第4話結果オーライ!
「し、仕切り直しましょうか」
「そーっすね」
しゃがみ込んで自分の失態を嘆き散らしていた月夜に気を使い、セルステリアが話を進めようとしていた。
「ではまず、今の貴方の状態について説明しますね」
この世の汚れなど、全て浄化できそうなほどに美しい笑顔でセルステリアは説明を始めてくれた。
ちょいちょい小難しい話ではあったが、要約すると、月夜は間違いなく死んだ。
そして、この殺風景な転生空間に迎えられたのだという。セルステリアの言っていた条件とは死を意味していたのだそうだ。
「ちょい待って。じゃあ資格ってなんなん?」
(条件が死ぬ事なのは分かった。ってか分かってた。だって転生なんだもん。生きたままじゃ召喚になっちまう。
でも資格については全く分からん。話を聞いてた限りだと、条件を得る為には資格が必要って感じの順番らしい。なら、資格とは条件よりも簡単な事なんじゃないか? ってとこまでは考えついたけどそれ以上の事は駄目だ。説明にも無かったしな)
「資格とは願望の提示。つまりは『異世界に行きたい』という願いを心を込めて声に出す事です」
「え? そんだけ?」
「そうですよ? 簡単でしょう」
(なんの気無しに言ってるけど、確かに簡単だ。そんな事なら年がら年中言っている。
あー、でも確かにその資格を得たところで実際に条件である死を体験しなければならないのか。そう考えれば納得いくな)
「厳密に言えば、私を含む転生神にその声が届かなければなりません。そしてそれは、余程の強き想いを込めなければ到底不可能な事なのです」
「余程の強き想い……」
「それすなわち、魂の咆哮と言っても過言ではないでしょう」
「言葉に魂を乗せる……
「正確には
(へー、じゃあ異世界に行くにはオタクじゃなきゃ無理だな。生半可なやつにはそのチャンスすら訪れそうにない仕組みだわ。
言葉に魂を乗せる。霊魂という言葉があるように、2つは同様のものと見做してもいいのか。)
まぁいいか。どのみち俺の転生は確定してるみたいだし。今となっては関係のない話だ。
「現状の把握ができたようなので早速異世界に」
「行くのか⁈」
「行くためにアンケートにご協力下さい」
「ゆっる! それって必要なん?」
「とても重要です」
「ちなみに何個ぐらい質問あんの?」
「軽く50は下らないかと。さぁ、まきでいきましょう!」
(うぇい……地味に多いな。ってかまきって業界の
(────────やっと終わった! 50なんて嘘ばっか! 数えてたけど100はあったぞ!)
「ですから軽く50は下らないといいましたのに」
(策士め。そして心を読むのをやめていただきたい。)
かれこれ1時間。月夜はセルステリアの質問に答えていた。そんなん必要ある? というレベルの質問もいくつかあったが、純心な月夜は正確かつ素直に全て答えていた。
ちなみに、質問内容は家族構成から経験人数に至るまで多種多様でとても濃い内容であった。
アンケートも終了し、さぁ異世界へ────
「それでは、最後に2つほどよろしいですか?」
行けなかった。どうやら、まだ質問があったらしい。
しかし、先ほどまでの笑みとは違い、今のセルステリアの笑顔はどこか寂しげで悲しそうな笑顔だった。
「これからする質問は、完全に私個人の質問になります。もちろん、答えたくなければ拒否していただいてかまいません」
月夜はセルステリアの変化を見逃さなかった。こんな男でも気を使うくらいの事は出来るらしい。
「別に今更じゃん? 聞くだけ聞いてみ!」
優しく元気に。まるでなにも気づいていないですよと言わんばかりに月夜は質問を促す。
「……では1つめ、あなたに怒りや悔しさはありますか?」
セルステリアは俯きながら、押し殺した小さな声でそう言った。
「あなたは不条理に殺された。ただ単に巻き込まれただけ、抵抗もできずに。嫉妬という醜い人の感情によって……」
セルステリアの質問は道理に適っている。自殺はともかく、殺人の被害者とは本人の意思とは関係なしに命を奪われるのだから。
しかも、月夜は今回なんの関与もしていない。ただ友達と一緒に帰っていただけだった。
この結果を見れば怒って当然、悔しくて当然なのだ。
だが、月夜からはその感情が読み取れない。表情はもちろん、心からもそれを読み取る事がセルステリアにはできなかったのである。
自分の死にさえ無頓着な者は、例えどれだけ強くなる素質があろうとも必ず早々に死ぬ。これから行く異世界とはそういう所だとセルステリアは知っている。だからこそのこの質問であった。
「んー、正直に言うとそんな感情は全く湧かなかったんだよねー」
(やっぱり……、あなたは危険だわ)
真剣な自分とは真逆の態度で答えた月夜に対して、セルステリアは失望と不安をより一層募らせた。
「なにせ俺は最高の死に方をしたからね!」
そして、続く言葉に目を丸くした。
(最高? 電車に撥ねられたのに? 突き落とされたのに?)
自信の満ちた表情で言いのけた月夜はセルステリアの疑心が膨れ上がるのを知る由もない。
「最高……とはどういう意味でしょう?」
そしてこれはセルステリアにとって聞かずにはいられなかった。
「言葉どおりだよ? だってよく考えてみ? 俺の最後の光景は親友達の顔だった。俺の為に手を差し伸べてくれた
月夜はブレずに言った。なんの後悔も持たず、なんの疑いも抱かず。たた大事にされていた事を喜びながら。そしてそれは、セルステリアに伝わった。
(あぁ、この人は本物だ。良くも悪くも馬鹿なんだ。正直で、まるで幼子のように単純で。それでいてとても綺麗な人。
やっと出会えた、心の底から信じられる人に)
セルステリアは密かに思った。そしてさっきまでの失望していた自分を恥じたのだった。
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