第17話 ゴブリン討伐

 僕は今、町の近くの森の入口にいる。昨日盗賊を討った森だ。ギルドを出た後は短槍とハルバード、籠手こてを買った。ちなみに3つとも穂先から柄に至るまで全てが鋼鉄製だ。短槍と籠手は自分用。ハルバードは召喚するかもしれない呂布用だ。全部で銀貨80枚だった。鋼鉄製は頑丈だけど値が貼るのがなぁ。まぁ長く使っていくつもりだしいいか。

 

 籠手を両手に装備し、弓と矢をいつでも撃てるように準備し森に入っていく。【気配察知】を使いながら獲物を探す。Lvが低いから精度と範囲は狭いけどそれでも、視界を緑に覆われた森の中では有用だ。なにしろ森に入ってから30分も経たずにロックウルフやフォレストスライムなどを数匹ずつ仕留めている。いずれも僕を待ち伏せようと茂みや木の葉に隠れていたのを【気配察知】で見つけて仕留めた。死体は【収納】した。ギルドで買った図鑑にはロックウルフの討伐部位は尻尾だが毛皮が素材になり、フォレストスライムの討伐部位は体の中心にある核でその全身が素材になるらしい。ロックウルフの毛皮を剥ごうとは思ったけど、その間は無防備になってしまうからそのまま【収納】してある。

 

 ロックウルフは弓で仕留めたが、その名の通り岩のように固い毛のせいで射た矢は矢じりが潰れ、当たった衝撃で折れてしまい再利用不可能となってしまった。フォレストスライムは籠手で核を掴み無理やり引き抜いて仕留めた。こちらは容易だった。僕を呑み込もうとバッと広がったことで薄くなった体から核を抜き取るだけでいいのだから。

 

 さらに森の奥へと進んでいく。日が沈む前には町に戻りたいので少し駆け足気味だ。とはいってもチートで強化されている僕の駆け足は普通の人の全速力と変わらない。襲い掛かってくる魔物はとりあえず倒し、【収納】していく。遠くからこちらを窺っているのはゴブリンでなければ無視だ。ここまでの戦闘で僕自身のLvと【格闘術】と【弓術】、【気配察知】のLvが上がった。しかし、未だに1匹のゴブリンにも遭遇していない。なんとなく嫌な予感がしながらも僕は前進を続ける。


 約1時間後、僕は足を止めて身をかがめた。嫌な予感が的中した。僕の目の前にはゴブリンの巣というには大きい、まさにアントンさんが言っていた大規模な集落が広がっていた。そまつながらも柵と物見櫓もある。これだけ大きいとゴブリンキングがいるかもしれない。【気配察知】で探ると無数のゴブリンの気配の中一際大きな気配がある。おそらくこれが親玉だ。これは、僕1人の手に負えるようなものじゃない。僕はそっとその場をあとにした。

 

 僕基準で数分ほど離れた森の中でも開けた場所に出た。あの集落を殲滅するには、援軍が必要だ。それも強力な。なので僕はまず呂布を召喚することにした。


「呂布よ。来たれ。」

 

 地面に魔法陣とともに光があふれた。光が収まると呂布が拝礼の姿勢で膝立ちしていた。彼は顔をあげると笑みを浮かべながら、


「お早い再開となりましたな。しかしながらガイウス殿はさらに力を付けたご様子。」


「うん、僕もこんなに早く召喚するとは思わなかったよ。実は依頼クエストでゴブリンを討伐に来たはいいけど、大規模な集落があってね。僕1人の手に負えないと思ったから呼ばせてもらったよ。」


「なるほど。して、数は如何ほどで?」


「数百はいるかもしれない。柵もあるし物見櫓もあった。それと野営の装備は持ってきていないから日が落ちきるまでにこの森から出たいんだ。」


「ふむ。時間の制限もあるとなると拙者1人だけの助力では無理かもしれませんな。ガイウス殿、拙者の部下を召喚していただきたい。名を高順、張遼と申します。それと拙者の配下の騎馬隊と歩兵隊を500ほどお願いしたい。」


「わかった。それでは召喚しようか。」


 また地面に魔法陣とともに光があふれた。光が収まると呂布ほどではないが立派な体躯の武人が2人とその後ろに500の騎馬隊と歩兵隊の混成部隊が拝礼の姿勢で膝立ちしていた。


