第3話邂逅
(暗い……いや、黒い? んだよここは、なんもねーな。っつかなんも見えん。一寸先は闇、だっけ? まさにこの事だわー)
そして、月夜は自分の記憶を探る。
なぜ、ここにいるのか。自分の最後の記憶はなんだったのか。これからどうすべきなのか。
場所も分からず、自分の状態すらも分からず、淡々と自分の神経が麻痺していくような感覚に
そこでふと、何かを感じ取った。
景色は相も変わらず真っ黒のままだが、なんの躊躇いもなく月夜は一方を見据え、歩きだす。
(……なんだ、こっちか)
先には何もない。そこにあるのは無限に広がる漆黒の空間のみ。
だが、月夜は確信を持っている。根拠はないが、今自分は正しい道を歩いているのだと。
(────────どれくらい歩いただろう。1時間? 2時間? それとも10分か? まぁ、どうでもいいか。ようやく辿り着いたのだから)
月夜の前にはなにもない。同じ景色がまだまだ延々と続いているだけ。
だか月夜は、ゆっくりと右手を前に掲げ、まるで扉を押すかの如く重心を傾ける。
すると、眩い光が少しずつ月夜の押した部分から漏れ出し始めた。月夜は最後の一踏ん張りで思い切り手に力を入れ、一歩踏み出す。
勢いのままに倒れ込んだ月夜は目を疑った。
そこに広がっていたのは、さっきまで自分がいた場所とは真逆の場所。
汚れの一つもない純白の部屋。視界を遮る物はなにも無く、少し物寂しい気もしなくはないが、さっきまでいた場所と比べればなんて事はない。
ふいにコツコツコツ、と月夜へと向かってくる1つの足音が聞こえてきた。
人の気配はないが、明らかに自分へと近づいて来ている足音の方へ、月夜は恐る恐る振り返る。
(ふっひょー! キャワたん来たー!)
月夜の前に現れたのは真っ白な美女。文字通り髪から服に至るまで、全てが白に統一されている神秘的な女性であった。
左右に揺らめく滑らかな白髪。きめ細やかで、華奢な白く透き通った肌。その身体を包み込むヒラヒラとした可愛らしい純白のドレス。だが、魅力的なスタイルのせいか、本来は可愛らしいドレスのはずなのに妙に色気がある。控えめに言っても超絶美女である。
「始めまして。
(あれ? この声どこかで……)
「フフ、お久しぶりですね。まさかこんなに早くお会いできるとは思いませんでしたよ」
(あ! あれだ! この前聞こえた声の人! しかし、マジか。あれって本気で転生の予兆だったのか。こう言っちゃなんだが、ぶっちゃけ俺も半信半疑だったんだよねー)
「────!」
(ん?)
「────!」
(あれ、声が出ない)
「失礼ですが、貴方はまだご自身の状態を理解できていないご様子。ご確認を推奨致します」
丁寧な口調と涼やかな声音に心を奪われそうになったが、どうやらそんな場合じゃないらしい。
(は、自分の状態? いや、そもそもどう確認すんのよ? 自分の状態なんて意識した事ねーよ。あ、意識すればいいのか)
月夜は勝手な自己解釈を終えると、改めて自分の身体へと意識を向けた。
(あー、なーる。俺ってもう人……とゆうか生き物でもねーわ。なんかめっちゃキラキラしてるわ)
「貴方は今、魂だけの存在となっております」
(ほーう、これが魂か。なんか、思ってたのと違う。もっとこう、なんつーの? 緑色の火の玉みたいなの想像してたわ。ちょいガッカリ)
月夜の身体は今、紫に輝く光のようなものになっていた。
およそ人間だった頃の名残りは無く、ただの発光体だった。
(あーね、これは喋れんわ。なんで目は見えんの? ご都合主義的ななにかなわけ?)
「いえ、正確には目で見ているのではなく、私の精神体を感知していると言った方が正しいかもしれません。貴方も今は精神生命体なので、可能なはすですので」
(いや、聞こえてんのかーい! あれか、心読める的な?)
「正解でございます」
(さすが神様だね。そんで? 俺ってずっとこのまんまなん?)
「ご希望であれば元の姿にお戻ししましょうか?」
(先に言って下さい。おなしゃーす!)
「では、失礼します」
そう言って、セルステリアは月夜に手を
「はい、完了です」
「本当かよ! ……本当でした、ごめんなさい。マジで神技じゃん」
ほんの数秒、いや、1秒もかからなかったであろうほどの間に、月夜は生前の姿を取り戻していた。
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
(言葉は丁寧、表情も豊か。いやー、改めて見るとマジで可愛いわ。なんかこうビリビリくるね。好きです、付き合って下さい!)
「⁈ え、えと、その、わ、私は神ですので……」
白い肌を赤らめながら、セルステリアはチラチラと月夜を見ている。
(忘れてた)
「聞こえてた?」
「ばっちりと……」
若干の気まずい時間が月夜とセルステリアの間に流れた。
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