第19話 依頼達成報告と昇級
ジョージを【送還】しゴブリンの集落跡に立っていると、【気配察知】に引っかかるものが複数あった。すぐにその気配とは反対側の藪に飛び込み息を殺して何が来るのか待った。気配の大きさからウルフ系でもスライム系でもないし、ゴブリンでもない。なにが出てくるのか見ているとオークが数体森の中から出てきた。そのうち一体は他のオークよりも体躯が立派だった。
倒せないことはないだろうけど、今日は引くことにしよう。オークたちはゴブリンの集落跡を見て何か騒いでいたので、それに紛れてそっとその場をあとにした。
町に戻るまでは全力を出して走っていった。途中、魔物が出てきたりしたが勢いの乗った籠手による一撃で狩っていき、全て【収納】していった。
森から出ると普通の人が走るくらいの速度に落として門まで走った。門に着いて列に並んで順番を待つ。そろそろ僕の番だというときに、
「ガイウス!!」
と声をかけられた。ドルスさんが詰所の方から手招いている。検査をしている衛兵さんに視線を向けると頷いたので、僕は列をはずれドルスさんの方へと向かった。
「何かありましたか?ドルスさん。」
「丁度良かった。報奨金の計算が終わったから冒険者ギルドに人を遣ろうとしていたんだ。生憎と指名手配のヤツはいなかったから通常通りの報奨金しか出せなかったけどね。これが報奨金。1人当たり銀貨10枚だから金貨2枚に銀貨30枚だよ。」
「確認させてもらいますね。・・・・はい、確かに確認しました。ありがたく頂戴します。」
「ふう、これで一仕事終わったよ。ガイウス君は
「はい、
「ゴブリン討伐も立派な冒険者の仕事さ。襲われる人が少なくなる。」
「そうですね。それでは、
「あぁ、気を付けて。あと、まだ日も高いから屋根を伝っていくのも無しだよ。」
僕は「はぁい。」と言って詰所をあとにして、冒険者ギルドへと向かった。ギルドにつくといきなりローザさんとエミーリアさんに謝られた。なんでも、一緒に
気にしていないことを告げ、盗賊の報奨金を貰ったことを伝えると、
「その報奨金はパーティの共同資金としましょう。」
とローザさんから提案があった。エミーリアさんも賛成のようだった。僕も異論は無かったので、報奨金の金貨2枚に銀貨30枚はパーティの共同資金としてギルドに預けることにした。
さて、依頼(クエスト)達成報告とお金を預けるために受付の列に並ぼうとすると、僕の存在に気付いた人たちが一斉に分かれて受付の窓口までの道を開けた。みんな口々に「ガイウスさんだ。」「あのアントンさんを倒したガイウスさんだ。」「やべぇ、目付けられたりしてないよな。」などなど好き勝手に言ってくれちゃっている。
まぁ、せっかく譲ってくれたんだからありがたく受付に
そんなことを考えていると、ユリアさんから声をかけてくれた。
「ガイウス君。
「はい、それとシュタールヴィレ名義でギルドにお金を預けたいのですが。」
「では、まずはお金のほうから手続きしましょうか。いくら預けますか?」
「金貨2枚と銀貨30枚です。」
「わかりました。今から預かり証を発行します。エレ、このお金をギルドで預かるから預かり証の発行をお願い。名義は冒険者パーティのシュタールヴィレで。枚数は3枚でよかったかしら。」
「はい。ローザさんとエミーリアさんの分も含めて3枚でお願いします。」
「ということで、お願いね。エレ。」
「はい、ユリアさん。」
ユリアさんが受付の奥で事務作業をしていた猫獣人の女性に声をかけた。ちなみにエレさんも美人だ。ギルドの受付には美人さんしか居ないのかな。
「ではガイウス君は発行が終わるまでの間に
「はい。ゴブリン討伐は無事終わりましたが、討伐証明部位などがかさばってしまっていて、どこか広い部屋はありませんか?」
「では、こちらへ。誰か受付を変わってもらってもいいかしら。」
「私がします。」
「メリナお願いね。私は
今度は普通の人族の美人さんが出てきて、ユリアさんの後を引き継いで受付の席についた。
「ガイウス君、こっちよ。着いて来て。」
「はい。」と返事をしてユリアさんの後をついて行き「処理・解体室」と書かれた部屋に着いた。ユリアさんがドアを開けて入室を促すので中に入った。ユリアさんも入ってきた。中にはギルド職員と思える男の人たちが、魔物の解体や討伐部位の確認などを行なっていた。広さ的には練習場より少し狭い程度だろうか。
「ユリアか。受付にいるお前さんがこんな所に来るなんてどうした?」
背の低いがっしりとしたおそらくドワーフと思われる男の人が声をかけてきた。
「グレゴリーさん、こちらの冒険者ガイウス君が先ほど
「なるほど。わかった。ガイウスとかいったな。お前さん魔法袋持ちか?」
「はい、そうです。」
「それなら、量があるのも納得できる。とりあえず、あそこの空いているスペースに出しておいてくれ。その間に手の空いているやつを連れてくる。」
グレゴリーさんの指さしたところまでユリアさんと共に行き、麻袋から出すふりをして【収納】からロックウルフ、フォレストスライム、ゴブリン達の死体と討伐部位を出していく。ロックウルフは37匹、フォレストスライムは54体、普通のゴブリンは討伐部位の右耳が877個、上位ゴブリンの死体が・・・。
「ちょ、ちょっと待ってくれる。」
「どうしました?ユリアさん。」
上位ゴブリンの死体を取り出そうとしたらユリアさんからストップがかかる。
「ガイウス君。これって、今日の昼過ぎから狩った魔物たちよね?」
「そうですね。午前中はアントンさんとの試合がありましたから。あとは上位ゴブリンとゴブリンキングの死体だけです。」
「ゴブリンキングですって!?ゴブリンの耳の数を見てまさかとは思っていたけど、巣ができていたの?」
「あ、はい。柵で周りを覆って物見櫓のある集落ができていたので殲滅してきました。集落も徹底的に破壊しましたので、他の魔物が住み着く可能性は低いかと思います。」
驚いているユリアさんに説明をする。ただ、呂布たちのことは伏せておく。まだ、僕の能力を明かす気にはなれない。実力を十分に付けるまでは。
「いやぁ、流石にアントンを倒しただけのことはあるね。聞こえていたよ。2級相当のゴブリンキングを倒すなんて将来有望だ。」
不意に後ろから声をかけられて振り返るとサブギルドマスターのアラムさんと知らないお兄さんが立っていた。お兄さんのほうはグレゴリーさんが言っていた人だろう。
「いやぁ、ホントに今日はガイウス君に驚かされる日だ。まだ冒険者になって2日の10級冒険者がゴブリンキングを倒して1000体近いゴブリンを討伐し、しかも他の魔物まで狩る余裕まであるなんて。いやぁ、愉快、愉快。」
「サブギルドマスターもういいでしょう。どいてください。仕事ができません。」
アラムさんを邪魔そうに横に押しのけてお兄さんが前に出てきた。
「やぁ、君がガイウス君だね。俺はデニス。査定や解体を主にしているんだ。よろしく。」
手を出してきたので僕も手を出し握手をする。
「とりあえず、残りのモノを出してもらっていいかい。」
デニスさんに促され、上位ゴブリンとゴブリンキングの死体を出した。
「ハハッ。本当にゴブリンキングだ。素晴らしい。これはギルドマスターにも報告しなくてはな。」
そう言うとアラムさんは部屋から出ていった。残ったのは僕とユリアさん、デニスさんの3人。デニスさんは早速、査定の仕事を開始した。僕とユリアさんは少し離れてその様子を見ている。
僕は今のうちにゴブリンの集落で見つけた遺体について話すことにした。
「ユリアさん。実はゴブリンの集落でおそらく人だったと思われる遺体を発見したので、回収してきたんですがどうしましょう?」
「おそらくとはどういうことですか?」
