第5話初めまして、異世界

 神と人は違う。存在意義はもちろん、成り立ちから次元まで。全てが異なる。

 神は完璧な存在であり、人とは不完全な存在である。

 それでいて成長する事をやめ、意地汚い本性を隠し持ち、他人を蹴落とす事に躊躇がない。下劣で下等、救いようのない愚か者達。

 それがセルステリアを含む神々の素直な意見だった。


 月夜がこれから行く予定の異世界には4名の異世界人がすでに転生している。

 1人は早急に死に、1人は悪に染まりやりたい放題、1人は我関せずの自己中で、最後の1人に関してはもはや何をしているのか、神ですら感知できていない状態だった。


 これらは皆セルステリアによって転生を果たした者達。

 しかし、この中の誰1人としてセルステリアを失望させなかった者はいない。

 それ故にセルステリアは人を信じない。信じたくても信じる事ができなかった。


 けれど、今自分の目の前にいる者は違う。純粋すぎてある意味で危うさを含んではいるが、それでも前者よりはマシであり、セルステリアが信じるに値する者であった。


「それでは2つめの質問です。あなたはどのように生きたいですか?」


「楽しく生きたい!」


(即答、一瞬の迷いもなし。単純で危機感を考慮してすらいない。だがそれが彼の真理なのだろう。すごく目が輝いている。彼の生き様を見てみたい。失うものは大きいけれど、それでも彼を近くで見ていたい)


 セルステリアは1つの覚悟を決めた。


「いいでしょう。それでは共に行きましょう! 新たな世界へ!」


「待ってました! ……共に?」


「ほらほら、ボケッとしてないで! 置いて行きますよ!」


 無邪気な笑顔を向け手を差し伸べるセルステリアに流されるように、月夜はその手をとる。

 疑問は1つ残ったがまぁいいだろう、それ以上に月夜は異世界への期待を昂らせ、ワクワクしながら2人一緒に眩い光に消えていったのだった。




「──さん! ──さん!」


(……なにか聞こえる。呼ばれてるのか?)


「──キヤさん! ──キヤさん! 起きてくださーい! ツキヤさん!!」


「いったぁ! 痛い!」


 バシン! という音の後に頬にはしる激痛に目が覚め、飛び起きる月夜。

 くっきりと紅葉マークが刻まれている左の頬を優しくさすりながら、辺りをきょろきょろと見回して、ようやく理解が追いついた。


「すっっっげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 見回す限りの大自然、見たことのない怪鳥が空を舞い、眼下には厳つい角をはやした獣に明らかに冒険者っぽい格好をした人間もいる。


(間違いない! ここは異世界だ! )


「ほらほら、あんまりはしゃぐと落ちますよ」


(あん? 落ちる? ってうわ! なにここ、めっちゃ崖の上じゃん! テンション上がり過ぎてて気付かなかったぜ。

 ってかこの声、やっぱ一緒に来てたんだな。)


「ありがとー、セルス……あれ? なんかデカくない?」


(振り返ってお礼を言っては見たものの、なんかセルステリアがデカい。少なくとも俺の10倍近くはあるぞ、これ。

 なに? 成長期?)


「違いますよ。あなたが小さいんです」


 クスクスと笑いながら、そっと月夜を掌の上に乗せて顔を近づける。


(近っ! あ、でもなんか良い匂いする)


「転生の間でも思いましたが、あなたは少々ご自分の外見に鈍感過ぎではありませんか?」


(外見? そういわれると確かに。なんだか体が軽い。背中にもなんか妙にしっくりくる違和感がある)


「こちらをどうぞ」


(手鏡常備とかナイス女子力! 神でも身嗜みは大事だよね! でもなんだろ。初めて会ったときに比べて神々しさが弱まってる気がする。……慣れたのかな? まぁいいか、それより今は────)


「え? これ俺なの?」


「はい! アンケートの問36と問49を組み合わせた結果です、とてもお可愛らしいですよ」


(あーね、確か問36は人間と人外のどちらに転生したいか。んで問49は最初から強い存在になりたいか、それとも生きていく過程で強くなっていきたいか。だったかな? ……俺よく覚えてるな、この力は定期テストで発揮したかった)


(まぁ、そんな事はいい。ぶっちゃけこの姿も新鮮でなかなかに嫌いじゃないしな。んで? その結果がどーしてこの姿なん?)


「なにかご質問ですか?」


(あれ、心の声が聞こえてない? やっぱりなんかおかしい気がする。でも今は自分を知る事が先決かな)


「その結果がなんでこの姿? これって──」


「はい。妖精フェアリーでございます」


 月夜は今、小さな妖精と化していた。顔や髪型の造形自体は生前とは然程変わらないが、顔は若干幼くなり、銀色の瞳を宿し、髪は金ではなく濃いめの紫に染まっている。

 大きく変わったところと言えば、背中には薄い紫の筋が入った蝶のような羽がえた事と、自分が掌サイズにまで縮んでいる事だろう。


 妖精フェアリー。それは、月夜の記憶では小さくて悪戯が大好きな非力な存在。であった。

 そして、さっきのアンケート結果から見ても非力な存在というところは間違っていないらしい。


(これはマズいのでは? 俺の知ってる異世界転生者や召喚された主人公達はなんだかんだ気づかぬうちにチート級の力を手に入れている。

 しかし、俺は現状かなり弱いらしい。今のセルステリアの言葉からも、これは確定している)


(そういえば、転生あるあるのチート武器とか貰ってないわぁ)


 月夜は悔やんでいた。アンケートが、セルステリアの言っていたようにめちゃくちゃ重要であったと思いながら。




 

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