第3話 生放送での怪
「お待たせしました。カレ-ちゃんで~す」と竜次は二人分のカレ-をテ-ブルに揃えた。
沙紀はクリっと大きく目を開いて画面に夢中だ。
芸人がトンネルの入口までたどり着くと、沙紀が突然口を開いた。
「パパァ、おじいさんがいる」
竜次はカレ-を食べながら沙紀と画面に目をやった。
「ほらっ、おじいさんが一緒に歩いてる」
沙紀は椅子から離れ、テレビ画面に近づき画面を指さした。
「この人」
画面には入り口付近を歩く芸人の後ろ姿が映っている。
「何処に?」
「ほらっ、この人」沙紀は芸人の横を指さす。
「ごめん、沙紀、手が邪魔で見えない」
男性司会者の戸川は、足取りの重い山口に声を掛けた。
「山口さん。どう、どんな感じ?トンネルの中の雰囲気はどんな感じ?」
山口は恐る恐るトンネル内のあちらこちらに目を向けながら、震えるような声でしゃべった。
(なんか不気味ですよ~・・・ライトが当たった場所に・・・何か見えたら嫌です~・・・自分の声が反響するから尚更怖いです・・・)
女性司会者が質問する。
「何かがいるような感じとかしませんか?」
(・・・え~・・・なんかいますよ~・・・ここ・・・絶対にいる感じですよ・・・)
モニタ-には真っ暗な穴の中に入って行く山口の後ろ姿が映っている。
外のライトが消された。
するとヘッドライトの明かりだけが遠いトンネル内に揺れ動く暗闇に替わった。山口の歩く姿が影となって不自然に見える。カメラは山口の後ろ姿にズームアップした。
「少なくとも多かれ少なかれ影響力のあるテレビの番組で、サクラを使って視聴者を騙すと言うのは如何なものか・・・」
番組内での不穏な雰囲気。竜次は口を動かしながら行方に注目している。
画面は超常現象反対派の下山教授を映した。
(はぁ?)男性司会者が教授に言葉を向けた。
教授は呆れるような半笑いでモニタ-に指を向けながら(ほらっ、横に仕込まれているじゃないか)と声を荒げた。
一同はモニタ-を食い入るように見直した。
辛口論説で名を馳せているタレントの市川克己も教授の後に続いた。
(そうだ。いかさまだ)
スタジオの観客の女性がキャ-と叫んだ。
一同は観客席を見返す。
観客席を映そうと素早く動くカメラの画像が、生番組の臨場感をかもし出した。
女性は両手で顔を覆い、崩れるように下を向く。
男性司会者はその女性に声を掛けようとしたが、立ち止まった。イヤホンから指示があったのか、不自然に教授へ顔を向けた。
(下山教授。サクラって、何か見えるんですか?)男性司会者が問いただす。
(いい加減にしろよ、男性の横にすっと近づいたじゃないか。ほらっ、横を歩いている・・・)下山教授はそこまで言うと顔を強張らせて口を閉じた。
男性司会者は観客の女性を一瞥した後モニタ-に近づき、半口を開けて映像に目を凝らした。
(・・・見えます?・・・皆さん?・・・心霊研究家の木村さんはどうですか?・・・)
スタジオ内は必ずそこに何かが見えた、見えたに違いないという雰囲気に変わっていた。
右側の席に座る心霊研究家の木村は眉間に皺を寄せてモニタ-を見ながら応えた。
(・・・ん~・・・そうですね・・・いますね。山口さんの隣に・・・若い女性かな?・・・何かを訴えるような感じで・・・見えますね・・・)
男性司会者は大袈裟に目を開いて木村に近づいた。
(若い女性!・・・)
下山教授は顔を俯けて上目使いにモニタ-を見た。
男性司会者が続けた。
(・・・若い女性が見えますか?)
(強い霊気を感じますね)木村が続いた。
沙紀はテレビの前に立ち、竜次を振り返って訴えるように言った。
「おじいさんだよ」
竜次はスタジオの皆と同じように口を開け、スプ-ンを持ったまま動かない。
「・・・おじいさん?・・・どんなおじいさん?・・・」
「なんかね、小さいおじいさん」
「小さいおじいさん?」
「うん」
「見えるの?沙紀。・・・どんな格好してるの、そのおじいさん」
「ん~、なんかね、着物みたいの着てる」
「着物?」
竜次は再び画面に目を向けた。
一同はモニタ-と下山教授と木村と観客の女性を、各々交互に見やった。
女性司会者は下山教授に向かって(教授は、その若い女性が見えたと・・・先ほどサクラとおっしゃったのは、その女性が見えたという事ですか?)と訊いた。
( 山口さん。スタジオでは山口さんの隣りに若い女性が歩いているって、そう木村さんが仰ってるんだけど、何か変わった事ない?)男性司会者が続けた。
山口は声を震わせ応えた。
(え~っ!やめて下さいよ~)そう言って恐々とゆっくりと自分の左右と後ろを確認する。
(・・・若い・・・女の人?・・・???・・・怖いよ・・・やだよ~・・・)
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