「僕が召喚主のガイウスだ。諸君にはこれから僕と共にゴブリンの集落を殲滅してもらう。隊の組み分けは此処にいる呂布に任せる。呂布頼む。」


「はっ!全員起立!!高順、張遼、2人には200ずつ兵を率いてもらう。残りの100は俺とガイウス殿が率いる。よいな!!」


「「はい、呂将軍」」


「特に高順。お主には先鋒を務めてもらう。敵には柵と物見櫓があるそうだ。陥陣営の名に恥じぬ戦いをしてみせよ。張遼は高順が開けた穴を拡大してもらう。敵を混乱の坩堝るつぼに叩き込め。その後は俺とガイウス殿が率いる部隊で敵の中枢を討つ。よいな。」


「呂布の言葉に一つ付け加えるなら誰一人、敵を逃さず討ち取ってほしい。相手は魔物だ。それが子供であっても討ち取れ。」


「はっ!この高順、陥陣営の名に恥じぬ攻撃を呂将軍とガイウス殿にお見せしましょう。」


「拙者、張遼も呂将軍には及びませぬが己が武の限り暴れてみせましょう。」


「それでは、準備にかかれ。」


「「はっ!将軍」」


「呂布って将軍だったんだねぇ。不遜な態度取ってごめんね。あ、今のこれもダメか。」


「いえ、ガイウス殿は召喚主なのですからへりくだる必要はありませんぞ。拙者こそガイウス殿を差し置いてめいを発してしまい申し訳ござらん。」


「いいよいいよ。僕には人を指揮した経験なんて無いし。あっ、そういえば呂布の愛馬「赤兎」だっけ召喚してなかったね。自分の分の馬も召喚しないといけないね。今、召還するよ。」


 すると、魔法陣から赤いたてがみの馬と漆黒の馬が出てきた。


「それと、これ呂布用にと思って用意したハルバードだよ。」

 

 【収納】からハルバードを出し呂布に渡す。


「ありがとうございます。ガイウス殿の期待に応えてみせましょう。ところで、ガイウス殿は騎乗のご経験は?」


「ないね。でも僕には【見とり稽古】という能力があるから呂布が少し指南してくれたら普通に騎乗できるようになると思うんだ。みんなの準備が終わるまでに指南をお願い。」


「承りました。それでは、拙者は赤兎に乗ってみせますので。」


 そう言うと呂布はひらりと赤い鬣の馬「赤兎」に跨り、一通りの騎乗をしながらの武術を披露してくれた。僕も漆黒の馬に跨り、呂布のようにしようと思ったがうまく制御できない。仕方がないので【見取り稽古】を使うために呂布に軽く手合わせをしてもらうことにした。


「では、行きます。」


 呂布が赤兎と共に向かってくる僕はそのハルバードによる攻撃を避けず短槍で受ける。すると思惑通り声が響いた。


「【騎乗Lv.2】を取得しました。【防御術がLv.35】になりました。」


 あれ?Lv.1をとばしてLv.2を取得しちゃった。防御術も同様だ。呂布の実力が高いからかな。まぁ、いいや今度は僕からだ。馬を操り呂布に向かって突撃する短槍を突き出すがハルバードで簡単にいなされてしまった。それでも呂布は見開いて驚いている。


「この少しの時間で馬上にて槍を構えるようになれるとは・・・。流石ですガイウス殿。これなら雑兵相手におくれは取らないでしょう。」


「ありがとう。「【騎乗がLv.4】になりました。【槍術がLv.17】になりました。」呂布のおかげだよ」


 お礼を言っている途中で声が響いてきた。なんかこの声の入るタイミングに遠慮が無くなってきた気がする。まぁ、今は気にしないでおこう。呂布からのお墨付きも貰ったし、みんな準備が整ったみたいだ。高順と張遼を先頭に200ずつの兵が整列している。残りの100も先頭に呂布と僕がいないだけでちゃんと整列している。呂布が列に加わり、僕はみんなの前に騎乗した状態で声をかける。


「それでは、これよりゴブリンの集落を殲滅しに行く。遠慮はいらない。すべてを蹂躙し破壊せよ!!」


「「「「「おう!!」」」」」


「高順の部隊から順に進軍開始!!」


 僕の号令に従いみんなが動き出す。僕と呂布は最後に進発する100名と行動する。高順の部隊は森の中とは思えないほどの速さで進軍していく。張遼の部隊も同様だ。兵といい流石に呂布が推薦するだけのことはある。


