第31話天音さんの呼び出し

 そんなこんなで、遥さんに懐かれながらのお弁当もどうにか食べ終わった。

「ごちそうさまでした・・・♪ねぇねぇお姉様、この後何か用事ある?」

「今からですか?いいえ、特には。」

「じゃあね、食後のお散歩いこ?」

すると、外野から何やら声が・・・。

「ふむふむ、つまり二人きりになりたい・・・と。」

「な、何しちゃうんでしょうかっ。円香さん、こっそり覗きにいきませんか?」

「結衣やめなさいってっ。」

円香さんと結衣さんがひそひそ話している。

丸聞こえですけど。

「・・・あの、学園では何もしませんからね?」

「なるほど、わかりました!帰り道と寮の中で覗けばいいんですね♪」

「そもそも覗かないでくださいっ!」

「まったく、結衣お姉様はしょうがない人なのです。えっちなことしか考えてないのです?」

「そ、そんなことはない・・・ですよ?」

「結衣はあんまり自信がなさそうだ。」

「えっちなことはとりあえず満足しちゃったから今日は普通にお話できるだけで満足だもんっ♪」

遥さんが嬉しそうに言う。

「本当にそれだけでいいんですか・・・?」

「・・・手ぐらいは、繋ぎたいのです。」

モジモジしながら、期待を込めた目線で見つめてくる。

ああ・・・本当になんなのこの人!可愛すぎるっ!

「なんだかんだで、葵様もデレデレですね?」

「邪魔はしないから、さっさと行ってきたら?」

円香さんと結衣さんが言う。

もう開き直って、ありがたくお言葉に甘えることにした。

「それじゃ、お姉様いこっ♪」

頷き返して、その時だったーー

「・・・ちょっと、いいかしら?」

静寂を保っていた天音さんが立ち上がり、私達を呼び止める。

「・・・な、なんでしょうか?」

「葵に手伝って欲しいことがあるの。理事長室に来てちょうだい。」

理由をつけてはいるが、二人きりで話がしたいということだろう。

「ふむ、お手伝いなら我が堕天の軍勢からも戦力を割いてやろう。」

「軍勢っていっても総大将しかいませんよね?」

「細かいことは置いておいてなのです!」

「・・・葵だけでいいわ。あなたの参謀を借りるわね。」

「えっ、あの・・・だから我も・・・。」

「葵だけでいいわ。」

「力を貸してーー」

「葵だけでいいわ。」

同じセリフを怒りを込めて再度天音さんが放つと、遥さんはようやく引き下がった。

「ア、ハイ・・・。」

それは遠慮ではなく命令だったからさすがに引き下がるしかなかった。

「すみません、遥さん。お散歩はまた今度で・・・。」

「うん・・・・約束なのですよ?」

「はいっ。」

にっこりと頷き返して、その後はーー

「行くわよ、葵。」

「・・・はい。」

・・大人しく天音さんに連行されることにした。

そして、理事長室。

「それで?」

二人きりになるなり、端的に尋ねてくる。

・・・とゆうか、端的すぎて戸惑った。

「あの、何から言い訳すればいいんでしょう・・・?」

「別に、言い訳を聞きたいわけじゃないわ。事実関係を確認したいの。」

「・・・はい。」

「自分が男の子だって、遥に伝えたの?」

天音さんの立場で最も重要なのはやはりそこだろう。

「いえ、まだです・・・・。」

嘘をついてもしかたがないので、正直に答えた。

「そう・・・。いやらしいことをしたというのは?」

「遥さんの身体、触りました・・・いけないところも。」

「・・・そんなことをして、よく正体がバレなかったわね。」

「その・・・私は脱ぎませんでしたので。」

「一方的に遥を弄んだわけね。」

天音さんの言い方にはちょっと、棘がある。

目つきも今まで見たことないくらい冷たかった。

・・・でも、それも仕方がないことだと自分でも思う。

「あなた、自分でも分かってるわよね?」

「はい・・・最低のことしています。」

「あの子は、あなたが女の子だと思い込んだまま、何も知らずにいやらしいことをされている・・・。そういうことよね?」

「・・・すみません。」

「私に謝っても仕方がないでしょう?」

「・・・はい。」

私が項垂れると、天音さんは小さなため息をついた。

・・・本当に、どうしてこうなってしまったのだろう。

初めての、恋愛に浮かれていたことを除けば、ただ途方に暮れるばかりで・・・。

「それで、どうするつもりなの?」

「どう・・・って、言われましても・・・。」

「このまま、ずっと隠し続けて付き合うつもり?遥のこと騙し続けるの?あなたは本当にそれでいいの?」

「よくは・・・ないです。でも。」

「でも?なに?いつか、本当のことを知られたら・・・。騙されてたって知ったら、あの子はすごく傷つくわ。」

「それは・・・ですけど。」

「私は理事長として、大切な生徒が騙されてるのを見過ごせないわ。」

でも、だったらどうすればいいのだろう。

「悪いことは言わないから・・・別れた方がいいわ。」

「え・・・?」

「まだ、なるべく傷が浅いうちに・・・成り行きであの子の勢いに流されているだけなら、そうしたほうがいいわ。」

・・・別れる?遥さんと?

ただの友達に戻ってーー

いや、きっとそれすらも保てなくなる。

距離が開いて、疎遠になって、話すこともなくなって?

「い、嫌ですっ!それだけは絶対に嫌ですっ!!」

気が付くと、悲鳴のような声をあげていた。

「・・・そう、嫌なの。」

「流されてはいますけどっ!すっごくみっともないことになってますけど!でも、私だって遥さんが好きなんですっ!本当に・・・。」

「だから・・・・?」

「だからって・・・。あの、ですから別れたくなくて・・・。許してください、天音さん・・・。」

「許すもなにも。」

駄目、なのだろうか?引き裂かれてしまうのだろうか。

天音さんには簡単にそれができてしまう。私を退学にしてお屋敷に戻してしまえばそれだけで遥さんから引き離すことができる。

頭の中が真っ白になっていく。だけどーー

「そういうことなら、結論は1つでしょう?」

穏やかな微笑みを向けられて困惑する。

「好きなら、仕方がないわ。」

「・・・いいん、ですか?」

「駄目よ?このままだと、遥が可哀想だもの。」

「えっと・・・、え・・・?」

「このままじゃいけないことは分かりきっている、だけど別れたくない。だったら、やるべきことは1つしかないと思うのだけど。」

・・・ようやく、天音さんの言いたいことを理解した。

「で、でも、いいんですか?」

「冒険ではあるけど、遥は秘密を言いふらすような子ではないわ。」

それは、私もそう思うけど・・・。

「全部打ち明けても、構わないわ。あなたに任せるわ。」

「・・・天音さん。」

「もっとも、もう手遅れかもしれないわよ?騙されてたって嫌われても私の知ったことじゃないわ。」

「う・・・・、そんなこと言わないでくださいよ。」

「自業自得。振られても文句は言わないでね?」

「・・・言いませんよ。そんなみっともないこと。」

「そう、なら・・・頑張ってね。」

ーー結局のところ、謝る以外どうしようもないのだろう。

遥さんを騙しているのは事実だから、許してもらえないかもしれないけど・・・。

でも、これからずっと騙し続けるよりは。

全てを打ち明けて謝る以外、未来は有り得ないのだから。

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