第19話 武藤家

 リビングには、長男雄一の妻悦子、まだ幼い娘のゆず、次男の裕也、その妻洋子、そして妹家族の斉藤遥と智之、子供の相馬と、兄妹家族八人全員が集っていた。

子供二人は仲良くテレビを見ている。相馬がリモコンを握り、慣れた手付きでチャンネルを切り替える。

 雄一は全員の顔を眺めてから妻に向かって声を掛けた。

 「悦子。お茶入れてくれる」

 「うん」

 テ-ブルを囲んで、長男次男、そして遥の夫が座っている。雄一が話をまとめるように言葉を発した。

 「兎に角、警察から連絡がないと何も出来ないって事が分かった。事件扱いらしい。何もないって証明されれば、何らかのアクションが起こせる、と言う事」

 「何もないって?」床に座って聞いていた遥が聞いた。

 「事件性がないって事・・・恐らく脳溢血か心臓の病気か何かだとは思うけど、警察が入っちゃったから、何も出来ない」雄一が応えた。

 「葬儀の段取りも組めないって事?」遥が聞いた。

 雄一は、うんと頷いて、皆を見ながら少し誇らしげに語った。

 「財布の中身、紙幣とか小銭とか、キャッシュカ-ドとか、全部金目の物をこのテ-ブルに広げて写真を撮るんだよ・・・親父の部屋にあった腕時計とか撮ったり、金庫もパソコンも、押し入れとかタンスの引き出しとか、仏壇も、引き出し開けて・・・兎に角色んな場所を写真で撮ってた」

 ふ~ん。一同が部屋を見渡した。

 「救急隊員も動きが早いね、警察が倒れている親父の写真をパシャパシャ撮った後、担架で」

 「ストレッチャ-って言うんだよ」裕也が口を挟んだ。

 「そう、そのストレッチャ-を廊下に持ってきて、二人掛かりで持ち上げてさ」

 「兄さんなんか楽しそうだね」遥が皮肉を込めて言った。

 「楽しい訳ないだろ。ああいう人は仕事が早いって言ってるんだよ」

裕也が二人を制するように言った。

 「何をおいても、必要なのはお金だろ。他の財布とかキャッシュカ-ドとか通帳とか、兎に角そういうのを優先して探そうよ」

 「そうだな」

 「じゃ俺と洋子は寝室を探す。遥と智之さんはこのリビングやってもらえる?兄貴と悦子さんは二階の書斎見てくれ、押し入れに金庫もあったろ。何か場違いな奴」

 「書斎は俺が探す。悦子は台所見てよ。親父の事だから、何でもない所に大事な物置いたり隠したりしてるかも知れない」

 「多分、それは無いな」

 「でも片付けるついでに、いいわ」

 遥かと智之は立ち上がって互いの顔を見合った。

 雄一たち裕也たちもそれぞれ分担された部屋に散った。

 子供たちは動き始めた大人たちに気付かず、テレビのアニメ番組に夢中になっていた。


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