第99話 クスタ
3,000字になってしまったので、いつもより少しだけ長いです。
**************************************
「クスタさん、立ってください。そして、ソファに座ってください。お話しをしましょう。」
そう言って、彼のペタンと寝た犬耳のついた頭を撫でた後、両手を取り、立たせる。僕よりも背が高い。165cmくらいはあるかな。そして、犬耳はモフモフだった。そのままソファに座らせる。すぐにアキームさんが隣に座る。
するとクスタ君の犬耳がピンと立つ。アキームさんは良い保護者のようだ。僕もソファに座り、改めて、右手を差し出す。そうすると、おずおずと、その右手にクスタ君の手が伸びてきた。その手をガッチリと掴み、笑顔で握手する。クスタ君のモフモフの尻尾が振られている。
「さて、クスタさん。今回、貴方に来てもらったのは他でもありません。僕は来月の末から、この旧ナーノモン領を治めることになります。その際に貴方の力を是非とも手に入れたい。そう思いました。」
「僕の力がですか?僕、体力とか魔力とか人並みにしかないんですけど・・・。あっ、嗅覚と聴覚なら、この通り、獣人なので優れてはいますけど、辺境伯様の
「ええ、僕は、貴方の頭脳に期待しています。」
「頭脳?」
「はい、まあ、まずはこれを解いてもらってもよろしいですか?【召喚】」
僕が受けた文官登用試験の問題用紙を【召喚】し、渡す。【召喚】の【能力】に驚いているようだけど、無視無視。あ、でも、今から始めちゃうと、お昼を挟んじゃうね。仕方がない。午後からにしよう。
「今からだと、お昼を挟んでしまいますので、午後にまた来ますから、その時に解いてもらっても構いませんか。」
「えっと、僕は構いません。アキーム先生、いいですか。」
「ええ、いいですよ。クスタの好きなようにしなさい。君のこれからの人生を決めることになるかもしれないのだから。」
「えっ!?人生!?もしかすると、解答を間違えたりすると、罰があったり・・・。」
「そんな理不尽なことはしませんよ。アキーム殿が言われたのは、文官として働く未来が選択肢として増えるということですよ。」
「あっ、そうなんですね。良かった~。」
ホッとしたような顔をするクスタ君。誤解が解けたようで、よかった。さて、柱時計の針は12時を
「アキーム殿、お時間もいいので、僕たちは一旦、失礼させていただきます。13時30分から、先ほどの問題をクスタさんに解いていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「クスタが構わなければ、
「僕も問題ありません。」
「では、そのように。」
そう言って、一旦問題用紙を回収し廊下に出ると、2人の人物が足早に向かってくるのが見えた。
「司祭様、神父様。お帰りなさいませ。」
アキームさんがそう言ったので目の前の2人が、この教会の司祭様と神父様だということがわかった。2人とも肩で息をしている。落ち着くのを待っていたら、いきなり
「フォルトゥナ様の使徒様をお迎えできずに申し訳ありませんでした。当教会の司祭を務めております“ガイオ”と申します。こちらが神父の“ルーベン”です。」
「ルーベンと申します。」
その後は、いつも通りの自己紹介をして、その場で別れた。なんでも、昼食後は、すぐに生まれたばかりの赤ちゃんの洗礼と祝福に行かないといけないらしい。ちなみに、午前中は、町の集会所でのお悩み相談会を開いていたそうだ。町の教会って、“人々の救済”のために結構いろんなことをしているんだよねえ。
少し、バタバタとしながらも、教会の礼拝堂に向かう。すでにアントンさんが来ていて、フォルトゥナ様の像に祈りを捧げていた。祈り終わるのを
「おう、すまんな。ギルドで会った、若手メンバーばかりのパーティの無事を祈りたくてな。」
と笑顔で言う。人格者だよねえ。「お昼に行きましょう」と言うと、「ギルドで美味いところを聞いてきた。」と云うことだったので、アントンさんの先導のもと、目的地へ向かう。
教会から歩いて10分かからないところにお店はあった。店名は“風と光の丘 オツスローフ支店”。見た感じ、老舗という雰囲気だ。扉を開け中に入ると、店内も木の柱が、長い年月で黒くなってきている。代わりにテーブルやイスは丁寧に磨いてあるのか、綺麗な
すぐに、ウェイターさんがやって来て、笑顔で、
「7名様ですね。ご予約ですか?」
と聞いてきたので、銀貨を1枚握らせ、貴族証を見せてから聞いた。
「いえ、違います。この人数が入れる個室はありますか?」
「別料金となりますが、ございます。この銀貨からお引きしてよろしいでしょうか?」
「あっ、その銀貨はチップのつもりだったのですが・・・。」
「当店は、そのようなものを必要とする高級店ではございませんので、チップは必要ございません。」
そして、小声になりながら、
「また、貴族様に対しても、特別扱いなどはしておりませんので、ご了承ください。」
「わかりました。」僕は頷く。
「それでは、こちらへどうぞ。」
店の奥の扉で区切られている個室に
「このお金で人数分のオススメの料理をお願いします。あ、食後はデザートも。お酒は必要ありません。ジュースか、無ければ果実水をお願いします。」
「承りました。本日は旬のデコポンのジュースとなっております。果実水はイチゴで御座います。カラフェでお持ちしますか?それとも、お1人ずつグラスに注いでの方がよろしいでしょうか?」
「カラフェでお願いします。」
「承りました。それでは、少々お待ちください。」
しばらくして、ジュースと果実水がカラフェに入り運ばれてくる。それぞれを注ぎ分ける。フォルトゥナ様へのお祈りをしてから、乾杯をする。うん、ジュースはやっぱり美味しいね。
その後は、料理が運ばれてきて、みんな、お腹いっぱいに食べた。とても、美味しかった。王都でも通用するんじゃないかな。デザートが運ばれてきて、みんなで食後の紅茶を楽しんでいると、扉がノックされた。「どうぞ。」と声をかけると、最初に対応してくれたウェイターさんが入ってきた。
「当店のお料理は皆さまのお口に合いましたでしょうか?」
「ええ、とても美味しかったです。また、来たいですね。」
「それはようございました。申し遅れました。
そう言って、
「当店は庶民の店ですので、お部屋代で高くなりましたが、このようなものですよ。」
と言うと、店の外まで見送りに出てくれた。アントンさんが「美味かったろ?奢らせてしまって悪かったな。」と言ってきたので、「まあ、今回はいいじゃないですか。僕が来たいと言ったわけですし。」ということで納得してもらった。
さて、教会に戻って、クスタ君の試験をしないとね。能力値だけの見せかけではないことを祈ろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます