第18話 戦いの後始末

 さて、これからは後始末の時間だ。普通のゴブリンの死体からは討伐部位の右耳を削ぎ取り、上位のゴブリンは死体まるごとを【収納】していった。もちろん、僕1人だけでは日が暮れてしまうのでみんなでだ。

 

 右耳がないゴブリンの死体の山がいくつもできる。ある程度、討伐部位の削ぎ取りが終わったら兵士の半分にゴブリンの集落で財貨を探索させている。あまり期待はできないが何かあるだろう。

 

 あとは、このゴブリンの死体と集落をどうやって処分するかだ。僕が火魔法を使えればすぐ済むのだろうけど、残念ながらまだ覚えていないから使えない。しかし、このまま放置すればアンデット化する可能性がある。集落は他の人型の魔物が居付く可能性があるから徹底的に破壊しなければならない。

 

 そうこう、悩んでいると集落の探索が終わったようだ。めぼしい財貨はあまりなかったそうだ。20kgは入る袋1つ分だったので【収納】した。

 

 捕らわれている人はいなかったが、おそらく数人分ではないかという遺体があったそうだ。食糧として置いてあったそうで原型を留めていなかったそうだ。その人たちの個人が特定できるものは袋に入れて持ってきてくれた。僕はそれを【収納】する。これはギルド経由で遺族に還せるなら還したい。とりあえず人数分の棺桶を【召喚】して、その棺桶に遺体を入れて持ってくるよう命じ、遺体の入った棺桶も【収納】した。


 ゴブリンの死体の山と集落の処分は呂布達を【送還】したあとにすることにした。全員、呂布を先頭に綺麗に整列している。呂布、高順、張遼、500人の騎馬隊と歩兵隊の混成部隊に欠員はいない。もちろん怪我人もいない。本当は負傷した兵は結構いた。【召喚】した存在だからそのままでもよかったのだが【ヒール】のLv上げのため全員の怪我を治した。おかげで【ヒール】はLv.7になった。ちなみに呂布からはハルバードを返してもらった。

 

 僕は急ごしらえのお立ち台に乗り皆の前に立った。


「みんな、よくやってくれた。みんなの働きで1人も欠けることなくゴブリンどもを殲滅できた。君たちは【召喚】された者だから僕から報奨を渡すことはできない。その代わりに感謝の言葉を送りたい。ありがとう。」


 そうすると呂布を筆頭に全員が膝立ちで顔を下げ拝礼した。


「ありがたきお言葉。我ら全員ガイウス殿の力になれたことを喜んでおります。また我らの力が必要になれば何時でもお呼び下され。」


「ありがとう。呂布。それでは、みんな、また逢う日までさらばだ。【送還】!!」


 呂布たちの下に光と共に大きな魔法陣が現れ、光が収まるとそこには誰もいなかった。残ったのは僕とゴブリンの死体の山と集落だけだ。よし、もう一仕事だ。


 この目の前のゴブリンの死体の山と集落を消滅させてくれる存在を召喚しよう。


「すべてを灰燼に帰すモノよ【召喚】」


 そうすると目の前の地面に光と共に魔法陣が現れ、光が収まると濃さの違う緑色を斑模様(まだらもよう)に配した奇妙な装備を付けた男が一人いた。そして、空からは、「ゴオオォォォォッ」という腹に響く音が聞こえた。見上げると4羽?の鳥?のようなものが飛んでいた。しかし、鳥と違い翼は真っすぐで羽ばたかず何かを吊り下げており、お尻の方には大きい樽のようなものが2つ付いていた。


 目の前の男に視線を戻すと姿勢を正し、開いた手を額の付近に上げ挨拶してきた。おそらくこれが彼の所属する組織の敬礼なのだろう。


「統合末端攻撃統制官のジョージ・マーティン空軍中尉であります。指揮官ご命令を。」


「召喚主のガイウスだ。えーと統合まったん・・・」


「JTAC(ジェイタック)と略します。」


「えと、JTACのジョージ・マーティンでいいのかな?よろしく。中尉とは?」


「軍における階級であります。」


「なるほど。ところで空を飛んでいるあの鳥みたいなのは仲間なのかな?」


「はい、その通りです。鳥ではなく飛行機と言います。今回の攻撃の主役です。名称はA-10。我々はサンダーボルトⅡとも呼びます。私は彼らに攻撃目標を指示することが任務となります。攻撃目標はどちらに?」


