第12話 朝とエプロン
重たい動きでアラ-ムを止め、頭の中はまだ半分起きていない状態のまま、竜次は大きな欠伸をして布団から出た。エプロンを洗濯し忘れた竜次は、普段より三十分前にアラ-ムをセットしておいた。
用を足してからリビングのカ-テンを開けると、部屋の中が一気に明るくなった。ぼんやりしていた頭が少し晴れた。そしてキッチンに向かい、シンクに置きっ放しのグラスで水を一杯飲む。それから風呂場の前の洗濯機に、かごに溜まった洗濯物と洗濯液、それとキリンのエプロンを入れてスイッチを押した。
テレビを付けてからキッチンで湯を沸かし、二人分の朝食の準備を始める。テレビでは元中学校校長殺害事件で、参考人の男から事情を訊いているというニュ-スが流れている。目をやると6:10。まだパンを焼くのは早いか、そう思っているうちにやかんの湯が沸騰した。マグカップにコ-ヒ-を注ぎ、換気扇の前で煙草に火を付けた。
洗濯物が洗い終わると、ピンチハンガ-をドアの上に掛けて下着や靴下などを挟んでいく。黄色いエプロンを手にした時、何となく自分の下着とは一緒にしない方がいいと思い、皺にならないようハンガ-に吊るして、そのままベランダに持って行った。
十月の朝の空は薄っすらとした雲が浮かんではいたが、澄んだ空気に満ちていた。駅の方角に立ち並ぶ中層マンションが、普段よりもくっきりと見えた。
全ての洗濯ものを干し終わってから、竜次は寝室に向かい沙紀を起こした。そして沙紀がトイレに行き、顔を洗っている間に、目玉焼きとト-ストをテ-ブルに用意した。いつもと同じ光景なのに、何となく気持ちのいい朝の時間に思えた。
沙紀を自転車に乗せて保育園に向かうと、いつもこの時間に停まっている赤い軽自動車から母親が二人の女の子を降ろしていた。
「おはようございます」竜次が挨拶した。母親もニコッと笑って挨拶をした。自転車から降ろされた沙紀は「ユミちゃん、おはよう」と言って女の子の手を取り、三人一緒にドアの前に立った。
腕時計は七時半の受け入れの時間になったばかりだ。エプロン姿の若い男性保育士がドアを開けて迎えてくれた。
自転車にまたがって走ろうとすると、前の方から男の子を乗せた自転車がやって来た。自転車を停めて男性が挨拶をした。この男性も毎日顔を合わす父親だった。何回か友達と一緒に家に遊びに来た男の子は、竜次に手を振り父親に引かれて中に入って行った。
竜次は駅へとペダルを漕ぎ始めた。
何気ない日常。何の変哲もないありふれた朝。だが竜次は、今日も一日頑張るか、と心で思った。
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