第11話人は見かけによらないね

「おい! 大丈夫か! セルス、回復魔法使えるか⁈」


「使えますけど……使う必要はないかと」


 冷てー、こいつ実は薄情なやつなのか?

 こんなに辛そうなのに。


「お……」


「お? おってなんだ! ってかお前喋れんのか!」


「お腹が……空いています」


「…………、すまんセルス。こいつを塵に変えてくれ」


「仰せのままに」


「え? あ、ちょっと待ってください! 本当なんです、嘘じゃないんです!」


 見た目はクールでカッコいいのに、喋ると残念な奴だった。

 さっきまであったはずの傷や火傷も治り始めているし、どれも致命傷になるようなものではなかった。

 ただ単にコイツは、腹が減り過ぎて戦闘どころではなかったらしい。

 こんな奴を助ける為に文字通り飛んで来たわけだけど……なんか俺が馬鹿みたいじゃねーか!


「セルスは知ってたのか?」


「はい、始めから」


「マジか」


 セルスは始めから、つまりは崖上で見ていた時から気付いていたのだという。

 俺は冒険者もどき達に対して怒っているのだと思っていた。だけど実際は、冒険者もどきとこの不甲斐ない二角黒馬バイコーンに呆れていただけだったらしい。

 なんでも、まさか俺が助けに行くとは思わず、そのままスキルの説明に入る予定だったとか。


 謝ることしかできませんな。


「なんで見ただけで気づいたんだ?」


「そうですね、理由は3つほどございます。まず第一に、そこの間抜けな馬は、確かに防御力に優れているわけではありません。しかし、その程度の傷や火傷は上位魔獣からしてみれば大した事はないのです」


 とうとう馬呼ばわりになったか。

 そしてコイツは、阿呆なくせに上位の魔獣だったんだな。阿呆なくせに。

 でも確かに。見た感じこの程度の傷なら自然の治癒力で十分に治るらしい。

 どれだけ攻撃しようと、治癒時間の方が早いからそもそも削りきれないのか。


「次に状態異常の可能性を考えましたが、それはありえないと思いました。二角黒馬バイコーンは各種状態異常の耐性が高い。特に、毒系統は全て無効化されるはずです。動けていたので麻痺などの身動きを封じる系でもなかったようですし。いくらそこの馬が間抜けでも、これは種族の特性ですので例外ではないでしょう」


 ふむ。これは二角黒馬バイコーンという種族を知っているセルスだからこそ見抜けた事か。そもそもの知識の無い俺には到底気付けるはずもない。

 本当はちょっとだけ、弱らされているのでは? と思ってはいたが、これが一番有り得なかったらしいな。


「最後に、見ての通りそこの馬は痩せ過ぎています」


 うん。

 それは俺も思った。コイツは明らかに細過ぎる。スリムとかそういう次元じゃないのは明白だ。

 しかしまぁ、大事がないようでなりよりだった。


「それにしてもさ、なんでお前そんなに腹減ってんの? まさかとは思うけどダイエットでもしてた?」


「アハハハ、そんなわけないじゃないですか。そもそもダイエットってなんですか?」


 このクソ馬野郎! なんで知らねーのにノってきたんだよ、おちょくってんのか!

 俺の後ろには、二重人格でおなじみのセルス姐さんがいんだぞ? シバいてもらっちゃうぞ?


「実はですね、不眠不休でどこまで全力疾走できるかを試していたんですが、おそらく1番ピークであろう時に冒険者達と出会ってしまいまして」


「やってる事が謎すぎんだけど。頭、釈迦なん?」


 不眠不休で全力疾走できるかを試す必要がどこにあんの?

 発言、行動、思考の三冠バカ達成だわ。心の底からおめでとう。

 でも悪い奴じゃなさそうなんだよな。

 見た目は結構悪役っぽいけど、話してみると気さくな奴だった。

 一期一会と言うし、俺もまだこの世界に来たばっかりだからかな。初めて出会ったコイツと仲良くしたいと思ってしまっている。


「ちなみに、どんくらい走ってたん?」


「そうですね、丁度蹄の数ですので8日ほどですな! 私もまだまだですなー! アッハッハ!」


 8日間ぶっ続け? しかも全力で? そしてまさかの体力より先に空腹の限界がきたって?

 めちゃくちゃすぎだろ。

 まぁ、思考からして普通じゃないのは分かっていたけど。

 それよりも、コイツの運動量って凄いな。いや、二角黒馬バイコーンは皆んなこのくらいできるのか? 気になる……


「お前名前なんてーの?」


「あ、僕はヴァルグといいます!」


「俺はルーナ、後ろの美女はセルスな、よろたろー。ところでヴァルちゃん、お前の種族って皆んなそんなに走れんの?」


「んー、いや、多分これには個体差がありますね。平均的に見れば、全力を維持できるのは5日間くらいでしょうか」


 それでも十分すげーんだけど。

 でも、これで分かったな。こいつはそれなりに強い個体だと思う。頭はクソ弱いけど。

 身体能力だけでなく、多分コイツは戦闘においても通常の二角黒馬バイコーンより強いと思うんだよね。完全に直感だけど。


 閃きました。


「なぁ、ヴァルグ。俺達と一緒に来ねーか?」


「ちょっ────」


 驚き、止めようとするセルスを、俺は片手を上げて止める。

 そして、返事を待つべくただヴァルグを見つめる。


「一緒に、とはどこまででしょうか?」


「どこまででもさ! 俺の仲間になってくれよ! 唐突で悪いんだけどな、こうゆうのって大体バメンで決めるもんじゃん?」


「…………」


 目を見開き、すっかり黙ってしまったヴァルグ。

 なんか馴れ馴れしすぎたか? 距離感シクった事ねーんだけどなー。


 なんて思っていたら、一筋の光がヴァルグの頬を伝った。


 

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