第20話チュートリアルのボス戦開始!

 そんな事を考えていた俺に、アールグが不適な笑みを浮かべて言葉を放った。


 不適とは言ったけど、こいつの顔のサイズ的にちょっと不適感よりも、わんぱく感が優ってるんだけどな。


「ご安心下さい、セルス様。このゴミ共を始末したらすぐにでもお出ししますので」


「……! ────! ────!」


 セルスが慌て始めた。かなりの勢いで。あんなセルスは初めて見るなー。うん、焦った顔も可愛い!


「下卑た目でセルス様を見るな! 下郎が!」


「うっせー! 邪魔すんな! っつかてめーいつからセルス様って呼んでんだ! セルステリア様だろーが!」


「ぐっ!」


 はん! 人の至福の時間を邪魔すっからだボケ!


「さすがは我が主様。神をも恐れぬ素晴らしい啖呵で御座います」


 ……素晴らしい啖呵ってなんだよ。


「では、ルーナ様の言葉に負けぬようこのヴァルグ、見事あのデカブツを葬って見せましょう」


 今度はヴァルグが不適な笑みだ。

 うん、やっぱカッコいい! さすがウチの子よね!

 でもね、今回は俺の出番らしいわ。


「下がれ、ヴァルグ。俺がやったる」


「しかし……いえ、なにも申す事など御座いません。その御力をどうか存分に」


 何か言おうとしていたけど、どうやら俺を信じてくれたらしい。

 俺は恭しく頭を下げたヴァルグの頭をポンポンと軽く叩き、セルスに笑顔を向ける。


「マジ秒で助けてやるから待っといてなー!」


 セルスの顔からまだ不安の色は消えてはいないが、さっきよりは落ち着いたかな。


「おい、ワニ! 俺を試してーんだろ? 相手したるよ」


「……その威勢だけは褒めてやろう」


 一瞬だけ動揺したように見えたけど……気のせいか?

 まぁいいや、早速始めようかな。

 まずは、先手必勝!


『バン!』


「…………不愉快な。我が魂に直接干渉したようだが、無駄だ」


 やっぱ効かないか。マナの差が有り過ぎる。

 折角の機会だし、色々とスキルを試しながら勝ち筋を探るか。


純白の熱線ホワイト・レイ!」


 そんな暇は与えないとばかりにアールグが大口を開きスキルを放つ。


 これは、セルスが使ってたスキルかな。規模は桁違いだけどね。


 でも、残念。俺に放出系は効かんのよ。


混沌の渦カオス・ヴィアベル!」


 俺がスキル名を唱えた瞬間、俺の目の前に黒い渦が出現した。

 大きさは俺の身長程度で奥行きはかなり薄い。渦の縁は紫色のモヤが陽炎のように揺らめいていて、中は完全な漆黒。まるで先が見えないのだ。


「むっ!」


 はーい、残念。

 〈混沌の渦カオス・ヴィアベル〉の効果はスキルのキープ。

 相手の魔法なんかを渦で完全に呑み込み、俺の任意でそれを放てる。

 1度にキープできる数に制限はあるけど、そこは上手くやりくりしてやるさ。


 まぁ、百聞は一見に如かずって言うし、試してみよう。


「はっはぁ! 折角貰ったのに悪いな! 返品だ!」


 そう言って俺は、アールグの頭上に渦を出現させた。

 実際にやっといてなんだけど、渦は任意の場所に出せるっぽいね。


「えーっと、ホワイト・レイだっけ?」


 俺の言葉を合図に渦から熱線が降り注いだ。

 再放出にはスキル名を詠唱する必要がある。だから、相手の言葉をしっかり聞いていないと無駄なキープになってしまうわけだ。


 しっかしすごい威力だな。死なないにしても結構ダメージ入ってるだろ、これ。


 いやぁ、ぶっつけ本番だったけどやりゃあ出来るもんだねー。チョロすぎー。


「なるほどな。よもやただの羽虫とは思うまい」


「っ!」

 

 は? おいおい待て待て! 無傷なのか⁈


「ククク。あれで倒せたと思うたか? 聖のスキルを使う者にその耐性が無いわけが無かろう?」


 チッ! 完全に余裕こいてたわ。

 まぁいい、なら次を試すだけだ!


 狙うは腹下。多分1番防御力が低いはず! 

 俺には〈高速飛行〉がある。なら、速さで翻弄するまで!


「行くぞおぉぉぉぉぉぉぉあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁈」


「貴様のような羽虫を潰すにはコレが丁度良かろう?」


 なんじゃそりゃ! 滝壺の水を操ったのか? こんなん波じゃねーか!


 俺の眼前には、アールグを上回る高さの大波が押し寄せていた。


 どうするどうするどうする! 

 カオス・ヴィアベルは? ダメだ呑み込みきれない。

 避けるスペースは? そんな隙間はもちろんない。

 なら後方転換か? いやいや、このスピードじゃ無理だ!


 ────なんちゃって。


消滅バニッシュ!」


「な⁈ ……水が消えた、だと?」


「ハハハハ! ちょっと予想が外れたかー? 〈身体強化〉!」


「グゥ!」


 〈消滅バニッシュ〉。全てを消し去る虚無のスキル。

 俺が対象と認識した全てを消せる俺のユニークスキルだ。

 どうしてこれが俺に発現したのかは知らないけど、ありがたいことこの上ねーわ。

 カオス・ヴィアベルでダメならコレを使えばいい。

 ぶっちゃけ、この2つを掻い潜れる魔法系のスキルは中々無いだろうな。


 バニッシュで波を消し、それに驚いてる隙に腹下に潜り込んでワンパンかましたわけよ。

 ちゃんと〈身体強化〉してたからそれなりのダメージが入ったはずだ。


「さぁ、まだ始まったばかりだぜ? 気合入れてこーや!」


 

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