第35話理事長室で話し合い
お昼休み。そろそろかなと思い、入り口に目を向ける。
「むむ、目標発見っ!突撃なのです!」
我ながら、なかなかの察知能力である。遥さんの気配なら遠くでもわかる。ーーって、それよりも。
「とおぉうっ!お姉様ぁぁ〜〜っ♪」
「わっ、ちょっ、遥さんっ!?」
勢いよく遥さんが飛びついてくる。
「お待たせなのですっ!会いたかった〜っ♪」
「んもぅ、そんなに慌てなくても逃げませんよ?」
「でもでも、急がないとお昼休み終わっちゃうのですっ!」
「まぁ、そうですね。」
特に避けたり、引き剥がしたりせず、遥さんの為すがままにされていた。
遥さんの身体、温かくて安心するなぁ。
頭撫でたりしたら、喜んでくれるかな?
「ふぇ・・?お姉様?」
せっかくなので、撫でてみたら遥さんは目を丸くしていた。
「わ、私も早く会いたかったです。」
「くはぁ〜〜、お姉様がデレたのですっ♪」
「もう、結構前からデレてますってば。」
・・・まぁ、以前よりさらに恥じらいが薄くなっている気がする。
「うんうん、葵ちゃんと遥は相変わらずの仲良しだね〜♪百合百合しいけど、仲良しなのは美しいね〜。」
・・ニヤニヤされてるけど、まぁいいか。
「・・・・はぁ。」
天音さんがため息をつく。
「心配して損しました・・・。」
結衣さんが呟く。
よく見ると、ニヤニヤしてるのは円香さんだけだった。
「あれ?結衣と天音さんはどしたの?」
「ちょっとだけ、イライラしてるわ。」
「私もです・・・だって、昨日の夜は喧嘩していたのに、朝になるとこの調子なんですから。」
「そうだったの?あたし、ふたりが喧嘩してたのなんて全然気づかなかったよ。」
「まぁ、元通りになったのなら良かったですけどね。心配していた時間を返してほしいです。」
「すみません・・・ご心配おかけしてしまって。」
遥さんから離れつつ謝る・・・けれど。
「ククク、元通りとな?甘い、甘いのです。あんマンを蜂蜜漬けにしたくらい甘いのです。」
「なんですかそれっ!美味しそうですっ!」
結衣さんが叫んだ。
「甘すぎるからっ!真似しちゃダメだからねっ!?」
円香さんのツッコミがはいる。
「我らの絆は、昨夜不滅のものとなった。その証拠を今から見せてやろう。」
「証拠って?」
天音さんが尋ねる。
「今日はお弁当、口移しで食べさせてあげるのですっ♪」
「待ってくださいっ!!流石にはしたないです!」
「えー、食べさせてあげるのとキスするの同時にできるんだよ?すごくないです?」
「・・・で、でも!食べ物で遊ぶのはダメです!ちゃんと食材に感謝していただきましょう。」
「葵、今一瞬やってみたいって思ったわね?」
「そんなことはありませんっ!」
・・・本当は思ったけど。
「むー、お姉様の言うことも一理あるのです。しかたないから普通に食べさせてあげるのです。」
「はい、それでお願いします。」
「食べさせてもらうのはもう平気なんだね?」
「昨日はまだ恥ずかしがっていらしたのに、成長著しいですね?」
「とにかく、はいお姉様、あ〜ん♪」
周りのことなんて完全に無視して、遥さんはお弁当を開けて卵焼きを差し出してくる。
「・・・頂きます。あむっ。」
ここまできたらもう完全に開き直って、遥さんとイチャイチャ百合カップルを続けることに。
すると、天音さんが口を開いた。
「そこのバカップルは置いておいて、もうすぐアリエル祭の本番ね。円香と結衣は練習進んでる?」
「そうだね〜。ぼちぼちってとこかな。」
「私は・・・今朝みなさんがご覧になった通りです。まだまだ修練が足りないみたいです。」
「いやいや、そんなことないって!結衣の攻撃の速さはすごいよ。剣先が全然見えないんだから・・・。」
「でもあなたはそれを防げてたわ。」
「まぁ、ギリギリね。あたしも結衣に決定的な一撃を入れられなかったし・・・。もっと練習しないと。」
すると、遥さんが話に割って入る。
「そういえば、お姉様を捕まえることができた騎士はお姉様と後夜祭のダンスを踊れるのですよね?」
「そだね〜。でも、もしあたしが勝ち残ったら遥に権利をあげるよ♪」
「そうですね。私も遥さんに譲りますね。葵様と踊るのは魅力的ですけど、やっぱり葵様には遥さんがお似合いですから♪」
円香さんも、結衣さんもダンスの権利を遥さんに譲るつもりらしい。
そして、肝心の優勝候補筆頭の天音さんはというとーー
「私は譲らないわ。正々堂々勝負して、葵と踊るわ。私だって葵と踊りたいもの。」
「天音さん、葵ちゃん大好きだもんね〜。ぬいぐるみ作っちゃうくらい。」
告白は断ったのに、私と踊りたいと言う天音さん・・・。
「ならはるかは円香お姉様と結衣お姉様だけ応援するのですっ!」
「・・・好きにするといいわ。」
しかし、天音さんが譲らないと言っているということは、私が遥さんと踊れる可能性はほとんどないと言ってもいいだろう。
遥さんと踊るためには、円香さんか結衣さんのどちらかが天音さんを倒さなければならない。
しかし、今朝の試合を見る限り、力の差は圧倒的だ。
それなら、私が円香さんと結衣さんに協力するしかない。
