第18話爬虫類って顔だけ見たら最強説あるよね

 ここいーなー、ここに住みたいなー。

 マジで神立地じゃん。駅もコンビニもねーけど、なんかもういらねーわ。そう思えちゃうわ。


 俺もヴァルグもご満悦で滝壺の近くに来ていた。近くで見るとますます凄い。滝の音とは思えぬ轟音と、見ただけでヤバイと思える水圧。少し怖いけど、薄らとかかる虹には心が和む。

 少し後ろにいるセルスは優雅に風を感じながら、滝から飛んでくる水飛沫に爽やかな笑みを浮かべている。美しい。

 これで山神が良い奴なら文句なし! なんだけどなー。

 こう思った時点でフラグ立ってんだよなー。


 そう思った俺を肯定するかのように、低く威厳のある声が鼓膜を震わせた。


「我が聖地を踏み荒らす者は誰ぞ」


「な、なんですか! 誰ですか!」


 ビビりつつも敵意剥き出しのヴァルグ。だがそれも仕方ない。

 荒げているわけでもないのに、腹の底にズッシリと圧力がかかる声だ。無意識に背筋が伸びてしまう。

 それに、この声がしてから明らかに強いマナを感じる。

 そしてそれは、あろうことかセルスを超えていた。


「ほう、そこの馬はともかく、羽虫は我に恐れを抱かぬか。まぁいい、貴様ら誰の許可を得てここに踏み入った」


「うっせー! 話すときは人の目を見て話せやコラー! まずは出てこい!」


「いや、ルーナ様⁈」


 この野郎。さっきから上から目線できやがって。見えねーからって調子乗んなや!

 こちとら生前は事あるごとに生徒指導室でゴリラの相手してんだ、今更ヒヨっかよ。


 そう意気込んだものの、俺はすぐに後悔することになった。


「随分と大層な口をきく。いいだろう。だが、一度ひとたび我が身を見た者は、ここから生きては出られぬと知れ!」


 その言葉の直後、ズシン! と地が揺れる。規則正しくリズムを刻み、確実にこっちに近付いて来る。


 そして、音が止まる。

 異様な静けさの中、滝の音だけが耳を刺激する。


「な、なんでしょう? 音が止んだ?」


 ────違う、これは違う!


「後ろに跳べヴァルグ! 死ぬぞ!」


 俺の叫びにすぐさま反応したヴァルグ。体を翻し、焦りつつも俺の指示通りに後方へ跳躍する。


 それから1秒も経たぬうちに、さっきまでヴァルグの居た位置に一本の巨大な氷柱が降り落ちた。

 圧倒的なマナの塊。込められているのは明らかな殺意。


 そして、そんな物騒なモノをぶっ放した大馬鹿野郎がその姿を現した。

 轟々と流れる滝を割り、徐々に徐々に滝から抜け出て来る。


 顔の3分の2ほどを占め、小さくも鋭利な歯を並べる口。爬虫類特有のギョロリとした目。体を覆う銀色の皮膚はゴツくて刺々しい。


 俺はこの生物を知っている。これは────


「ワ、ワニ? ────ってデカすぎんだろーが!!」


「ほう。不意を突いたつもりだったが、アレを躱すか」


 俺たちの眼前に現れたのは巨大な銀色のワニだった。


 いやいや、デカすぎる! 滝壺の深さは大体4、5メートル弱。広さは横500、縦200ってとこだ。そこから考えりゃこいつのデカさは縦14、5メートル、幅18メートルくらいか? 長さは300弱くらいだろう。

 規格外すぎる。前世なら間違いなくギネスだ。

 しかも、マナがかなり多い。少なくともセルスの3倍近くはある。

 シクった、調子こいて煽らなきゃ良かった!


 この状況で俺たちが取れる行為は1つだけ────。


「ヴァルグ! キツイと思うけどセルス乗っけろ! 逃げます! 怖いんで!」


「流石はルーナ様です! ちょっとダサいですけど、賛成です!」


 こいつ今ダサいって言った? 知ったことか、世間体よりも命の方が大事なんですー。


 ヴァルグの足と、俺の〈高速飛行〉があれば逃げきれる。結界はセルスに任せれば問題ない。

 今こいつと戦うのは早すぎるからな、今回は逃げるが勝ちって事でいいっしょ。


「セルス! ヴァルグに乗れ! 逃げんぞー!」


「久しぶりね、アールグ」


 いや、無視かい!

 ってかアールグ? 久しぶりってなに? え、もしかしてお知り合い?


「さぁ、セルスさん! おのりくだ──」


『止まれヴァルグ!』


「ざぃぃぃぃ! ぶっほ!」


 あいつマジおもしれーな。吹っ飛び方がもはや芸術の域なんですけど。

 もしやと思ったけど、やっぱこれが〈言魂〉か。

 俺ちゃん特製ユニークスキル、自分よりもマナ量の少ない相手に強制的に命令を下せるスキル。

 魂に直接命令するから、耳を塞いだり爆音で掻き消そうとしても全くの無駄。ってなスキルだね。

 まさかヴァルグ相手に使うとは思ってなかったけど、好奇心には勝てなかったな。

 すまんヴァルグ。おかけでこんな時だというのに、1つスキルを試せました。お前の犠牲は無駄にしないよ。


「ちょっと待って下さいよー!」


 どこのお笑い芸人だお前は。


 まぁいい。今はあのワニとセルスだ。


 ────と、思って振り向いたのだが。


「見て下さいよ、ルーナ様!」


「あぁ、どうなってんだ?」


「ね! このどんぐりめっちゃ綺麗ですよ! 自然にできたとは思えないなー。どうなってるんでしょーね」


「それじゃねーよ! なんで今どんぐりの話してると思ったんだよ! 今すぐポイしてきなさい!」


 マジでKYってレベルじゃねーぞ、バカ馬!



 

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