第79話 サプライズ?

 今や練習場の観覧ブースではレナータさんの圧倒的な能力に対する称賛の声、また、そのような相手に勇敢に立ち向かったアントンさんの健闘をたたえる声で満ちていた。それと、賭けで負けた絶望の声がちょっとだけ。賭け事は余ったお金でするのが一番だよね。うん。


 観覧ブースから練習場に足を踏み入れ、レナータさんのもとに向かう。すると彼女も僕に気づいて走って来て、両手を広げダイブしてきた。僕は彼女を受け止め、勢いを殺すためにその場で何回転かする。回り終わり、レナータさんが両足を地面に付けると、彼女は笑顔で「勝ったよ。」と言い、僕の頬にキスをしてきた。その様子を、目から光が消えたクリス達と笑顔だけど目が笑っていないユリアさん、そして、独身冒険者の男性たちが嫉妬しっとのこもった目で見ていた。


 これはまずいと思い、彼女をそっと離し、アントンさんの治療に向かう。【風魔法】の【エアークッション】が勢いを殺したとはいえ、アッパーを喰らった顎の骨がずれているようだった。すぐに【ヒール】をかける。顎が元に戻ると、全身にまんべんなく【ヒール】をかけていく。最後に、頭に【ヒール】をかけるとアントンさんは目を覚ました。起き上がった彼は、


「いやはや、本当に強かった。目が追い付かんかったよ。ハハハ。さすがガイウスが連れてきただけのことはある。ハハハ。」


 ハハハハと豪快に笑った。「他に痛むところはありませんか?」と聞くと、「肩こりも治って、試合する前よりも好調だよ。ありがとな。」と頭をクシャッとなでられた。アントンさんは良く通る声で「レナータ嬢!!」と名を呼び、クリス達と話していたレナータがこちらを向く。


「楽しかったよ!!ありがとう!!それと、これからよろしくな!!」


 笑顔でサムズアップをした。レナータさんは最初ポカンとしていたけど、すぐに笑顔になり、


「こちらこそ、よろしくね。」


 とサムズアップで返した。いやあ、遺恨いこんが残らなくてよかった。そう思っていると、「ガイウス殿!!」と凛とした声が聞こえた。声が聞こえた方を見ると冒険者パーティ“ドーンライト”のリーダー、ベルタ・プライスラーさんが観覧ブースから手を振っていた。どうしたんだろうと思い、立てるようになったアントンさんと一緒に彼女の元へ向かう。


「おはようございます。ベルタさん。」


「おはようございます。ガイウス殿。それと、アントン殿・・・でよろしかったでしょうか?」


「おう、おはよう。アントンであってるぞ。ベルタ嬢、俺は外そうか?」


「あ、いえ、聞かれたらマズイという話ではありませんので、大丈夫です。それに、ガイウス殿のパーティメンバーなのでしょう?パーティメンバーの方々にも多少関係があるので問題ありません。」


 彼女の言葉に僕とアントンさんは顔を見合わせる。ふむ、パーティメンバーにも関係するなら、クリス達に声をかけないといけないね。先にベルタさんとアントンさんに併設食堂の席取りをお願いし、レナータさんをねぎらっているクリス達のもとへ行く。クリス達に事情を説明すると、ジト目で見られた。あれ?


「ガイウス殿はまた増やされるのですか?」


「増やすってパーティメンバーのこと?いやいや、ベルタさんは“ドーンライト”のリーダーだよ?」


「違いますよ。また、を増やすのですかという意味です。」


「いや、そんなことはないよ。うん。って、なんでローザさんもエミーリアさんもユリアさんもそんな目で見るんですか!?あ、レナータさん。関係ないって顔しないで下さいよ。少なくとも昨夜の騒動は貴方が原因なんですからね!?」


「まあ、私のことはどうでもいいじゃない。ね?ガイウス君。」


「どうでもいいって・・・。ハア・・・。兎に角!!“ドーンライト”のリーダーであるベルタ・プライスラーさんが、僕たち“シュタールヴィレ”に話しがあるそうなので、併設食堂に行きましょう。あ、そういえば、賞金・・・。」


「私が受け取っておいたわよ。ガッポリねガイウス。はい、どうぞ。」


「ありがとうございます。ローザさん。では、行きましょう。」


「・・・なんか話しがはぐらかされた気がする・・・。」


 また蒸し返すようなことを、ボソッと言わないで下さいよエミーリアさん。まあ、他の4人が聞こえていない振りをしてくれて助かったけど。


 さて、やってきました併設食堂。ユリアさんは途中で受付に戻っていったので、今いるのは僕含めて4人だ。アントンさんとベルタさんは・・・。あっ、いたいた。手招いている。アントンさんの体が大きいからすぐわかるね。ここの席は他のと比べると奥まったところで、他の席と程よく離れている。内緒話をするにはもってこいだね。


 さて、全員が席に着き、飲み物が運ばれてくるとベルタさんが改めて先日のお礼を言ってきた。その件を知らないアントンさんは首をかしげていたけど、僕がつまんで説明すると、「よくやった。」と褒めてくれた。


「えーっと、お礼を言いたいだけで僕を呼んだのではないですよね?」


「はい、本日はお礼を差し上げようとしてお呼びしました。」


「その件は、ギルドマスターがお預かりしていたはずでは?」


「はい、アンスガー・アルムガルト様ともお話しして決めたことです。」


「わかりました。それでは、お聞きしましょう。」


「はい、我がプライスラー家より騎士爵をお与えしたいのです。」


 わーお、また、面倒くさいことに巻き込まれた気がするぞー。ねえ、なんでみんなこういう時は目を逸らすのさ!?

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