天音さんに勝つ方法を考えなければ・・・。
「ところで、葵。今日の放課後、理事長室に来てちょうだい。手伝ってほしいことがあるの。」
「あ、はい。わかりました。」
「ククク、我が堕天のチカラもそなたに貸してやろう。」
「ええ、遥も一緒にきてちょうだい。」
昨日は断っていたが、今日は遥さんも誘うのだった。
そして放課後、3人で理事長室にやってきた。
「それで、何をお手伝いしたらいいのです?」
「手伝いなんかないわ。ただの口実よ。内緒話をしたかったから場所を変えただけ。」
「ふにゃ・・・?」
遥さんは首を傾げる。
「えっと、それでお話というのは?」
「昨日と同じよ?」
「・・・ですよね。」
「その様子だと、例の件、遥に話したのね?」
「は、はい。最初は驚かれましたけど、結局それでもいいって仰ってくれて。」
昨日の夜は天音さんに話ができないでいた。
「分かっていたけどね。あなた、すっきりした顔をしてるもの。」
「そ、そうですか?・・えへへ・・・。」
「あの、待って?それって、お姉様が男の子だって話なのです?」
「ええ・・・女の子同士じゃなかったけれど、それでも交際を続けるのよね?」
今度は、遥さんに向かって確認するように尋ねる。
「う、うん・・・そうだけど・・・。」
「本当に、男の子でもいいのね?」
「だってはるか、別に女の子が好きなわけじゃないし、結婚できる方がいいに決まってるのです。」
なんだか戸惑いがちに、何度も頷く遥さん。
「そう、分かったわ。一応釘をさしておくけれど、葵が男の子だっていうことは私達だけの秘密よ?」
「りょ、了解なのです。でも、あの、それってつまり・・・。」
「遥さん?」
何を困惑しているのだろうと、今度は私が首を傾げる。
「えっとね、お姉様が男の子だってこと、天音お姉様も知ってたのです?」
「葵をここに連れてきたのは私だもの。葵とは幼馴染だし当然でしょう?」
「むむっ、それは確かに・・・あぅ、でも・・・。」
「遥さん?何か気になることでも?」
「二人だけの秘密だって思ったのに・・・。」
そんなことで喜んでくれていたのか。
「って、いやいや!もっと重大な問題があったのですっ!」
「問題・・・・?不正とか、そういう・・・?」
「そんなのはどうでもいいのですっ。天音お姉様には、お姉様を連れてきてくれて感謝してるのです。そんなことよりもっ!」
「あの、他にも何か?」
「だ、だって、お姉様と天音お姉様、全部分かってて、なのに男の子と女の子で同じ部屋で・・・!」
つまり、男女で同じ部屋に寝泊まりしていることが問題だと言いたいみたいだ。
「世間一般的にはそうかもしれないですけど・・・。」
「そうなの?私は全く気にしないけれど。」
「うっす!反応薄いのですっ!?」
そう言われても、今更すぎて指摘されても困ってしまう。
「うぅ・・・むぅぅ〜、何なのですそれっ!」
と、今度は段々とふくれっ面になる遥さん。
「あの・・・何か怒ってます?」
「普通怒るのですっ!お姉様の恋人ははるかだよ?絶対おかしい!何か間違いがおきたらどうするのです!?」
「余計な心配はいりませんよ?私と天音さんの間でそんなこと絶対ーー」
キスされたことを思い出した。
「今後は絶対にありませんから。」
「あったのですっ!?すでに何かあったのですっ!?」
「安心して、遥。私が一方的にしただけだから。」
「何をどう安心しろと言うのです!!?」
うんまぁ、今の話を聞くと、天音さんが私の気持ちは関係なく襲ってきたみたいだから。
・・・あれ?事実とあまり変わらない気がする。
「むぅぅ〜っ!やっぱりダメっ!同じ部屋なんて許可できないっ!」
「そう言われても、寮に空き部屋はないわ。」
「な、ならば、今夜からはお姉様がはるかの部屋で・・・。」
「それはそれで、確実に問題が起きるわ。」
そんなことはない・・・とは言い切れなかった。実際手を出しちゃったし。
「はるかとお姉様は恋人だから問題ないのです♪」
「大アリよ。エッチなことは困るわ。もし遥が妊娠しちゃったら大問題だわ。」
「あの・・・それなら、こういうのはどうでしょう?天音さんと遥さんが同じ部屋で、私が一人部屋になればーー」
「えー、お姉様と一緒がいいのです。」
「葵にお世話してもらわないと不便だわ。」
最後まで言い切る前に拒否された。
「なら、どうしろと仰るんですか・・・。」
「むぅ、ならせめて寝る時だけでもはるかがお姉様の部屋に行くのです。」
「え・・・?3人で寝るんですか?」
「そうね・・・二人きりにならないのなら・・・別に。」
どうやら、そういうことで妥協が成立しそうだ。
「お姉様も、それでいい?」
「私、床に布団をしいて寝ますね・・・。」
念の為に言っておかないと、どっちかが私のベッドに入ってきそうだ。
「・・・三人で川の字になるのかと思ったわ。」
「天音お姉様はお呼びでないのですっ!
ちょっと楽しそうだけど・・・。」
「あの、喧嘩しないでください。」
・・・先行きが思いやられるのだった。
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