第28話「フゥの頼み」
警備ドローンを撃退し、フゥの危機を救った浜之助たちは、普段通りの日常に戻ろうとしていた。
「待って欲しいの。浜之助と、ここの代表に話があるの」
それを呼び止めたのは、フゥであった。
フゥは急を要する用事があるらしく、いつもよりも慌てた様子だった。
「何があったんだ?」
「私と、私のマスターが危機的状況なの。詳しくはここの代表と話すときにするの」
浜之助はその場で事情を把握しておきたかったが、フゥは頑なに口を開かず、あきらめるしかなかった。
フゥは浜之助にとって命の恩人であるだけではなく、イデアにとっても重要な協力者であったため、すぐに長老の家で会談が設けられた。
「初めまして、私はフゥという者なの。今回は時間を作ってくれてありがとうなの」
「私はクロノじゃ。それで、そちらの危機的状況と言うのは何のことかのう?」
円卓にはクロノ、浜之助、アマリ、コンガ、そしてユラを交えたフゥとの話し合いの場が整い。
クロノは穏やかな調子でフゥに話を促した。
「まずは、マスターとマスターに敵対するセキュリティAIについて話す必要があるの」
浜之助はセキュリティAIという単語に疑問符を浮かべるが、一先ずフゥの話を一通り聞くことにした。
「セキュリティAIは警備ドローンの生産と管理を司る独立した統括システムのことなの。普段ならヒトガタや未来人種を攻撃するだけで、独自の意識を持たなかったの。これまでは」
フゥは残念そうに首を振った。
「今のセキュリティAIは違うの。独自の思想、言うなれば破滅的な思想に憑りつかれて、権限以上の制圧に乗り出そうとしているの」
「具体的にはどういうことじゃ?」
クロノはフゥの会話に合いの手を入れる形で、疑問を投げかけた。
「セキュリティAIの最終目的は全生物の殲滅、そのためにはマスターが持つ権限を奪い、セキュリティAIが制限されている生産量と管轄領域の拡大を狙っているの」
フゥの話によれば、このセキュリティAIの暴走は3年前から始まっており。
防衛の絶対数に劣るマスター側は防戦一方で、数日以内には敗北してしまうそうだ。
「どうして今まで話さなかったんだ?」
「マスターはシェルターから出られない未来人種に期待はしていなかったの。それに浜之助も、本当に頼っていい存在かどうか判断できなかったの。だから遠目に観察して、浜之助に最後を託すかどうかの決定を先送りしていたの」
「だから今になって、緊急事態だから助けて欲しいってワケか。もっと余裕をもって話を持ってきてほしかったな」
浜之助は不満顔だが、それは本心からの表情ではない。
この顔は、自分を信じて頼ってくれなかったことに対するフゥへの抗議の色であった。
「セキュリティAIは警備ドローンのほとんどを管轄しているの。それはつまり、セキュリティAIをストップできれば、警備ドローンの脅威は無くなるの。そちら側にとってもマスターを助けることはメリットになるはずなの」
フゥの言うことはもっともだ。
いくら警備ドローンへの対策ができたとはいえ、敵には変わりない。
それが完全に除かれるならば、助けない手はないのだ。
だが……。
「それで、敵の戦力はどのくらいかのう?」
クロノのその問いに、フゥはおそるおそる口にした。
「少なく見積もっても、1000体」
「1000……!」
フゥの言葉にアマリやコンガはたじろぐ。
今まで1度に対抗した警備ドローンは今回の50体相当が最大で、その20倍など想定もできないからだ。
「確実に死者が出るどころか、勝てる見込みがほとんどありませんね」
アマリは悔しそうに、首を横に振った。
クロノの方は、ジッとフゥの顔を見つめたまま、思案顔で一言訊いた。
「勝てないというのは、織り込み済みじゃな」
クロノの核心を付いた言葉は、どうやら正解だったらしい。
フゥはビクリッと驚いた後、それに頷いた。
「……はい。こちらもそのつもりなの。ただ最終手段を使えば、勝てないまでも負けることはない。そのためには、浜之助の協力が必要なの」
フゥはそう言うと、儚げにうっすらと笑った。
「この方法なら、時間だけは稼ぐことがかのうなの」
クロノはフゥの心中に気付いたらしく、深く首を縦に振ってから、浜之助の方を仰ぎ見た。
「と、言うことじゃそうだ。浜之助に頼んでも良いか?」
「ああ、もちろん。時間さえあればこちらも戦力を整える準備ができる。そうしたら、大反撃の開始だな」
「そうじゃ。そうじゃとも」
クロノは両目を閉じて、浜之助に同意した。
「すまんが、こちらから出せる戦力は浜之助だけで精いっぱいじゃ。すまぬのう」
「いいえ。そちらの事情も承知の上での無茶な頼みなの。感謝するの」
「すまぬのう。すまぬのう」
クロノはフゥに何度も謝罪し、心底申し訳なさそうにお辞儀をした。
「アマリ。もしも、ということがあるからのう。この件は交易相手のシェルターにも伝えておいてくれ」
「分かりました。すぐに取り掛かります」
アマリはそう言うと、敬礼をして円卓の場を離れた。
「コンガさんはワーカーたちに情報共有を、そして混乱を生まないように有志団と自警団で協力して警護してくれるかの」
「分かったぜ。長老殿」
ワーカー代表のコンガは、ガッツポーズをすると円卓を離れて走り出した。
「そして浜之助とユラは、いつも通り任務を頼む。メインミッションはマスターとやらの協力じゃ。いけるかのう?」
「後は任せとけ。これくらいすぐに済ませて来るよ」
浜之助はフゥと並び、満面の笑みで応えた。
「無理はせぬのじゃぞ。何を選択するにしても、私らが後ろに付いていることは忘れぬようにな」
長老のクロノは、浜之助に意味ありげな言葉をつぶやいた。
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