし、ブランクがあります。それに、アントンさん。貴方、ガイウス君に着いていって、ゲーニウス領で働こうと思っているでしょう?」


「なぜ、それをユリアさんが!?」


「エレから聞きましたよ。引っ越しするかもしれないってことで。」


「あー、なるほど。確かに、そう思ってはいますよ。」


「でしたら、率いる者としての経験を少しでも積んでおいた方がいいでしょう。ガイウス君はそういう人を求めていますから。」


「まあ、確かに。そうですね。わかりました。みんな、今日は、俺がリーダーをつとめる。よろしくな。」

 

 というわけで、リーダー問題にも片が付いて、僕とみんなはギルドで別れた。僕は、アンスガーさんへの面会予約をし、教会へと向かった。神官長のベドジフさんが会いたいって何の事でだろうね。心当たりがあり過ぎてわからないなあ。

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