「今、僕たちがいる此処の集落とそこに山積みなっている死体だ。一片の欠片なく更地にしてほしい。」


「了解しました。こちらを耳に装着してください。上空を飛んでいるA-10とのやり取りが聞こえます。」


 そう言いながら彼は装備を渡してきた。見よう見まねで付けてみる。ジョージが手伝ってくれる。


「これで、上空の味方と会話ができます。『ライトニング1応答せよ』」


『ライトニング1。感度良好。いつまで旋回飛行を続ければいい?早く仕事を終わらせたいんだが。』


「『ライトニング1。この通信は指揮官のガイウス氏も聞いている。言葉に気を付けるように』ガイウス指揮官、何かお言葉を。」


「『紹介にあったガイウスだ。君たちには眼下にある集落と死体の山を吹き飛ばして更地にしてもらいたい。』」


『ライトニング1。了解。楽な任務ですな。数分でかたがつきますよ。』


「『なら、頼む。以上だ。』中尉、あとは任せても大丈夫かな?」


「はい、もちろんです。とりあえずこの場を離れましょう。我々も吹き飛ばされてしまいます。」


 その言葉に従い森の中まで戻る。手近なところに大岩があったのでその陰に隠れるように座る。


「今から自分が上空のライトニング隊に攻撃を指示します。ライトニング1の言う通り、あの程度なら数分でかたがつきます。ただし、破片など飛んでくる可能性があるのでこの大岩を遮蔽物とします。迂闊に顔を出したりしないようお願いします。」


「わかった。それでは、よろしく頼むよ。」


「『ライトニング隊へ攻撃許可が出た。攻撃を開始せよ。Mk77を使用せよ。ライトニング1,2は方位045から進入し投弾後は方位135から離脱せよ。ライトニング3,4は方位000から進入し投弾後は方位090から離脱せよ。』」


『ライトニング1。了解。』


『ライトニング2。了解。』


『ライトニング3。了解。』


『ライトニング4。了解。』


 チラッと岩から顔をのぞかせると、4機のA-10が2機ずつに分かれそれぞれが指示されたところに向かう。その様子をもっと見ようと身を乗り出したところ「危ないですよ」とジョージに引っ張られ岩陰に入れられた。

 

 数秒後、『ライトニング1。投下。』『ライトニング2。投下』と声が聞こえた。何も起きないじゃないかと思っていると「ドオオォォォォォォォォォン!!!」と轟音ともに岩陰に隠れながらも確認できる程の火柱が上がった。それに少し遅れ『ライトニング3。投下』『ライトニング4。投下』と声がしたあと同じようなことが起こった。


「『これから目視にて被害評価を行う。ライトニング隊全機上空待機。』ガイウス指揮官。被害評価を行いましょう。一緒に確認していただいてよろしいですか?」


「うん、大丈夫だよ。しかし、凄い音と炎だねぇ。」


 攻撃の感想を言いながら、集落があった場所まで移動を開始する。


「あれよりも強力な兵器は沢山ありますよ。半径数10キロに損害を及ぼすものとか。」


「はぁ、凄いねぇ。・・・・わっ、凄いほとんど燃やし尽くされているね。あとは細々(こまごま)としたものが残っているぐらいだね。」


「残りの兵装を使用して破壊しましょうか?」


「そうだね。お願い。」


「了解しました。それでは先ほどの所まで戻りましょう。」


 さっき身を隠していた岩陰まで戻ってきた。


「『ライトニング隊全機へ。素晴らしい仕事だった。この仕事を完璧なものとするために全兵装の使用許可がガイウス氏より出た。進入と離脱は先程と一緒だ。』」


『ライトニング1。了解。』


『ライトニング2。了解。』


『ライトニング3。了解。』


『ライトニング4。了解。』


 そして、破壊が始まる。さっきよりも増えた轟音と火柱、そして地面を伝わる衝撃。ふと空を見上げると、A-10が機体の先端から煙を吹き出しながら何かを発射していた。その後「ヴォォォォォォォォ!!」という重い音が響く。


