第21話 武藤家の心配事

 兄弟が実家に集ってから二時間が過ぎた頃、窓の外は既に茜色に染まり始めていた。

 悦子はカ-テンを閉めてリビングの電気を付けた。

 テ-ブルの上には財布、ノ-トパソコン、タブレット、スマホと、数十枚の様々な請求書や何かのファイル、さらにはメモ書きなどが積まれている。

 床には各夫婦が収集した書類や請求書などを入れたゴミ袋や段ボ-ル箱が並べられていた。

 雄一がテ-ブルに置かれたノ-トパソコンのスイッチを押したが、起動しない。

 「このパソコンは使ってないな。書斎のデスクトップだけか」

 「幾つも持っているけど、お義父さんこういうの詳しいんですかね」智之が言った。

 裕也はスマホとタブレットに繰り返しパスワ-ドを入力しながら「親父はエンジニアだったから、俺たちなんかよりずっと詳しいよ・・・ちぇっ、これも違う。わかんねぇよ。・・・また時間を置かなきゃ」と言って悔しがった。

 遥は請求書を分別していた。

 「スマホとかパソコンって何処のキャリアとか使ってたんだろ?全然通信関係の請求書が見つからないの。・・・電気や水道とか、あと・・・何これ?・・・保険かぁ・・・これは年金・・・」

 「通帳とか印鑑とかないよな」

 洋子がぽつりと言った。

 「でも死後五日で発見されたのは、こう言ってはあれですけど良かったですね」

 遥が同意した。「そうよねぇ~、本当にそうよねぇ」

 「そうだよなぁ、俺たちここに来る事なんて正月除いて年に一回あるかないかだもんな」

 「そう言えば兄貴、何でここに来たの?」

 雄一は少しバツが悪そうに答えた。

 「ん~なんつうかさ・・・マンション買う頭金をちょっと借りようと思ってさ」

 「何それ、ずるい」

 「ずるいって何だよ」

 「いつ買うの?」

 「ん~・・・仮契約はもうした」

 「いくら借りるつもりだったの?」

 「ん~・・・二百くらい」

 「なんだそれっ」とつぶやいた裕也は段ボ-ルの中からアルバムを見付けた。 「うわっ懐かしい」

 兄妹とそれぞれの連れ合いは裕也が開いたアルバムに近寄った。

 「書斎の本棚にあったんだ。まだいくつかそこに入ってる」

 その日一同はこれ以上の整理は諦め、今後の段取りや取りまとめが出来ないでいる不安と苛立たしさを、自分たちの昔の写真を見る事で紛らわせた。

 「明日も来れるか?」雄一は皆に訊いた。

 「私は大丈夫。朝、会社に連絡しとく。智之さんは、明日はいいよね」遥が応えた。

 「ああ、智さんとか洋子さんは、今後の段取りが決まってからでいいよ」

 「俺は午前中引き継ぎだけして、ここに来る」裕也が言った。

 「分かった。それじゃ、今日のところはこの辺にするか」と雄一が取りまとめ、皆それぞれの住処に戻る身支度をして去って行った。


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