第21話終戦の一歩手前

 振り回される尻尾、空を掻き切り荒れ狂う爪牙、そんな中をただヒラヒラと舞う俺。


 ………無理ゲー過ぎて辛い。


 いや、あのね? ワンパンかましてすっかり調子に乗ったわけ。でもそれが最初で最後だったんよ。

 なぜかっつーとー、2発目ぶち込んでやったんだけどなんか皮膚がメッチャ硬くなっててー、多分スキルだとは思うんだけど今の俺じゃどうにもダメージ与えられないんだよね。

 しかも俺って攻撃系のスキルが1つもないから、〈身体強化〉でどうにかできないともう詰みだよね。

 〈混沌の渦カオス・ヴィアベル〉と〈消滅バニッシュ〉見せてから近接戦闘しかしなくなったし。


 いや、マジでどーしよ。避ける事で精一杯だわ。


「おーい、バカワニー! どーしたん、ビビってん? そんなトロい攻撃じゃあたんねーぞー?」


「下らん」


 煽りも聞きませんかそーですか。

 もうさ、これって俺が盛大に負けるしかなくない? 勝負終わらなくない?

 いや正直、ある程度のスキル見せりゃ終わると思ってたんだよ。

 なんか勝手に認められてトントン拍子で事態が進みますみたいな? それがさー、蓋開けりゃどーですか、終わる気配がしないんですけど? もう疲れたんですけど? 布団潜りたいんですけど?


 なんて、半ば不貞腐れ始めてもアールグは止まらないわけで。


 今はまだ〈第六感シックスセンス〉の補助でなんとか躱せてるけど……そろそろ捕まるよな、これ。せめてなにか武器が欲しいです。はい。


「終わりだな」


「勝手に決めん──痛っ! ごめんなさい!」


 ちくしょう、掠っただけでめちゃ痛い。本気で謝っちゃったじゃねーか。

 でもなー、まぁ確かにもうそろヤバめ。セルスもヴァルグもかなり顔色が悪い。

 いや、ヴァルグは真っ黒だからあくまで雰囲気なんだけどね。


 さぁてどうする?

 魔法系統のスキルはない。物理攻撃も効かない。勝ってるのは素早さのみ。ならば、俺の取れる手はもはや1つ! 可及的速やかに謝罪して許しを乞う!


「あのー、アールグさ」


「……やはり、か。このような者に神威を受け渡し、あまつさえ軍門に下ろうとは。……セルステリア様、貴女の瞳は濁ってしまわれた。ですが御安心を。直ぐに我が貴女を正気に戻しましょうぞ」


 人の話を遮った割にセリフが長い。瞳が濁ったとか、正気に戻すとか。こいつは敬意という言葉を盾にさっきから失礼過ぎないか?


「なぁ、お前が怒ってるのは俺に対してだろう? なんだってセルスにまで酷いこと言うんだ? 八つ当たりはダメだよ?」


「黙れ! 貴様ら転生者がどれ程このお方を苦しめてきたか、元凶である貴様らが今さらセルステリア様の仲間だと? 笑わせるな!」


 はてさて、話が見えんな。俺がいつセルスを苦しめたんだ? まぁこういうのって大体、加害者よりも被害者の方が覚えているものなんだけどさ。

 それを言えばアールグは部外者なわけで、こいつがここまでキレるのは少しおかしいわけで。

 なんか女子の無駄な結束力を思い出すよ。


 セルスもなにか心当たりがあるのか、アールグの言葉を苦い顔をして聞いている。


 こりゃマジで俺がなんかしたのかも。でもな────


「そんなもん知るかぁ! 今が楽しけりゃそれでいーじゃねーか! セルスが辛いと言ったのか? セルスが俺になにかされたと言ったのか? もし言ってないんならテメーのその怒りはただの自己満なんだよ!」


「なっ!」


「それにセルスは言った! 俺に王の器を見たと! 正直よく分かんねーけど、テメーをシバくぐらいわけねーって事は分かるわ! ボケ!」


 はん! 八つ当たりなのは俺の方かもしれんけども知りませーん。

 なんかさっきからマウント取られっぱなしで気に入らなかったんだよね。キレるタイミングも逃しっぱなしだったから、とりまここらでカマしてみました!


 ってなわけで、マジでいよいよ後には引けないな。もうこうなったら仕方ねーわ。やるだけやって、なるようになる!


 基本こういう状況はノリとアイディアと相場は決まってる。幸い俺には前世の記憶が残ってるしやれねー事はない!


 さぁ、思い出せ! 物理攻撃が効かない相手にはなにが効く? 漫画の知識をここで曝け出す!



 ────そうして、アールグの攻撃を躱しながら記憶を模索した結果、俺は1つの答えにたどり着いた。


 感謝します。偉大なる海賊王候補の仲間、長鼻の狙撃手よ!


「見えましたぁ!」


「鬱陶しい! そんなものは効かぬとまだ分からぬか!」


 ただ単純に、今までと同じように突っ込むだけの俺に激昂しながら尾で俺を潰そうと襲いかかるアールグ。だが俺は避けない。というか、避ける事を考える暇がない。

 〈第六感〉と〈感覚強化〉、そして〈身体強化〉をフル活用して、俺はタイミングを計っていた。


「死ね!」


 俺とアールグが互いに触れ合う、このタイミングを。


「せーのー! 衝撃波インパクト!」


「な! こ、これは!」


 ドゥン! という轟音と共にアールグの尾は弾き飛ばされる。俺は〈身体強化〉の性能があるので、衝撃に耐え抜き、追い討ちをかける体制をとる。


 バランスを崩したアールグの上空に飛翔し、頭部と思われる部位に狙いを定め、いざ突貫!


 せっかくの締めだ、なにかカッコいい技名を叫んで終わりたいな。よし。


「悪りーな、クソワニ! これで終わりだ、派手にいこーぜー! ────音擊……天臥蛇てんがしゃ!」

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