第4話 出会い2
エヴァはトットルバに到着していた。道中の町で、トットルバに行けば会えるかもしれないという情報を掴んだからだ。情報をくれた人物が言うには、
「比較的珍しいものを交換してるから記憶にあるが、探してる人物かどうかはわからないよ。」
フェイという名前はそこまで珍しくはない。ただ、珍しい品物を手に入れれるのは、この大陸ではヴァレスティア森林のため、可能性があると踏んだのだ。
町に着いたのは、既に日が落ち始めている頃だった。この時間ならば、酒場で情報収集する方が早い。エヴァは休むこともなく、酒場へと向かった。
まだ夜の深い時間ではないものの、酒場は賑わっていた。カウンターとテーブル席があり、各テーブルは6人がけぐらいの大きさ。それがいくつか、お互いの間隔を広めにとって配置してある。満席ではないものの、テーブル席は埋まっていた。カウンターは10脚ほどあるが、1人座っているぐらいだ。エヴァは真っ先にカウンターへと足を運ぶ。
客の多くが、エヴァが店に入ると同時に、自分たちの会話を止めずに、入ってきた人物を確認していた。
警戒とは違う雰囲気が漂いながらも、そんな空気を突っ切るかのようにエヴァ
はカウンターにいるマスターに声をかけた。
「聞きたいことがあるんだけれど、フェイと言う男を知っている?」
「フェイ?それはどこのフェイだい?」
「それは・・・」
エヴァが言いかけると、横から別の声がした。
「よー、お姉ちゃん。何か聞きたいことでもあるのか?俺が優しく教えてやろう」
明らかに酔っ払った男が何やらニヤついた顔をしながら近づいてきた。エヴァはそんな声を無視し、カウンターにいるマスターの男と会話を続けようとした。すると、声をかけてきた柄の悪そうな男は少しイラッとした表情を見せ、
「おい、聞いてるのか!」
「あなたには聞いていない。私はこちらの男性と話をしている。邪魔をするな。」
それを聞いた男は、酔った赤ら顔をさらに赤く染め、
「少し顔がいいからって、調子に乗るなよ。痛い目を見たいのか。」
「それは私が騎士と知っての言動なの?」
「はあ?騎士だぁ?だからどうした。そんなものは関係ねぇ。俺たちの相手をすればいいんだよ。」
気づくと男の後に仲間らしき男数人が、こちらも口元を緩めながら集まってきた。明らかにこの酔っ払いたちはエヴァのことを軽視している。
こういった男たちに軽く見られる事は1度や2度ではない。だからこそエヴァはこういった輩相手には一切手を抜かないと決めている。
「あなたたちみたいな輩は、毎回言うことが同じだからひどく不愉快で疲れるわね。でも、情もかけなくていいからそういった意味では気が楽ね。」
「そこまで言うなら相手をしてもらおうじゃないか。」
男たちのニヤついた顔がさらに含みを帯びた笑みに変わってゆく。
「店の中での揉め事は困るな。やるなら外でやれ。」
マスターがそう言うと、男はエヴァに向かって顎で軽くドアのほうに首を動かした。エヴァは軽くため息を吐き、何も言わず、今入ってきたドアのほうに向かって歩いて行く。
酔っ払った男を含めその取り巻きたち4、5人もそれに続いて店の外に出ていく。今まで我関せずと自分たちの話に夢中になっていた他の客達も、野次馬根性で店の外に出ていく。
男たちとエヴァは、少し距離をとって向かい合う。その周りをぐるりと俺を描くように野次馬たちが囲んでいる。
「さて、このきれいなお嬢さんは俺たちをどうもてなしてくれるのかなぁ?」
「御託はいいからかかってきたら?」
男は少し真面目な顔に戻り、ふん、と言うと、
「それも、そう…だな!!」
いうないなや、腰に帯びていた剣を抜き、勢いよくエヴァに向かって切り掛かる。
男たちは勘違いしていた。確かに騎士の中にはこうした輩に実力が劣る者もいる。しかし、エヴァはその容姿とは裏腹に、騎士団員である。男たちが思っている実力よりも、遥か上を行くのだ。
エヴァは、自らの細剣を抜き、男の剣を余裕でかわすと、軽く剣を振って後ろに飛び距離をとった。すると、今まで男が腰にぶら下げていた鞘がバッサリと音を立てて落ちた。
男は焦った。切り掛かったと思ったら、女がものすごい速さで動き、気づいたときには距離をとられていた。しかも、女が振った剣は見えず、唖然としていると鞘が落ちる音で我に帰った。明らかに女の方が腕が上だとすぐに気づいた。男は顔に焦りの表情を浮かべつつ、取り巻きの男たちに命令した。
「ちっ、全員でかかれ!」
「その程度の腕で、よく生きて来れたわね。」
エヴァはそう言うと、より一層冷めた目で男たちを見渡し、次から次えと鞘だけを切り落としていった。さすがにすぐに殺す事はないと思ったか、この程度の実力の者たちを殺すほどでもないと思ったか、いずれにしても実力差を示すには十分な対応である。
そしてある者には服だけを切り、ある者には手に持っている武器を叩き落としと、華麗に立ち回った。見ている周りのものからは、おおっとどよめく声が聞こえてくる。
「威勢が良かったのは最初だけね。」
「…っく」
最初に絡んできた男は、悔しそうな顔をしている。と思いきや、不敵な笑みを浮かべる。
野次馬の中から、男たちの仲間1人が、エヴァに向かってこっそりと攻撃を仕掛けようとしている。おそらくトイレにでも行っていたのであろう。遅れたタイミングで参加しようとしていた時に、仲間がやられるのを見て、機会をうかがっていたのだ。さすがのエヴァも、一瞬反応が遅れてしまった。さすがにまずいと思ったその時、自分ではなく、攻撃してきた男に向かって、ものすごい殺気が飛んでいくのを感じた。その殺気を受けた男は、攻撃の動作の途中であるにもかかわらず、一瞬体が硬直した。その瞬間を見逃さなかったエヴァは、すぐさま自分の細剣で、その男も他の男たち同様に武器を叩き落とし、剣を顔の前に突き付けた。
「さっさと私の前から姿を消しなさい。次あったら容赦はしないわ。」
凄みのある言葉でエヴァが言うと、男たちはすごすごと野次馬の間を縫って姿を消していった。
「まったく、無駄な時間を過ごしたわ。」
細い剣を鞘に収めながら、呆れている。
ただ、まだ気になることもある。
「それにしても…」
先程の殺気は一体誰だったのか。自分を助けてくれたような形であったが、普通の人が出せるような殺気ではなかった。ただ者では無いはずであるが、今は気配すら感じれない。
エヴァはこの場に心残りをしながらも、マスターとの話の続きをするため、再度店の中へ入っていった。
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