第78話 冒険者7日目の朝

 レナータさんをお嫁さん候補に加えたことにより、その夜に僕は、童貞を捨てる寸前になりました。危なかった。クリスとユリアさんと同衾する日だったわけだけど、何を吹き込まれたのか、クリスがロープで蓑虫みのむし状態の僕の童貞を奪おうと飛びかかってきた。チート全開で逃げたけど、あの目は獲物を狩る目だった。ちなみに、ユリアさんはその様子を微笑ましく見ていた。いや、助けて欲しかったんですけど・・・。


 大体、2時間くらいドッタンバッタンして、「まだ、精通していないんだ!!」と言ったら、クリスは諦めてくれたから、まあ良かった。代わりに僕の心はダメージを負ったけど。その後は、普通に下着姿の2人と同衾しましたよ。僕はもちろんいつも通り寝間着をしっかり着ていたけど。


 ということが昨晩あって、僕は少し寝不足の状態で冒険者生活7日目の朝を迎えた。もう1週間経ったんだなぁという思いよりも、今日までの過ごしてきた内容が濃すぎて、まだ1週間しかっていないんだという思いの方が強いよ。起きて着替えていると、ユリアさん、クリスの順で起きてきた。2人とも、“おはよう”のキスを頬にしてきた。僕も2人の頬にキスをした。クリスは昨日の夜の行動が嘘のように顔を真っ赤にしていた。恥ずかしかったなら、しなければよかったのに。


 さて、レナータさんを新たに加えた5人で朝食をとる。アンゲラさんが「ガイウス君は可愛い顔してなかなかやるわね。」って言っていたのが気になるけどね。フランキスカちゃんは、純粋な笑顔で「お姉さんがまた増えたね!!」と言ってくれたけど、なんというか、周囲の視線がですね、こう妬みをもって突き刺さって来るんですよ。まあ、男性冒険者が多いから仕方ないのかもね。


 さて、朝食が終わればギルドに向かう。ユリアさんは僕たちよりも一足早くギルドへ出勤した。僕はボコボコになった鎧は着ず、鎖帷子くさりかたびらと革鎧のみの軽装状態だ。早くフルアーマーになりたいね。ギルドではアントンさんが既に来ており奥さんで受付嬢のエレさんと雑談していた。僕たちに気づくと近づいて来て、


「おはよう。昨日はありがとな。ほい、これ釣りだ。」


「おはようございます。昨日のことはパーティリーダーとして当然のことですから。あ、御釣りありがとうございます。貰ってくれてもよかったんですよ?今後も祝勝会とかで、みんなで楽しく飲食できる機会が増えるといいですね。」


 すると、顔を近づけ小声で、


「いや、金のやり取りはしっかりせんといかんぞ。ガイウスよ。お前さんが来週に開講する予定の【エリアヒール】の講習会は銀貨1枚だったか、あれは今後、値を上げるべきだ。そうせんと、【エリアヒール】の希少性と重要性が薄れるからな。人間、むやみやたらにどんなモノでも金のかかっているモノの方が良いモノだと思うふしがあるからな。ただ、お前さんの多くの冒険者に【エリアヒール】を取得してほしいという思いは素晴らしいと思うぞ。」


 そう言った後は、顔を離し、


「そういえば、そこの龍人ドラゴニュートの確か・・・レナータ嬢だったか?お前さん、ガイウスのパーティに加入するんだろう?なら、今のうちに手続きをしたらどうだい。それと、3級冒険者の実力が気になるから、いっちょ手合わせを願いたいのだがいいかな?」


「ええ、私は構わないわよ。いいかしら、ガイウス君。」


「お2人がよいのであれば、どうぞ。ただ、レナータさん、本気出し過ぎないでくださいね。」


「保証は出来ないわね。まぁ、でも、やってみるわ。」


「おいおい、そんなに強いのかい?このレナータ嬢は?」


「確実に。僕よりも強いですよ。」


「なら、ますます実力を見たくなった。パーティ加入手続きが終われば、すぐに手合わせしよう。なに、死ななければリーダーとエミーリア嬢が治してくれるだろうさ。」


 そういうわけで、練習試合をすることが決まった。話しを聞いていたユリアさんがすぐに練習場をおさえてくれ、エレさんはレナータさんのパーティ加入処理を終わらせてくれた。ギルドの人たちって何気なく有能さを発揮するんだよねぇ。縁の下の力持ちとはちょっと意味が違うけど、おかげで僕たち冒険者も安心して活動できるわけだし。


 さて、3級のレナータさんと準3級のアントンさんが勝負するというのは、すぐにギルド内に広まり、観覧ブースは満席になった。ちなみに今回も賭けが行われているらしく、アントンさんが優勢だ。まあ、見た感じだと腰に長剣を佩いた綺麗なお姉さんとデッカイ大剣を背負った筋骨隆々の男性だからねぇ。


 でも、実力を知っている僕たちは全員レナータさんに賭けた。パーティメンバーの僕たちがレナータさんに賭けたのを見て“しまった”という顔をしている人が何人かいたが、しっかりと下調べをしない方が悪いんだよ。今回はね。


 さて、ユリアさんが2人の間に出てきて開始の合図をした。レナータさんは無手でやるらしく、アントンさんに先手を譲った。アントンさんは、「ありがたく。」と言い、木の大剣で斬りかかる。すると、レナータさんは左手の人差し指と中指の2本の指のみで大剣を挟み込み、そのまま右手で剣の腹に掌底を喰らわせ折った。そのまま、アントンさんの懐に潜り込み、顎にアッパーを華麗に決めて、アントンさんは宙を舞った。


 あ、落下する角度が悪い。頭から落下してしまう。アントンさんは気絶しているようだ。


「「「【エアークッション】!!」」」


 僕とユリアさん、レナータさんの3人同時の【風魔法】の【エアークッション】が発動し、アントンさんはそこに軟着陸した。ホッとすると同時に、ユリアさんがレナータさんの勝利を宣言する。観覧ブースは一斉に沸いた。

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