チャラ男転生〜進化の系譜〜

ハマネコ

第1話異世界に憧れる少年

「じゃあねツッキー!」


「また明日なー」


「うーい、ばいならー!」


 夕日も沈み、辺に街灯の光が灯るころ逢沢月夜あいざわ つきやは自宅に帰宅した。


 ツーブロックの薄い金髪を無造作に伸ばし、前髪をヘアピンで留め、細く整った眉に若干垂れている瞳。口からは小さな八重歯が見えており、両耳にはリングのピアスが3つずつ付けられている。

 おそらくは学校の制服であろうシャツのボタンは2つまで開けられ、それに合わせてネクタイも緩んでいる。上から着ているセーターはやや大きめで萌え袖仕様、ズボンはもちろん腰パンの童顔少年。

 17歳の高校2年生、控えめに言ってかなりチャラめの少年である。


 時刻は19時をまわる頃、決して部活動や習い事の類をしているわけではないが月夜は満身創痍という顔で帰宅した。

 理由は単純明快、補習である。この男、逢沢月夜は見た目どおりのボンクラであった。


「ただいまーっと、ん? あぁ、そっか今日は誰もいねーんだったけか」


 家のリビングにて、母からの置き手紙を見ながら1人言を呟く月夜。

 冷蔵庫からお気に入りのエナジードリンクを持ち出し、ニタニタしながら階段を上がり自室に向かう。


 月夜にはもう一つの顔があった。


 部屋に入るなり鞄を投げ捨て六畳の部屋に不釣り合いな巨大な2つの本棚の前で立ち止まる。


「さーて、今日はどれにするかな」


 軽く舌で口を濡らして本棚の中身を吟味する月夜。

 その視線の先、本棚に入っているのはもちろん参考書や教科書の類ではなく、大量の漫画本とライトノベルだった。


 逢沢月夜のもう一つの顔、それはオタクの顔だった。

 学校や友達と会うときはチャラオーラ全開の遊び人、しかし一度家に上がればオタクの一面が浮かび上がるのだ。と、言っても別段家族や友人に隠している訳ではない。知っている者は当然いるのだが、普段のギャップとの差があり過ぎて言っても信じてもらえないのだ。月夜もそれを理解しているので次第に言わなくなっていった。


「おし! 今日はこれだな!」


 嬉々として1冊の漫画本を手に取りベッドに飛び乗る。月夜が読み始めたのは、異世界転生の物語だった。


 主人公の青年が現代で死に、異世界転生を果たし無双する。今となっては王道とも言えるありふれた異世界ファンタジー。

 けれど月夜は憧れた。最強の能力で世界を駆け回り、勇者になったり魔王になったり賢者になったり。そんな自由でしがらみのない生活に男心をくすぐられたのだ。


「やっぱいいなー! 女の子とイチャつきながら自由気ままな異世界ライフ、ぜってー楽しいじゃん!」


(────貴方の声、確かに聞き入れました。……これにより貴方には資格が授与されます。あとは……条件を満たすのみ────)


「⁈ なに? だれ?」


 かすかに、けれど確かに聞こえたその声に月夜は目を見開いて辺りを見回す。


(誰もいないよな? 気のせいか? いや、でも確かに……)


「あ!」


 自問自答の最中、何かに気づいたように声をあげる月夜。


(分かった! これはあれだ、召喚される前触れ。前兆ってやつだ! 来た! ついに来たんだ! 異世界召喚の時が!)



「────ってな事を俺は昨日思ったわけよ、どー思う?」


「……ツッキー、耳鼻科行く?」


「保険証ちゃんと持ってるか?」


「心配するな、保険証はちゃんと財布に入れてある……っておい! 俺はいたって普通だわ!」


 翌日の放課後、月夜は昨日の出来事を友人である佳㮈かな翔也しょうやに話していた。

 2人とも信じないようで幻聴を疑っている始末である。

 月夜の反応がいつも通りで安心したのか、2人とも顔を見合わせてケタケタと笑っていた。


 そして、そこに新たに2人加わる。


「ちょろっと話聞いてたけどよー、お前じゃ異世界行けねんじゃね?」


「やっばいわー、ガチレスは笑う」


あずされんおかえりー! 成果はどんなもん?」


「「安定の反省文3枚です」」


「でた、最強おバカコンビ」


 一気に騒がしくなる教室の一角、同じクラスの者から見ればいつもの光景である。

 金髪の月夜を始め、黒髪ロングのクール系美少女の佳㮈、赤髪強面の翔也、黒髪金メッシュの蓮、そして茶髪ショートのユルフワ系美少女の梓。皆月夜が親友と呼ぶ程の友人で、月夜のオタクの一面も知っている人物達だ。いわゆるスクールカースト上位人といった風貌な派手なグループに月夜はいた。


「なんで俺が行けねんだよ⁈」


 想定外の意見に本気で戸惑う月夜、それに対する蓮の答えは納得するに値するものだった。


「だってよ、お前んちで読む漫画で異世界行く奴って大体が不登校とかボッチじゃん? それか社会人」


 はっ! と口を押さえ思案する。


(確かに! それに比べて俺は……)


「それに比べてお前は学生で、俺らとつるんでるし毎日元気いっぱいで学校くんじゃん。つまりは真逆」


 月夜の心を読み取ったかのような見事な指摘に月夜は納得した。


「マジだ! え? ちょい待ち、俺転生も召喚もできなくね?」


「ピーンポーン」


「「「パーンポーン!」」」


 月夜に素早く反応した蓮に素早く反応する他3名、実に見事な連携である。


「マジかよー、じゃあクラス全員召喚されるのに賭けるしかねーなー」


「ふざけろ、俺は行かねーぞ」


「ウチもー、絶対可愛いお店とかないし。あ、でも異世界の風景だったらえるかな?」


「そもそも電波とかないんじゃない?」


「おい! 異世界馬鹿にすんな!」


 口々に異世界を否定された月夜の叫びを笑いながら受け流す一同。そこでふと、梓と佳㮈が真面目な顔で口を開く。

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