 だいたい15分くらいでゴブリンの集落に戻ってきた。戦端は既に開かれ門は破壊され物見櫓は崩され、柵も紐をかけ引っ張り倒している。至るとこに侵入するための穴ができていた。すかさず張遼の部隊が集落に入っていき殺戮を始める。ゴブリン達にとっては奇襲という形になったのだろう。集落外縁部にいるゴブリン達は武器も手に持たず逃げまどっているのが見えた。しかし、集落の中心部にいくにしたがい落ち着きを取り戻して反撃をしてくるゴブリン達が多くなる。


「あそこだね。このゴブリン達の頭目がいるのは。」


「ですな。取り巻きどもは我が戟と賜ったハルバードにて排除いたしますゆえ。心置きなく突撃を。」


「ありがとう。呂布。・・・・それでは、突撃!!!」


「「「「「おおぉぉぉぉ!!!」」」」」


 呂布とその配下100名と共に突撃を開始する。呂布はその言葉通り僕を阻もうとするゴブリンを一撃で屠っていく。その後ろに続く兵たちも似たようなものだ。僕は自然と笑みが浮かぶ。すべて上手くいっている。逃げだそうとするゴブリンは高順と張遼の部隊によって駆逐され、反抗するゴブリンは僕たちによって屠られる。順調だ。


 数百近いゴブリンを排除して進んでいるとやっと中心部に到達した。普通のゴブリンのほかにホブゴブリン、ゴブリンジェネラル、ゴブリンメイジと格があがったゴブリンが多くいる。その奥に一際大きな存在感を出しているゴブリンがいる。おそらくゴブリンキングあるいはゴブリンロードだろう。僕は自分のステータスを確認する。ここに来るまでにLvもあがっている。


【ステータス】

名前:ガイウス

性別:男

年齢:12

LV:30

経験値:35/100


体力:160(800)

筋力:164(820)

知力:163(815)

敏捷:162(810)

etc

・能力

 ・召喚能力 ・異空間収納(麻袋で偽装) ・見取り稽古 ・ステータス5倍 

・経験値10倍 ・識字  ・鑑定 ・格闘術Lv.39(195) 

・剣術Lv.23(115) ・槍術Lv.18(90) ・弓術Lv.29(145) 

・防御術Lv.35(175)・回避術Lv.24(120) ・ヒールLv.3(15) 

・気配察知Lv.4(20) ・騎乗Lv.5(25)


 これならいける。僕はそう判断して首領へ向けて突撃を開始した。


「呂布、周囲の雑魚は任せる!!」


「御意。後ろは気にせず、存分に戦われよ。」


 右手に戟、左手にハルバードを持った呂布がゴブリンを討ちながら応えてくれる。僕は首領の前まで来ると下馬して短槍を構えた。


「人間ノ子供ガ調子ニノリオッテ。コノ“キング”タル儂ガ相手シテヤロウ。」


 どうやらここの集落の首領はゴブリンキングだったらしい。ま、相手が何であれやることに変わりはない。ただ狩るだけだ。ゴブリンキングは丸盾と長剣を構えた。と同時に僕は槍を突き出す。盾を構えて受けようとするが鋼鉄製の短槍は易々(やすやす)と貫いた。


「ナッ!?」

 

 驚きの声をあげるゴブリンキング。その隙を逃さず長剣を抜刀しながら横に薙ぐ、それをキングは両手で長剣を持ち受け止める。


「グゥッ!?コノ程度デヤラレルモノカ!!」

 

 そう言いながら長剣を押し返そうと力を入れる体勢になるがそれが狙いだ。左手で長剣を保持しながらキングの無防備になった左側から右手で顔面を殴る。鋼鉄製籠手の直撃を受けグシャッという音ともに顔が潰れたキングは崩れ落ちた。意外とあっけなかったな。

 

 それにしても僕の勝ちパターンは相手に一ヶ所を全力で防御させてその隙を突くっていうのが定石になりつつあるかも。

 

 それはそれとして僕は馬に跨りキングの死体を持ち高く掲げ、


「敵の大将を討ち取ったぞ!!残りは雑魚だけだ!!掃討戦だ!!」

 

 と叫んだ。ゴブリン達には動揺が広がり、味方はさらに勢いづいた。キングの死体を【収納】すると、近くにいたジェネラルから手にかけていく。数分後には僕は死体の山に囲まれていた。もうすでに動いているゴブリンは見当たらない。高順や張遼がやってきて取りこぼしがないことを報告してくれた。勝った。


「みんな僕たちの勝利だ!!」


「勝鬨をあげよ!!」


 呂布の号令でみんなが腕を振り上げ勝鬨をあげる。こうして僕のゴブリン討伐の戦闘は終了したのだった。

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