第10話セルスって人格2つあるん?

 なんだかんだで事態は収束しつつあるわけだが、何か気になる。


「なぁ、セルス」


「なんでございましょうか、ルーナ


 うん、やっぱり違うよね。


「あのさ、呼び方変わってない? この世界来た時はさん付けだったよね? あれからまだそんなに経ってないんだけど……なんかあった?」


「私、先程の戦闘……いや、蹂躙とでも呼びましょうか。あれを見て、ルーナ様に王の器を見ました。貴方様に付き従いたく思います」


 蹂躙とは人聞きが悪いな。確かに一方的で、俺TUEEEE状態ではあったけども。

 それよりも、付き従うだって?

 付いてきて欲しい、というか一緒にいるつもり満々だったけど、従う必要はなくない?


 なんて考えていたその時。


「クソがぁぁぁぁぁ!」


 俺の背後からさっきの冒険者もどきの1人、リーダー格の男が俺を目掛けて突進して来ていた。

 手にはナイフを握っている。さっきの大剣に比べれば殺傷力は落ちるが、その分身動きが早いので、今の俺相手には最適解と言えるだろう。

 当たればの話だがな。


 さっきの技を使おうと俺が指を向けた瞬間、俺の後ろから光線が発射された。


純白の熱線ホワイト・レイ


 静かな声で唱えられたその魔法は、俺を通り過ぎ、哀れな男の頬を掠めた。

 真っ白な色をした超高温のレーザー。それが今の魔法の正体だった。

 後ろの樹々は、ブスブスと音をたてて焼き貫かれていた。

 秒速のそれをかわすのは至難、防ぐにしても並の防具類では意味をなさないだろう。

 単純な魔法かもしれないが、実際くらうのは避けたいものだった。


 そして、放った張本人がゆっくりと俺の前に歩み出て、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔になった男を見ながら更なる追い討ちをかける。


「愚図が。身を弁えなさい」


 容赦ねーなと想いながら、それでも俺は止めようとはしない。

 力量差も分からない阿呆にはこれぐらいの刺激が丁度良いからだ。

 べ、別にセルスの事が怖いわけじゃないんだからね!


「貴方が今、刃を向けたのは月満つる夜の支配者。月下の王たるルーナ様と見知りおきなさい」


 おぉっと、これまた中々に厨二心をくすぐってくれるフレーズ登場だな。

 セルスさん結構良いセンスしてるやん!


「それでもまだ挑んでくると言うのなら、ルーナ様の従者たる私、光の上位精霊セルステリアが相手を務めましょう」


 ……従者? ……上位精霊?

 従者については置いておくか。それよりも上位精霊って? セルスは神様だろうに。

 でも、正直なにか引っかかっていた。この世界に来てからセルスを見たとき、確かに初めて見た時の神々しさはなかった。

 なにか理由があって、この世界では正体を隠しているのか。それとも、本当に神の力を失っているのか。これからの為にもハッキリさせておく必要がありそうだ。

 この戦いが終わったら話してもらおう。


「じ、じ、上位精霊だと⁈ 妖精といい、精霊といいなんなんだこの山は! す、すまねー! 助けてくれ! 命だけは────」


聖なる裁きジャッジメント」 


 男の頭上から、つるぎを模した光の塊が数本降り注いだ。

 男に外傷はないが、ほんの数ミリズレていたら確実に八つ裂きになっていたと思う。

 結局許さないんかーい! と思ったが、気軽に口出しできる空気感じゃない。

 ってか、セルスのキャラ変が尋常じゃない。とてもじゃないが、同一人物には思えなかった。


「口の利き方には気をつけなさい。次は……ないですよ?」


 多少の恐怖はあるが、その冷たくも妖しいセルスの表情に、いつしか俺は見惚れていた。

 なんかキレた時の佳㮈かなに似てる気がする。


 しかしあれだな。ドMの考え方は理解できなかったけど、なんか少し分かった気がする。


「すみません、すみません! もう2度しません、どうかお許しを!」


 さっきまでの威勢もすっかり消え、男は見栄えの悪い土下座を俺とセルスに見せつけた。

 股の辺りがなんか濡れてるけど、これには触れない方がいいと思う。


「どういたしましょうか、ルーナ様」


「うん、帰らせていーんじゃね? あ、そこらに転がってる仲間もついでに連れてってねー」


 この一言に、男は感謝しながら仲間を引き連れ帰っていった。

 そして、ここからセルスへの尋問を始めようと思う。


「さーてと、なぁセルス」


「なんでしょう?」


 さっきまでの怖いセルスは跡形もなく消え去り、俺の知っているセルスに戻っていた。

 こいつは主演女優賞狙えるわ。俺は確信を持った。


「お前神じゃねん?」


「それをふまえて、スキルについて説明いたしましょうか」


 待ってましたと言わんばかりだな。もうこれからの説明役はセルスに任せよう。


 そんな事を考えていた俺の視界に入ってきたのは二角黒馬バイコーンだった。

 すっかり忘れていたけど、このままスルーは流石にかわいそうよね。


「まずですね」


「はい、ストップ。ちなみにその話って長い系?」


「大事な事ですのでそれなりに長い系です」


 だよな。じゃあ後回し決定!


「それなら先に二角黒馬バイコーンを────っておい!」


 助けよう。そう言おうとしたタイミングで二角黒馬バイコーンは力失く地に伏した。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る