第28話本当はキスしたいけど・・・

ーー翌朝。

「はぁ・・・・。」

朝食を作りながら、どうしたものかと考える。

今更、本当のことを告げるのは・・・やっぱり無理だ。

騙していると知られたら。それで、振られたりしたら。

「そんなの・・・やだ・・・。」

私は、遥さんを失いたくない。嫌われたくない。

・・・でも、これ以上罪を重ね続けるのは。

「せめて、キスとかは・・・止めてもらわないと。」

とりあえず、現状で一番ヤバそうなのはそこだと思う。

もう手遅れだとは思うのだけど、やっぱりそれだけは、騙したまま奪ってはいけないものだろう。

ーーよし、求められても、もうキスはしない!

心の中で、そんな誓いを立てたところ。

「おはようございますなのです!お姉様っ!」

嬉しそうに、はたはたと遥さんが駆け込んできた。

「おはようございます、遥さん。」

昨日とかは、ここでおはようのキスとか求められた。

まずは、それをどうやって回避するかだけど。

「朝ごはんとお弁当、今日もお手伝いするのです♪・・・・ってどうしたの、お姉様?」

「えっ?な、何がですか・・・?」

「どーして後ずさるのです?」

「いえ、深い意味は・・・あはは・・・。」

ちょっぴりひきつった笑みで、誤魔化そうとする。

「むー、お姉様、今日ちょっと元気ない・・・?」

「そ、そうですか?」

「なんか、そんな風に見えるのです。」

「・・・まだ、ちょっと身体が寝てるのかもしれませんね。」

「なるほど、眠いならしかたないのです。」

適当な言い訳だったが、遥さんは納得してくれた。

ーーけれど。

「ククク、ならば我が元気の出るまじないをしてやろう。」

えっ・・・と思う間もなく駆け寄ってきて。

「んっ・・・・、ちゅっ♪」

「ちょ、遥さぁんっ!」

思い切り隙をつかれて、頬にされてしまった。

「ちゅっ、ちゅっ♪んんっ〜〜♪」

「あの、あのあのあのっ・・・。」

何回も、ぷにぷにした唇を押し付けられてくる。

駄目なのに、逃げなきゃいけないのに。

でも、押しのけたりしたら遥さんを傷つけてしまうかも知れないわけで・・・。

「お姉様ぁ・・・♪元気出たのです?」

「は、はい!もうたっぷりと!」

それにしても、ああ・・・。

遥さんの唇、すごく気持ち良い。

そう、離れてしまうのが寂しくて切なくなるくらい・・・。

「んふ♪唇にしてもいい?」

「はい・・・お願いします。」

「うんっ♪おはようのチュウなのですっ♪んっ!」

そして、目を閉じた遥さんに、私は自分からーー

「ぁふっ・・・、ちゅっ、んん・・ちゅぱっ♪」

唇を触れさせるだけじゃ、お互いもう満足できない。

「ぁ・・・っ、ぁんっ、ぢゅるっ、んんっ、ふぁ♪」

朝っぱらから、舌を触れ合わせ、唾液をむさぼり合う。

そうして、気付いた時には、思い切り濃厚な口づけに、夢中になっていた。

「はふ・・・あ・・・♪もう終わり?ふぇ、お姉様?」

やって、しまった〜〜っ!

「ばかっ!ばかっ!私の愚かものっ!」

「あわわわ、どうしたのですお姉様っ!?」

キスしないって決めたばかりなのに、あっさり流されて!意思が弱いどころの話じゃない!