「どうもゴブリンの食糧とされていたみたいで遺体の損壊が酷いんです。遺体の周囲にあった装備品も遺品かと思い回収してきています。」
「それなら、確認しましょうか。デニス。私は他に確認しないといけないモノがあるそうなのでそちらの確認をしていますから、査定が終わったら声をかけてください。」
「わかりました。ユリアさん。」
デニスさんは手を休めずに応える。ユリアさんに促され端の方へと移動する。そこで6名分の棺をだす。棺の脇には遺品が入った袋を置く。ユリアさんが棺を一つ一つ開けながら確認していく。そして、最後の二つを開けたところで、「あぁぁぁ・・・」と言って顔を手で覆った。
「どうかしましたか。まさか、お知り合いとか?」
「えぇ、あの最後の棺に入っている男女は6級冒険者のアルバートとドリーです。おそらくあの袋の中に冒険者証があるでしょう。」
袋をひっくり返してそれらしいものを探すがなかなか見つからない。そこに目を赤くしたユリアさんが加わって2人で探す。しばらくして見つかった。背嚢とウエストポーチの中にそれぞれ入っていた。これで6名中2名の身元はわかったわけだ。良かった。
残りの4名はどうしようと思っていると、ユリアさんが、
「残りの方々は冒険者ではないみたいですので、一旦ギルドで預かり衛兵隊に身元不明で引き渡します。よろしいですか?」
と提案してくれたので、2つ返事で了承した。衛兵隊に渡す棺の蓋を閉じ終わると、
「ところで、ガイウス君はなんで棺なんてモノを持っていたんですか?」
あぁ、一番答えられない質問が来たよ。どう答えよう。
「答えられないんですか?」
深緑の瞳に真正面から見つめられる。美人なユリアさんにこんな状況でも見つめられると恥ずかしい。もう正直に答えて・・・
「ユリアさん。ガイウス君。査定が終わりましたよ。」
デニスさんがいいタイミングで声をかけてくれた。これで誤魔化せる。
「すみません。デニスさん。実は昨日、盗賊を討伐したときの財貨の査定とゴブリンの集落で見つけたモノの査定もお願いするのを忘れていました。」
「ん、そんなことぐらいなら今すぐにでも出来るよ。さぁ出して。」
「あの、こういうのも図々しいんですが、盗賊から奪った分は別会計でお願いします。」
「了解。ところで、ロックウルフは解体していないみたいだけど解体して素材を持って帰るかい?」
「いえ、今回は全てギルドに売ります。」
「わかったよ。それじゃあ、待合室か酒場で待っていてもらっていていいかな。終わったら俺が査定カウンターに呼ぶから。」
「あ、はい。よろしくお願いします。それじゃあ、失礼しました。」
ユリアさんが何か言おうとしていたけど、僕はさっさと「処理・解体室」を出てギルドの待合室に戻った。ふぅと一息ついていると、肩をトントン叩かれた。振り返るとアラムさんが笑顔で立っていた。
「おめでとう。ガイウス君。君は今日から3級だ。」
「お断りします。」
即、断った。なんで一気に3級まで上がるのか。変な話題になるに決まっているし、何かに巻き込まれるような気がする。
「名誉なことだよ。ゴブリンキングが統治している集落でキングを討ち、その配下のゴブリンも全て討ち取るなんてまさに偉業だ。放置していれば近くの村やこの町が襲われていたかもしれないからね。」
「それでも3級は嫌です。9級なら昇級してもいいです。」
「それじゃあ、臨時報酬と9級への昇格ね。これ以上は譲れないね。ギルドマスターの顔を潰すことにもなる。」
「はぁ、それでいいです。」
「じゃあ、冒険者証を出してね。更新するから。」
10級の証明である木板の冒険者証をアラムさんに渡す。アラムさんは受付カウンターの中へと消えていった。僕はすぐ近くの椅子に腰かける。疲れた。
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