第98話 勧誘

「それは国軍をめ、新たに創設される領軍に入らないかということですか。」


「はい、そういうことになりますね。」


 すると、ジギスムントさんは難しい顔になり、


「うーむ、本心としてはこのまま、新領となるゲーニウス領に残りたいです。家族もこの地に馴染なじんでおりますので。しかし、今のわたくしは規模が小さいとはいえ、方面軍の司令官という役職にいます。今すぐのご返答は出来ません。申し訳ございません。」


「謝る必要はありませんよ。そうだ!!近衛第1軍団長のウベルティ伯爵に仲介して戴いて、国軍に働きかけてもらいましょう。」


「クレート・ウベルティ様ですか!?いえいえ、とんでもない。あの方の手をわずらわせるのは・・・。」


「でも、クレート殿の三男、アダーモ・ウベルティ殿は、勧誘して家臣になってくださることになりましたので、クレート殿にはえんがありますよ。う~ん、それなら、国王陛下に直接お願いしてみますか。辺境伯の地位ならできますよね。」


「あっ、それはやめてください。わたくしの胃が破壊されます。」


 身体を壊してしまってはいけないね。まあ、確かに国王陛下は言い過ぎたかもしれない。軍務大臣様あたりにお願いしてみよう。アルムガルト家の力を借りてもいいかもね。なるべく、ジギスムントさんに負担のかからないように手回ししよう。国軍が退去する期限の5月末まであと、1カ月しかないからね。


「えーっと、とりあえず、伝手つてを使ってどうにかしてみますね。僕も穏便に済ませたいので。」


「はい。そのようにお願いします。」


 文官はどうしようかなあ、とりあえずユリアさんを筆頭にした組織作りをしようかな。問題は、その下につく人材だよなあ。父さんとじいちゃんはもちろんだけど、貴族・平民を問わずに募集することを周知しないとね。とりあえず、各ギルドにお願いしてみよう。そうだ、折角だから孤児院の子供たちからも勧誘してみよう。


「ジギスムント殿、勧誘の件は一旦、これで終わりにしましょう。お仕事にお戻りください。ご足労をかけました。」


「いえ、とんでもございません。それではわたくしはこれにて、失礼いたします。」


 ジギスムントさんが礼をして教会を出て行く。その姿を見送ってから、神官長のアキームさんに向き直り、


「騒がしくして申し訳ありませんでした。それで、アキーム殿、できればでいいのですが、孤児院の様子を見てもよろしいでしょうか?」


「ええ、構いませんが、何かお気になる点でも?」


「いえいえ、将来有望な子を今のうちに勧誘しておこうと思いまして。ローザさんとエミーリアさんという前例もありますから。」


「なるほど、それは、良いですね。ヌローホ村出身で孤児院を最初に出たのがローザとエミーリアだったので、他の子も冒険者になりたいと言って、冒険者稼業に着く子が何名かいたのですが、肌に合わなかったらしく、戻って来まして、読み書き計算は出来ますので、現在は商会などに勤めております。我々が上手く道を示すことができればよかったのですが・・・。」


「でも、命は、落とされていないのでしょう?ならば、しっかりと、自分の限界を、把握できていたということではないですか。それに、しっかりと教育をしていたからこそ、次の職にくことができたわけです。僕は、誇ってもいいと思いますよ。」


「ありがとうございます。ガイウス様。話しがそれてしまって申し訳ありません。それでは、孤児院のほうをご案内いたします。」


「お願いします。みんなは好きなように行動していいけど、どうします?」


 アントンさん以外は一緒に孤児院に行くとのことだった。アントンさんは、「冒険者ギルドを見てくる。」と言って教会を出て行った。12時ごろにまた此処ここで落ち合うことにした。孤児院に向かいながら、


「アキーム殿、すみませんでした。教会を勝手に待ち合わせ場所にしてしまって。」


「いえいえ、教会は目印としてはわかりやすいですから。わたくしも若いころ神官になる前は、よく教会の前で待ち合わせをしていたものです。」


「ありがとうございます。それと、失礼を承知ながらお聞きしたいのですが、お顔の傷はどうされたのですか?」


「ああ、これですか?この傷は、ヌローホ村がスタンピードで襲われた際に、ジギスムント様が率いる鎮圧部隊に教会から後方支援役として随行ずいこうしていた時に着いた傷です。乱戦になってしまい、ロックウルフの爪の一撃を貰ってしまいました。あの時は、必死だったので他人の傷を治すことしか頭にありませんでしたので、自分の傷の深さに気づいたのは戦いが終わってからでした。そのため、このように傷跡として残ってしまいました。ま、おかげで、お会いする方々にはすぐに顔を覚えてもらえますので、怪我の功名といったところでしょうか。ハハハ。」


 傷跡を撫でながら、照れたようにハハハハと笑うアキームさん。なるほど、この人も修羅場をくぐり抜けてきた人なんだ。


「さっ、孤児院に着きました。今は座学の時間ですので、みんな室内にいると思います。」


「ありがとうございます。それでは、見学させていただきます。」


 廊下を歩きながら孤児たちの教育の様子を見る。そして、しっかりと【鑑定】をしていく。おっと、これは、凄いね。13歳で知力が他の子よりもずば抜けて高い子がいる。アキームさんに、座学が終わり次第その子を呼んでもらうようにお願いして、見学を続ける。


 見学が終わり、教会の応接室でソファに座りながらアキームさんと談笑しながら待っていると、“チリーン、チリーン”と鈴の音が鳴った。「座学が終わったみたいですね。呼んできますので、少々お待ちを。」と言って、サッと部屋を出て行った。数分後、アキームさんに連れられ、犬獣人の男の子がやって来た。まあ、僕よりも年上なんだけどねー。さて、まずは挨拶だ。ソファから立ち上がり、


「こんにちは、わたくしは、ガイウス・ゲーニウス。このたび、辺境伯としてこの領を任されることになりました。よろしく。」


 そう言って、右手を差し出す。


「ク、クスタと申します。辺境伯様、よ、よろしくお願いします。」


 そう言って、ひざまずいた。う~む。僕のこのやり場のない右手はどうするべきなんだろう。

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