第17話凄いもの見た時って語彙力消えるよね

 ふむふむ、なるほどね。

 えーっと、使ってみた感想ですが。


 なんもないやないかい!!


 姿形はもちろん、マナすら見つからん。少なくとも俺の見れる範囲には。

 おかしい、おかしいぞ。〈魔力感知〉も〈天眼〉もレアスキルだが、〈第六感シックスセンス〉はエンシェントスキルだ。こっちの方が信憑性は高いはずなのに。


 シクったな。〈第六感〉の裏付けをする為に、〈魔力感知〉と〈天眼〉を使ったのに余計に混乱してしまった。

 いくらエンシェントスキルとはいえ所詮は勘、という事だろうか。


「なるほど、ルーナ様お見事です」


 顔に出さずとも、内心ではかなりテンパってた俺にセルスが声を掛けてきた。


 お見事だと? いや、まぁ確かに〈第六感〉は常時発動型パッシブスキルであり、ここら辺に山神がいると今も思うわけだけど。

 正直、半信半疑になってきてる。

 だって見つからんのですもの。


 セルスはなにか気づいたように、薄らと笑みを浮かべている。本当に、どこまでも頼りになるね。


「ルーナ様のスキルは確実にここ、正確にはこの大木の後方を指し示していると思われます」


 セルスの言う大木とは、ちょうど今俺たちが休んでいる場所に生えている木の事である。

 樹齢とかは分からんけど、周りの木と比べてもかなりサイズ差があるから結構長生きしてると思うんだよね。


 でも、セルスはこの大木の後方って言ってたけど……なんもいねーぞ? ────と、思われたその時。


 ほんの微かではあるが、一瞬空間が歪んだように見えた。

 これはもしかして……。


「……結界か?」


「はい。ヴァルグの言っていた護封結界かと」


 あーね。通りで見つからんわけよな。

 今更ながらに俺はヴァルグの言葉を思い出す。


 自分の存在がバレないように自分自身を封印してるんだったか? すっかり忘れてたわ。


 だがどうする? 山神に会うにはこの結界を突破しなければならない。

 でも、山神からしたらそれは迷惑極まりないだろう。せっかく身を隠してるのに、俺たちのせいで住所特定とか洒落にならんよな。

 この山に住むのに、どうしても山神の許可が必要だと言うんなら、別に無理してこの山に住む必要はない。多少無茶をしてでも他の場所に移るべきか?


 悶々と悩む俺を見かねたのか、セルスが意見をだした。


「よろしければ、私に任せて下さいませんか?」


「どうにかできんのか?」


「はい。これは聖属性の結界ですので、私の得意分野です。それにこのマナには、覚えがありますので」


 セルスは自分でハードル上げるよなー。めちゃくちゃ頼もしいんですけど。

 隣でカエルとガチ喧嘩してる馬とは大違いだわ。


 ん? ────カエル?


 あれ? さっきまで生物は1匹もいなかった。少なくとも200メートル圏内には。俺の見落としか?


「それでは始めます」


「壊すなよー?」


「フフッ。お任せ下さい」


 一応、念を押したけどセルスも分かってる様子。杞憂だったな。


 そうしてセルスは大木に手を当てがい、そっと目を閉じる。


 ────数秒程度だったが、どうやら終わったようだ。


「では、参りましょう」


 ニコッとなんだか気分良さげに笑うセルス。

 でも────


「なんも変わってないやないかーい!」


 そう、なにも変わっていない。景色は相変わらずのままだ。

 俺のツッコミを見て、隣でケタケタ笑ってるヴァルグを蹴飛ばしてセルスに向き直る俺。

 ちなみにカエルはもういなくなってました。


「セルスについてきゃいーんか?」


「はい。私の後を来てくだされば問題ありません」


「だとよ。行くぞ、ヴァルグ」


「はぁい!」


 そうして俺は、ヴァルグの頭に乗っかりセルスの後方に移動する。

 これからどんな展開になるのやら、若干の不安と膨大な希望を持って、いざ行かん!


「行こう」


「はい」


 短いやりとりだったけど、セルスは笑ってる。何かを楽しみにしているような、そんな幼い笑顔で。


 セルスが再び大木に手を押し当てると、今度は明確に空間が歪んだ。


「この程度の結界とは……あの子もまだまだね」


 この程度? あの子? 片足を踏み入れたセルスがボソっと何か言っていたが────


「うひょー! なんかすっごいですね! 楽しみだなー、友達増えるかなー!」


 隣でギャンギャン騒いでいる馬のせいで上手く聞き取れなかった。

 まぁ、気持ちは分かるんだけどね。


 そして、セルスに続き俺とヴァルグも歪みに足を踏み入れる。

 一瞬の出来事だったけど、確かに空気が変わった。

 伏せていた顔を上げるとそこには────


「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」


 そこに広がっていたのは、絶景中の絶景。山中とは思えぬ程の、楽園と呼ぶに相応わしい景色があった。

 見渡す限りの大自然。背の低い草が生えそろい、そこかしこに色とりどりの花々が咲き誇る。

 間を縫うように、幾つも分岐した細く浅い川が緩やかに流れていて、その上流には圧倒的な存在感を放つ大瀑布。テレビで見たナイアガラの滝のように、半円形で滝壺を囲んでいる様は壮観だ。

 まさしく、絵画の一面を切り取ったかのような、洗練された風景がそこにはあった。


 この世界来て初めて見た景色も興奮したけど、それとは別の興奮が今はある。

 男心をくすぐられるというわけではなく、今まで触れることの出来なかった神秘に触れてる感じ?

 あ、あれだ。初めて大自然の世界遺産を見た感じに似てるかも。

 親父に連れられてグランドキャニオン見に行った時となんか似てるし。


 この感動を前にして騒がないのはもはや人じゃねーよ。いやまぁ実際、人じゃねーんだけどさ。


 ってなわけで、俺はとりあえずヴァルグと踊った。


 

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