第8話やるだけやったろ!

 やっばい! やばいやばいやばいやばい! 速すぎる! マジでフジヤマくらいのスピード出てんじゃね?


 お、いじめっ子発見。

 ……このまま、突進かますのもありか?


 うし! 覚悟ー! って避けんなや!!


「へぶぅっ!」


 ……だっさ。っつか木にめり込むってマジヤバみさわ先輩なんだけど。

 抜ける気配なし。仕方ない。背に腹はなんとやらだな。癪だが助けてもらおう。


「兄貴! 触らねー方がいいですって! なんか、紫の筋入ってるし、なんか不気味っすよ! 毒じゃねーですかい?」


 あぁん⁈ 毒? 不気味だぁ? 随分と舐めたこと言ってくれんじゃねーか!


「おい! おいおいおい! 誰が不気味ですかこの野郎! 毒じゃねーからちょっと抜いてくれない?」


 ……返事が帰ってこない。聞こえてないのか? なに俺、無視されてんの? え、やだ信じたくないんですけど。異世界初日に無視とか辛すぎるんですけど。


「あれ? おーい、もしもーし? 聞こえてるー? え、シカト? もしもーし!!」


 お願いします、聞こえてて下さい。

 ってゆーかこの木、臭っ!


 おっ。誰かに羽掴まれた。やっと抜け出せる。ほらみろ! やっぱ無視されてたわけじゃなかったよい!

 さーて、大事なのは第一印象だな。バシっといってみよー!




「おいおい! こりゃ、妖精フェアリーじゃねーか! なんだってこんな山にいやがんだ?」


「理由は分かりやせんけど……兄貴、これって──」


「あぁ、どうやら俺達は最高についてるらしい」


「ギャハハハ!」

「こりゃあいーや!」

「こんなとこまで来た甲斐があったぜ!」


 お! なんか楽しそうだな! とりま、俺も笑っとくか!


「アハハハハハ! なにが楽しいのか知らんけど、もうそろ離してくんない?」


「なんでお前まで笑ってんだよ! 自分の状況が理解できてねーのか⁈」


 またその言葉かよ! 理解できてるわ!

 転生空間からここに来るまで、そんなに時間が経っていないのに俺はもうすでに3度、自分の状況について考えさせられている。

 さすがにもう、うんざりだ。


「いいから、離せよ!」


「ククッ! 離すかよ、てめーみてーなお宝を! こんだけ元気なら王都でも十分に売れるだろーさ」


 売る? お宝? もしや、俺って人気者?

 ってゆー話じゃねーか。

 俺の異世界の知識的に考えれば、この流れはあまり良くない。

 もし仮に、妖精フェアリーが希少種だとしたら、俺が売られるのは間違いなく貴族的な奴のところだろう。

 そうなってしまえば、俺の異世界ライフは初っ端でこけるはめになる。それだけは避けたい。

 でも俺は知っている。この状況はチュートリアルだと! 

 さて、早速チートレベルの魔法でこいつらを撃退してみるかね。


 …………いや、魔法ってどう使うんだ? そもそも俺って使えるのか? 進化の仕組みもいまいち分かってない。よく考えればこの世界の戦闘について、俺はあまりにも知らなすぎる。セルステリアを置いてきたのは失敗だったか。

 頼みの綱はそこにいる二角黒馬バイコーンさんだけど……正直、立ってるのがギリギリって感じだ。

 

 ────いちかばちか、を試してみるか。


「おい! これが最後の警告だ! 今ならまだ許してやる、離せ!」


「ガハハハ、おめーみてーなチビになにができるんだ? ハッタリならもうちょっとマシなハッタリにしてくれよ!」


 ……野郎、でけーからってイキりやがって。


 落ち着け、そしてよく思い出せ。多分アレは俺が初めて使った魔法のはずだ。

 セルステリアはなんて言ってた?

 強い想いを言葉に乗せる。それすなわち、魂の咆哮。

 こういう時に大切なのはイメージだ。俺の記憶にある異世界人は皆んな素晴らしい想像力だった。

 俺は想像する力はないが、妄想なら毎日してた。これにおいては負けない自信がある! 違いなんか分からないし、大体同じ意味だと思う。まぁ平気だろ。


 想いを言葉に乗せる……なんか乗せるより注入する、の方がしっくり来るな。注入……注入……あ、シュークリームだ。生地にクリームを入れる感じ。これでいこう。


 次だ。

 届かせるべきは相手の耳じゃない。魂、つまりは核の部分。

 これはー……FPSのスコープだな。補正がかからないのは、ちょい難易度高いけど気にしてる場合じゃない。これでいく。

 スコープをイメージして狙うは心臓部。

 核がどこにあるか知らんけど、急所ら辺にあると踏んでる。

 失敗のリスクは高い。でも、もしここで成功したら最高にカッコいい!

 失敗したら、そん時はそん時だ!


 イメージはできた。覚悟も決まった。あとは根性を見せるだけ。…………よし!


「覚悟はいいな?」


「おうおう、なんかやるなら早くやれや!」



『離せ』


 

 

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