「はは・・・所詮私なんて、その程度・・・。」

「どうしてどんよりしてるのです?大丈夫?」

「お気になさらないでください・・・さぁ、朝食を作りましょう。」

「う、うん・・・具合が悪かったらちゃんと言うのですよ?」

「はい・・・はぁぁ・・・。」

遥さんに気遣われながら、料理に戻る。

・・・というか、私、本音ではキスできたことを喜んでいる。

駄目人間すぎるだろうって、自己嫌悪でいっぱいだった。


(遥)

・・・お姉様の様子が、ちょっとおかしいような気がした。

具体的に何がどうとは説明できないけど、何だかそわそわしてるような、目を合わせてくれないような。

それは微妙な変化だったけど、お姉様のことばかり見ているはるかにとって、明白な違和感だったのだ。

「それじゃ、遥さん、今日もちゃんとお勉強するんですよ?」

学園での別れ際、結衣お姉様がはるかに言う。

「言われなくても大体いつもちゃんとしてるのです。」

毎朝思うけど、お姉様と同じクラスの天音お姉様達がうらやましいのです。

「それじゃ、教室にいきましょう。」

「遥さん、また放課後に。」

お姉様が笑顔ではるかに言う。

「う、うん・・・。」

そして、自分たちのクラスへ向かうお姉様達。

「ぁ・・・、やっぱりちょっと待つのですお姉様っ!」

「え・・・と、どうかなさいました?」

「ちょっと、お話があります・・・のです。」

「・・・私達は先に行っているわね。円香、結衣行きましょう。」

「ほへっ?ちょっ、天音さん!?」

「いいから、行くわよ!」

「はぁ・・・わかりました。」

そして、円香お姉様たちをひっぱっていく天音お姉様。

・・・なんか、物分りがよすぎて微妙にひっかかるのです。

「あの・・・遥さん?」

っと、今はそんなことより。

「お話って、なんでしょう?」

「う、うむ・・・ええと、何だっけ?」

「私に聞かれても・・・。」

ちょっぴり困り顔で小さく苦笑されてしまう。

というか、何となく呼び止めてしまっただけで、特に用があったわけではなかった。

お姉様変じゃない?・・・なんて聞きにくいし。

「あの・・・先に言っておきますが、こんなところで行ってらっしゃいのキスとかダメですからね?」

「いくらはるかでも、さすがにこんな往来じゃしないのです。」

「で、ですよね・・・ふぅ。」

するつもりはなかったけど、そんなあからさまに安心されると、何だか・・・。

「あは・・・何言おうと思ったか忘れたのです。やっぱり何でもないのです。そなたに悪しき1日が訪れんことを。」

「・・・ええと、行ってもいいんでしょうか?」

「うん、呼び止めちゃってごめんなさいなのです。」

「いえ・・・それじゃ、失礼しますね。」

上品に一礼して、お姉様も行ってしまう。

笑顔で見送りながら、不安が顔に出ないよう頑張った。

でもって、お姉様の姿が見えなくなってからーー

「お、お姉様・・・キス、嫌がってるのです?」

今朝からの違和感を総合すると、そういう結論にしかならないような・・・。

「はるか、調子にのりすぎた・・・?でも、なんでいきなり?」

はるかとキスするの、お姉様も喜んでくれてたと思うんだけど。

考えて、考えて思い当たる節といえば。

昨日の夜の、天音お姉様に見られそうになったこと?

・・・お姉様、びっくりしちゃってキス自体が恥ずかしくなったのかも。

「ふむ・・・。」

仮説ではあるが、他の結論はちょっと思いうかばないのです。

「ふへ・・・・、お姉様、照れ屋さんで可愛いっ♪」

いや、にやけてる場合ではあるまい、堕天使ミハエルよ!

「ともかく、何らかの手は打たねばならぬな。ククク・・・。」

お姉様が恥ずかしがってるからって、おもんぱかってキスしないなどありえないのです。

「我を誰だと思うておる!」

我は暗黒の堕天使ミハエル!神をも殺すもの!

堕天使は、やりたいことを我慢するほど弱々しい存在ではないのです!

「・・・皆本さん、一人で何ぶつぶつ言ってるんでしょう?」

「わかりませんけど、目を合わせないほうがよろしいですわ。」

・・・割と声にでちゃったのです。またまわりに引かれてる・・・。

ま、まぁ、我は孤高の堕天使だからいちいち気にしないのです。

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