第2話さようなら
「あのさ、話変わるんだけどこの前の話覚えてる?」
「この前?
「ちげーだろ、
「ちっがう! もうバカ! しかも2つとも初耳なんですけど?
半ギレの
「あ〜、そんな話してたな。でもそれって2年に上がったばっかの頃だろ?」
「そうなんだけど、……なんかまた最近付き纏われてるんだよね」
若干の疲労を感じさせる声で答える佳㮈。
今、月夜達は高校2年の秋口を迎えている。つまりは半年前にも一度、このての話題があったのだ。この5人は小学生時代からの仲で小、中と佳㮈がモテモテだった事は皆が知っていた。だからその時は特に気にしておらず、いつも通り告白チャレンジャーの出現だと笑い話にしていた。
「あれからもちょくちょくバイト先に来てたんだけど相手にしてなかったんさ。でも……一昨日は家までついて来られちゃってさ」
「マジかよ、それヤバくねーか?」
「そうだよ! ヤバいの! だから相談してるわけ!」
梓に気圧されつつも事態の深刻さを悟る男子一同。翔也なんかは額に青筋を浮かべて話を聞いていた。
「って事で! ストーカー野郎を捕まえるまで皆で佳㮈の護衛よ! オーケー?」
「「「イエス・ウィー・キャント!」」」
意味不明な英文だが、彼らの中でこれは賛成の意を表している。
こうして、佳㮈の護衛兼変態討伐作戦が可決されたのである。
────そして、悲劇は起こった。
佳㮈が今日はバイトがあるとの事なので一同は隣町へ向かうべく駅にて電車を待っていた。
「なぁ佳㮈、そのストーカー君て前に言ってた外見の奴か?」
「そーそー、初めて見たとき衝撃受けたから覚えてる」
「それな」と相槌をうち、電車到着のアナウンスを聞きながら月夜は思い返していた。
(確か佳㮈が言ってた外見は────────)
パァーーーと普段はあまり聞かない電車のクラクションの音が耳を刺激する。
月夜は知っている。この音が鳴る理由の大半は線路上に想定外のなにかがいるときだと。
そして悟る。
(真っ直ぐに向かってくる巨大な鉄の塊。見ていた時よりもいくらかその速度は速く感じる。車掌の顔がよく見える。何かに驚いてるのか? でかい口を開けて叫んでいるように見える。その視線の先にいるのは…………俺?)
さっきまで速いと感じていた電車は今はゆっくりに感じる。いや、電車だけではない。自分を含む世界自体がゆっくりになったのだと、月夜は思った。
(若干ではあるけど背中に感触が残ってる。そうか、俺は……突き落とされたのか)
呆然と事実を呑み込み、無抵抗なまま空中で反転した月夜の目に映ったのは、泣き叫びながら身を乗り出して手を差し伸べている梓。
そんな梓を後ろから押さえ、悔しそうに唇を噛み締めている蓮。
驚愕に目を見開き、口元を手で覆って一筋の涙を流している佳㮈。
そして突き落としたであろう人物の胸ぐらを掴み、今にも殺しそうな勢いで目を血走らせ、激昂している翔也の姿だった。
(おいおい、そんなにキレんなよ翔也。相手死んじまうぞ? まぁ、せっかくだし俺を突き落としてくれたクソ野郎のツラを拝ましてもらっとくか)
あと3秒ともたずに電車に轢き殺されるであろう状況なのに、月夜の顔にはいくばくかの余裕が見て取れた。
そして、ゆっくりと翔也から視線をズラし犯人の姿を視野に入れた月夜は、ひっそりと笑みを浮かべた。
真っ黒で遊びっ気のない黒髪オカッパ。そしてその髪に見事にマッチした黒縁丸眼鏡。学生服は第一ボタンまでぴっしりと留めてあり、ザ・ガリ勉童貞です! と言わんばかり容姿の少年の姿がそこにはあった。
恐怖と狂喜の入り乱れた歪な顔で、荒く息を吐きながら翔也には目もくれずにただただ落ちゆく月夜を見下ろしていた。
(マジかよ、このご時世にまだこんな奴が残ってたのか。っつか、その外見でストーカーってテンプレすぎてもう逆に笑えるわ)
その思考と薄笑いを最後に、逢沢月夜の生は幕を閉じた。
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