第四章

第16話 武藤雄一

 ガレ-ジ前の道路と玄関脇には一台なんとか駐車出来るスペ-スがある。武藤雄一は軽ワゴンをその場所に停め、助手席のバッグを取り上げて玄関のチャイムを鳴らした。

 少し経っても反応がない。雄一はまたチャイムを鳴らした。また反応がない。

五六歩下がって二階を見上げた。人が動く様子は無い。庇の向こうに青空が色濃く広がっていた。

 一つため息を吐いて玄関に目を戻した。

 (買い物かな)

 そう思い、コンクリ-ト塀の狭い脇を通って台所の裏口に向かった。

 明かりが付いている事を確認して取っ手を握ったが、鍵が掛かっている。仕方なく脇を通って車に戻った。

 二、三十分待てば帰って来るだろう。窓を開け、煙草を吸おうとして気が付いた。(合鍵持ってるじゃん)

 十六畳ほどの天井の高いリビングには電気が付いていた。テ-ブルの上には空になった缶ビ-ルと、空のグラス。コンビニで買ったであろう、おでんのパックがス-プだけを残して置かれている。

 (飲み足りないのか?日曜の昼間だぞ)

 雄一はリモコンでテレビを付け、煙草に火を付けた。そしておもむろに立ち上がりリビングの窓を開けて、網戸を閉じた。腕時計の針は十二時四十分を指している。テ-ブルに戻ってテレビに目を向けた。吸い殻は空のビ-ル缶で代用した。

 簡易の灰皿に煙草を落とし、再び腕時計を見ると五分程しか経過していない。また溜息を吐いて、テ-ブルのおでんカップとグラス、そしてカップのふたと割箸とコンビニ袋を持ってキッチンに向かった。ス-プをシンクに流し、カップや箸をゴミ箱に放り投げた。コンビニ袋を捨てようとした時、目に留まったレシ-トを手に取った。

 おでんの品目と缶ビ-ル、カップ酒。(その日暮らしかよ)そう思って笑みがこぼれた。日付は10月15日と印字されている。レシ-トとコンビニ袋をゴミ箱に放り投げた。そして寝室に行き母親の仏壇に線香を灯した。若干尿意を催した雄一はすぐさまトイレに行き用をたした。トイレ前の脱衣所の透けたドアから明かりが漏れていた。(風呂場も付けっぱなしで何処行ったんだ)そしてスイッチを消し、テ-ブルに戻ってもう一本煙草に火を付けた。吐いた煙がリビングの空間を白っぽく汚した。再びぼんやりとテレビに目をやり、バッグからスマホを取り出す。認証を終えトップ画面が出る。メ-ルチェックをしようと思った時、指が止まった。画面の日付は10月20日だ。

 雄一は急いでキッチンに戻りゴミ箱からレシ-トを取り出した。10月15日(火) 16:26 何度見てもその印字は印字の通りだ。雄一は一瞬に不安になり、各部屋を急いで探し始めた。

 寝室、二階の書斎と空き部屋、そして二階のトイレ、誰もいない。電気は付いていない。階段を降りる時、脱衣所の電気を思い出した。急いでドアを開けた。父親が倒れていた。


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