第23話長話<風呂

 気のせいや比喩表現ではなく、文字通り成長している。明らかに視線が高くなってるもん。それに、ハッキリと断言できるわけではないけどマナ量も上がってるんじゃないか?

 いや、まぁマナなんて初めましてだからぶっちゃけそこらへんの感覚は曖昧なんですけどもね。

 それはそれとして置いておこう。


「これって、もしかして……」


「進化、でございます」


「だよね! よっしゃー! セルスあれ出して! 鏡!」


「ウフフ、こちらに出してありますよ」


 さすがに仕事が早い! ナイスです!!

 え? はしゃぎ過ぎじゃないかって? そりゃはしゃぐでしょうよ! なんたって『進化』だぜ? 今までは2次元キャラというフィクションの世界の住人にしか起こり得なかった事が実際に自分自身に起きてんだぜ? ブチ上がるだろーよ! バイブスブチ上がり警報発令中よ!


「さてさて、どんな仕上がりかなー?」



 …………ショタじゃん。いや、もうショタですらねーじゃん。園児じゃん。いやいやいや、進化ですぜ? さすがにこれはねーっしょ、なんかの間違いだろーさ。


「ねぇセルス、なんかインプじゃなくて幼児になってんだけど?」


「いいえルーナ様。それは幼児ではなくインプで合っております。その証拠に、ほら。妖精フェアリーの時より立派になった羽が生えているでしょう?」


 間違いじゃなかったー! マジかよー、人生初の進化が妖精から幼児ってどーなんだよー。

 いや、確かに羽は立派になったよ? 自分の体と同じくらいの羽になったけどさ? 違うじゃん、なんかこーカッコよくなりたいわけじゃん! 外見の変化なんてほぼゼロ、ただ図体がでかくなっただけってーのは流石にツライ。


「あまりお喜びになれていないようですね」


「まーなー。なんつーかさ、予想以上にショボかったっつーか。もっと強そうなの想像してたかんなー」


「では、ここで少し進化の詳細を確認致しましょうか」


 流れ的には当然といやー当然だな。俺の文句はともかくとして、初めての進化である以上もろもろの確認は必須だよな。

 でもな、それは今じゃない。俺が今やりたい事は別にある。そんなわけで────


「断る! そして、俺は風呂に行く!」


 堂々と、俺はセルスのありがたい申し出に対するボイコット宣言をした。

 さすがに予想外なのか、セルスは目を丸くして驚いている。うん、この表情も新鮮で可愛い。

 だがあえて今は心を鬼にしよう。なぜなら俺の中でセルスを愛でるよりも風呂に行く方が勝ってしまっているからな!


「ってなわけで、ひとまずバイバーイ」


「え、あ、ちょっ……!」


 セルスはなにか言いかけたようだが、もはや俺には届かない。

 俺はただひたすら洞窟の奥へ向かって疾走した。


 熱気がある方へと洞窟を進み続ける途中、俺はある1つの事に気づき足を止める。


「そういやこの洞窟……なんでこんなに明るいんだ?」


 トンネルのように蛍光灯があるわけでもないし、ランタンや灯籠のような物があるわけでもない。およそ光源と呼べる物はなにもなく、本来ならただ真っ暗な道を壁なんかを触りながら恐る恐る進んで然るべき状況だ。でも俺の目にはハッキリと進むべき道が見えている。壁や天井の具合もバッチリと。


「進化の影響……か?」


 まぁいいや。

 俺はおよそ2分くらい頭を悩ませ、再び駆け出した。

 悩んでもすぐに自己解釈して解決できんのが俺の数少ない長所なんだよねー。


 そうこうしている間に目的地としている場所に近づいていたらしい。周りの温度が急激に高くなるのを感じる。

 もし俺が常人だったならばこの時点で皮膚や肺を焼いてしまっていたのではなかろうか? ってレベルで暑い。例えるなら、日本の真夏の12上って感じ?

 にもかかわらず、俺はびっくりするほど平気だ。いや、ちょっと盛ったわ。少しは暑いです。はい。


 俺はうっすらと汗をかきながら洞窟を進んだ。


 少し歩を進めるとバカでかく開けた場所に出る。

 ゴツい岩肌と吹き抜け状態の天井、そしてグツグツと煮えたぎっている赤いドロドロの液体。

 なんと例えるべきか、モ◯ハンの火山フィールドって言えば分かりやすいか? まぁとにかくそんな場所に出た。

 見た感じアールグ達はいない。場所を間違えたか、あるいは別ルートがあって行き違いになったのか。

 多分後者だろうな。だってこれ風呂じゃねーもん、マグマだもん。熱湯の1000上だぜ? いやいや流石にない。アールグはワンチャンあるかもしれんけどヴァルグは秒で死ぬわな。


 っていう俺の考えはすぐさま否定される事になった。


 




 



 

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