その投稿は死神との契約(第1回放送)

 架空間かくうかん横展開よこてんかいシステム。縮めて、『カクヨム』。

 一体何が架空間で何が横展開で何がシステム……って、システムはまあ分かるけど。


 そんな感じでちょっと謎な正式名称を持つ『カクヨム』なんだけど、そのサイトの実態は普通のネット小説サイト。誰でも無料で色んな人の書いた小説とかエッセイとかその他色んな文章を読めるし、登録すれば誰でも文章を書ける。


 ……というか、普通に『書く+読む』で『カクヨム』なんじゃないんかな、と思うんだけど。


 あたしやまかおるは、毎朝中学に行く前のヒマな時間にスマホでそのサイトを開いて、友達や姉に薦められた小説や、あたし自身が見つけ出したお気に入りの小説を読んでいる。


 もちろん、他にもいっぱい小説サイトはあるんだけど……あたしはこのサイトが一番好き。あたしの気のせいかもしれないんだけど、なぜか他のサイトで読むよりも『カクヨム』で読んだ方がイメージが頭の中で湧きやすいんだよね。だからあたしは『カクヨム』ユーザー。


 そのお気に入り小説の中に『俺が無双できないのはチートな生徒会長様のせいだ』っていうのがあるんだけど、今日、そのスピンオフだとか何とかでラジオが始まったらしい。


 もちろん読む。あたしの指は、迷わない。



(第1回放送 https://kakuyomu.jp/works/1177354054893620045/episodes/1177354054893620140




『第一回のゲストは生徒会書記の可愛い従妹、草薙くさなぎ胡桃くるみだよ』

『はいなのです』

『胡桃ちゃんは元気があっていいねぇ』

『えへへ、紫苑しおんお姉さまに褒められちゃった』

『お姉さま! なんていい響き!』



 ……胡桃ちゃんも、会長さんも可愛いなあ……。



『これからどんどんお便り募集します。応募方法はこちら――』



 え。お便り募集? ホントに?

 ゲストも指定可能? ウソ!?



 ――あたしの指は、迷わない――ッ!!



PNペンネーム:かおるんるん


 紫苑さん、蓮司れんじくん、初めまして! 朝、登校する前にヒマすぎてばーっとカクヨムのチャンネル回したら面白そうなのをやってたので思い切って投稿してみました!

 私は朝、いつもこんな感じで登校する前のビミョーな時間をつぶしているのですが、お二人はどんな時間のつぶしかたをされているのでしょうか? 教えてください。


 最後に……クールでカッコいい頼れる蓮司くんの活躍を期待しています!!!』




 ッターーーーーンッ!!!!!!(確固たる意志を持って送信ボタンをタップする音)




 スマホを机に置く。

 ……ふう。やりきったぜ。



 投稿した。

 投稿してしまった。

 登校前に投稿してしまった。とうこうだけに。


 心の臓がバクバク言ってる。あたし、今日心室細動でも起こして死ぬんじゃないかってくらいやばい。


 だって。

 だって!!

 あたしのお便り、読まれるんだよ!?

 あの蓮司くんに読まれちゃうんだよ!? やばくない!?!?


 ああ、あたしはなんてことをしてしまったのだろう。これは死神との契約書にサインしたのと同義かもしれない。

 戻りたい運命。でも戻れない宿命。

 神様、もう死んでもいいです。はあ……ああ……。


 あたしはよろよろと歩き、ベッドにぼふりとダイブした。

 うつ伏せになって枕をぎゅーっと抱き寄せる。

 ニヤニヤが止まらない。今のあたし超絶キモイ……。



 あー……しあわせ……zzz……。



「かおる、あんた学校今日休みなの?」

「わわわわっ!?」


 意識が飛びかけたところにあやねえ来襲。飛び起きた弾みで枕がどっかいく。


「あや姉今何時!?」

「8時回ったとこ」

「え……」


 頭が真っ白になるってこういうことを言うんだ。

 あや姉が指を差したその先には……絶望的な時を刻む壁掛け時計。




「――遅刻確定だああああああああああっ!?」






 ……まあ、奇跡的に間に合ったんだけどね。ギリギリのギリで。





--※--






 放課後。部活終わって、友達と帰る。


「かおる、今日ずーっとテンション高くなかった?」


 あたしの親友、花岡はなおか恵里菜えりな。銀縁眼鏡が似合う黒髪ボブヘアの中学三年生。


「そうかな?」

「うん。……あ、もしかして今日始まった『俺が無双できないのはチートな生徒会長様のせいだ』、縮めて『チーかま』のラジオのせい?」

「えっ」


 鋭い。


「やっぱり。わたしも今日学校行く前に覗いてみたんだけどさ? コメントに何かかおるっぽいのがいて」

「うっ」

「かおるんるん」

「ぐふっ」

「クールでカッコいい頼れる蓮司くんの活躍期待してます」

「ぐああぁ……」


 3COMBO。あたしの精神にフルヒット。


「で、でも、質問の内容はわりかしまともな気がするんだけど、あたし」

「一人だけ気合入れて長文送っててちょっと浮いてたよ?」

「うっぎゃあぁっ」


 蓮司くん。あたし、今、親友に容赦ない精神攻撃を受けています。どうすればいいでしょうか。


「……恵里菜の鬼ぃ」

「ふふっ、ごめんごめん」


 恵里菜、あたしに対してだけは妙に強気なんだよ。普段は大人しめなキャラなんだけど。……それだけ、向こうが仲良しに思ってくれてるってことなのかもしれないんだけどね。


「そういえば恵里菜は投稿しないの?」

「わたし? うーん……わたし、どちらかというと草葉の陰からそっと見守っていたいタイプの人間で」

「うん」

「何というか、その……推しに認知されたくないというか」

「認知されたくない」

「そうそう。芙蓉ふようくんに花岡さんって呼ばれるだけでわたし死ぬ……」


 そうつぶやいた恵里菜の顔は、何か、色々と人には見せちゃいけないような顔をしてた。



 恵里菜も恵里菜で、けっこーーーな芙蓉推しなんだよね。

 気持ちはわかる。芙蓉かっこいいよね。普段は魔法をほとんど使えないけど、相手から魔力を吸い取ることで自分を強化するって感じの面白い能力。

 そしてありとあらゆる流派を使いこなす近接格闘キャラ。かっこいい。


 でもあたしは蓮司くん推しです。脇役であること。魔法銃で小細工一切ナシの一点突破。そして常識人でクールでカッコいい!!!!!! 最高!!!!!!!


 あ、ちなみにあや姉も『チーかま』読んでる……というか、あや姉に薦められてあたしも『チーかま』を読み始めたんだけどさ、あや姉はなぜか由樹よしき推しなんだよね。分かんない。


 ……と、まあ。あたしの周りの人々も結構深刻な症状を患っているわけです。うん。





--※--





 家に帰ったら、あたしの投稿に作者さんから返信がついてた。

 生徒会役員(ほぼ副会長)が精査してくれるとのこと。


 ……副会長もあたし好きなんだよなぁ……工藤くどう凛花りんか先輩。常識人でクールなキャラって好き……はぁ……。


 ふらふら歩いてベッドにぼふっ。ふぁあぁ……しあわせ……えへへへへへへ……。






 ――この時のあたしは知る由もなかった。



 あたしの命日が明日に迫っていたことを(主に尊死的な意味で)!!!




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