「アヴェンジャーまで使用するか。」


 ぽつりとジョージが呟く。


「アヴェンジャー?」


「あぁ、A-10の機首、機体の先端ですね。それについている固定武装です。30mmの鉛弾を発射する武器です。強力ですよ。戦車という鋼鉄よりも固い装甲に覆われた兵器を破壊することができます。人間に当たれば血煙になりますよ。」


「はー、凄いねぇ。」


 僕は驚くしかなかった。


「ところで、中尉の手に持っている棒状のモノも武器なの?」


「M4という武器です。これは5.56mmの鉛弾を撃ち出すことができます。目の前の木に撃ってみましょうか?」


 僕が頷くと同時にジョージがM4を構え撃つ。“パンッ!!”という乾いた音が響く。すると木の幹に穴が開いた。鉛弾が全く見えなかった。矢よりも速い。これは避けるのは無理だ。防御も難しいかもしれない。


「また、連続して発射することもできます。引き鉄、この私の人差し指がかかっている所ですね。これを引くと“パンッ!!”とこのように発射されます。弾は引き鉄の前の部分のここ弾倉、この部分ですね。ここに30発分入っています。30発撃ち尽くすと弾倉を交換する必要があります。有効射程はだいたい500m~600mぐらいですね。」


「なるほど。弓よりも速いし、遠くまで撃てて回避も防御も難しい武器なんだね。それに、矢筒みたいに予備の弾も嵩張らなくていいね。僕も使ってみたいな。M4は大まかになんていう武器に分類されるの?」


「銃とか鉄砲とかいわれますね。アヴェンジャーみたいなものは機関砲や機関銃、ガトリング砲といったものですね。」


「それじゃあ、僕にも使えそうな遠くを狙えて威力の高い銃を【召喚】」


 光と共に魔法陣が現れ、光が消えると一丁の銃があった。


「おぉ、M107、バレットM82ですね。狙撃銃という分類のモノです。ただ、12,7mmの弾丸を使用するので対物ライフルともいいますね。強力ですよ。」


「それなら、早速使い方を・・・」


『こちらライトニング1。全機全兵装残弾ゼロ。』


「すみません。ガイウス指揮官。ライトニング隊全機の搭載兵装の残弾がゼロになったそうです。彼らはもう攻撃手段はありません。帰還の必要を認めます。」


「わかった。中尉。彼らだけを先に【送還】しよう。その後で、これの使い方を教えてもらおうかな。」


「了解です。『ライトニング隊全機。ガイウス氏より帰還命令がでた。そのまま上空待機。』ではガイウス指揮官お願いします。」


「ライトニング隊【送還】」


 空中に4つの魔法陣が現れライトニング隊のA-10がそれに包まれて【送還】されていった。A-10の出す轟音も無くなり辺りは静寂に包まれる。残ったのは僕とジョージ、それと破壊し燃やし尽くされたゴブリンの死体だったものと集落だったものだけだ。


「それでは、これより銃の使い方をご説明します。」


「よろしくお願いするよ。中尉。」


 そうして、僕はジョージと共に銃の訓練を行った。バレットM82から始まり、ジョージのM4カービン、ハンドガンのベレッタM9、散弾銃のベネリM1014、機関銃のM240をそれぞれ試した。そうすると【射撃術】を覚えてLv.も3になった。


 ジョージ曰く、まだ沢山の銃器があるらしいが今日は時間も無かったのでこれだけとなった。また、新たな銃を使うときはジョージのように銃の取り扱いに優れている人を【召喚】しよう。

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