第61話 狩られる側から狩る側へ

 周囲の木々が、地面が、振動で揺れる。僕の視線の先には無数と思えるほどのロックウルフが接近している。そんな中、ただ静かに弓を構え【風魔法】をまとわせ矢を放つ。矢が無くなると、【召喚】して補充する。矢によってピンポイントで、目や口の中を射られたロックウルフたちは走る勢いそのままに死体となり転がる。後続のロックウルフたちはそんな仲間など無視して突っ込んでくる。


 僕は、弓から短槍とソードシールドに持ち替えて腰を落とし構える。最初の獲物には短槍をお見舞いした。かたい体毛でおおわれている腹部に、熱せられた穂先が深々と突き刺さる。驚いたような表情をしながら、死んでいく。残念だったね。今まで君たちは人間を狩る側だったんだろうけど、チート持ちの僕は狩られる側じゃなくて狩る側なんだ。


 【風魔法】をまとわせたシールドバッシュで、ロックウルフたちを吹き飛ばし、追撃に【水魔法】の数十発のウォーターバレットを、銃弾のように高速回転(銃弾が回転しているってのはジョージに習ったんだよー。)を追加し喰らわせる。ただのつぶての状態よりも威力は上だろう。案の定、固い毛皮を上手く貫通できた。血を吹きながら倒れるロックウルフ。しかし、まだ、次が来る。短槍で薙ぎ払い、ソードシールドで刺し潰し、【水魔法】と【風魔法】のバレットで穴を穿うがつ。


「おかわりはいらないんだけどなぁ。しかし、ロックウルフリーダーは後方で指示を出しているだけか。一気に後方を叩くかな。でも、リーダーを失ったロックウルフたちの動きが読めない。下手をすると町まで行くかもしれない。なら、地道に数を減らすしかないよねえ!!」


 さらに【水魔法】と【風魔法】のバレットを乱射する。視界のいたるところで血の花が咲き誇る。しかし、その数よりも多くのロックウルフが向かってくる。すると、“ウオォォォォォォン!!”と遠吠えが聞こえた。さっき、グレイウルフの家族が去っていった方向からだ。まさかと思い【気配察知】で探ると、その方向から移動してくる集団がいる。あっという間に、強化された僕の視力で視認できる距離まで来た。


 グレイウルフの群だ!!彼らは、僕を無視してロックウルフたちに跳びかかっていく。ロックウルフ1体に対してグレイウルフ3匹で対峙している。彼らのチームプレイは見事だ。1匹がロックウルフの注意を引き、残りの2匹が両サイドからロックウルフの目を潰し、痛みにロックウルフがのけ反ったところに喉元に噛みつき、鼻先に噛みつき、頭部に噛みつき、振り回しロックウルフが動かなくなるまでそれを繰り返す。


 形勢逆転とまではいかないけど、ロックウルフたちの勢いが落ちた。僕も負けてられない。グレイウルフにばかり活躍はさせられないね。誤射があるといけないからバレットを乱射するのをやめて、完全な接近戦に切り替える。剣舞のように(短槍とソードシールドだけど)ロックウルフをほふっていく。大体、半分くらいは仕留めたかな。


 すると、背後から、


「随分と、面白い状況になっていますこと。ねぇ、ローザ殿、エミーリア殿。」


「ホント、野生動物が助けに来るなんて、まるで英雄物語ね。」


「私たちをあんなところに閉じ込めたガイウスは後で折檻せっかん。」


 体はロックウルフをほふりながら、視線だけ背後にやると、鋼鉄の壁からクリスティアーネ達が出てきていた。驚きながらも、ロックウルフをほふるのをやめず、声だけ掛ける。


「いったいどうやって出てきたのさ!!」


「鋼鉄と言っても結局は金属でしょう?わたくしとエミーリア殿の【火魔法】で根気強く熱し、人1人が通れる穴を溶かしてきたのですよ。おかげで、わたくしたち汗だくです。」


「この、10分かそこらの時間で!?もっと、壁を厚くすべきだったかな。でも、出てきたものは仕方ない。さっきと同じで3人1組で行動すること!!全く、そんなに戦いたかったのかい?」


「ガイウス殿のそばから離れたくなかっただけですわ。他の2人もです。」


 僕は、【風魔法】を何重にもかけたシールドバッシュでロックウルフたちを吹き飛ばし、クリスティアーネ達と向かい合った。フルフェイスのかぶと越しに、彼女たちと目が合う。


「申し訳なかった。クリスティアーネ達を少しでも安全な場所に、と思って取った行動だったけど、3人の気持ちを裏切る結果になってしまった。これからは、そんなことをしないと、今、誓う。お叱りの言葉はこの戦闘が終わってからだ。生き残るよ。そして、グレイウルフたちも含め、誰も死なせない!!」


 3人が笑顔で頷くのを確認すると、僕はロックウルフが1番密集している所、つまり、ロックウルフリーダーの目の前まで、ロックウルフをほふりながら全力で駆け抜けた。ロックウルフリーダーの所までは30秒とかからなかった。彼(彼女?)の周りには、他のロックウルフよりも体躯のよいロックウルフが150体ほどいた。が、到着した瞬間に狩り尽くした。1分はかからなかったかな。


 その様子を見ていたロックウルフリーダーが後退あとずさりしながら、吠える。すると、さっきまで散らばって、グレイウルフ達やクリスティアーネ達と対峙していたロックウルフの生き残りが集まった。大体50体かそこらだったので、一瞬で狩った。その瞬間、ロックウルフリーダーの顔が絶望に染まったように見えた。


「さて、最後に神に祈るのを許してあげようか。もちろん、フォルトゥナ様以外のだけど。まぁ、この言葉も通じてはいないから意味ないか。スピード感のある戦いは楽しかったよ。それじゃあね。今度は魔物以外に生まれるといいね。」


 そう言って、一気に間合いを詰める。普通のロックウルフより2周りは大きいロックウルフリーダーは最期の抵抗とばかりに右前脚で薙ぎ払うように攻撃を仕掛けてきた。それをソードシールドで受ける。シールドの穂先が深々と右前脚に刺さる。そのまま地面に縫い付ける。そして、短槍を下顎したあごから突き入れ、一気に脳まで差し込む。しばらく、暴れていたロックウルフリーダーだったが、次第に目から光が無くなり、動かなくなった。


 こうして、戦闘は一段落した。あとは、後始末だねぇ。あ、あと3人からのお説教と折檻せっかんか・・・。

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