第23話フリーマーケット

 ーーそして月曜日の放課後。

まずは、肝心な手芸部の部長と西園寺さんを呼び出して、考えた企画を提案してみる。

「わざわざ考えてくれたんだ・・私のために。」

「他にも同じような人がいるかもしれないから。あなたのことはきっかけみたいなものよ。」

「またまた〜、すっごい心配していらしたくせに。」

「そうなのです、どうにかしてあげたいって我らに相談してきたのです。」

結衣さんと遥さんが言う。

「天音さん、ツンデレですね♪」

「・・・・そういうことは言わなくていいのよ。」

恥ずかしそうに頬を赤らめる天音さんだった。

「あ、あの、ありがとう天音様。」

「だから、あなたのためだけにやるわけではないの。気にしないでいいわ。」

「うん、でもありがとう♪」

「それで、部長さんはどうかしら?」

と、企画書を読んでいる部長さんに話が向けられる。

「いいですね、これ。お金のこともですけど、それ以上に発表の機会があるのは有り難いです。」

「手芸コンクールとかあるけど、知名度低いしね〜。」

西園寺さんが言う。

「学園のみんなに見てもらえるのはアリエル祭くらいですからね。もっと手芸に興味を持ってほしいんだけど、これはいい機会かなって。」

部長さんの方は、当初の目的とは別でやる気になっていた。

「私達みたいな地味な文化部はだいたい何かの発表の機会を探しているものですよ。」

「じゃあ、今週末に開催で構わないかしら?」

「あ、はい。今まで作ったものもありますから、私達は問題ないです。」

「でもでも、売り物ならもうちょい気合い入れたいし・・ふふ、気合い入ってきた!」

西園寺さんもやる気になったようだ。

「広報関係はあたしたち新聞部にまかせて♪運営は学生会にお願いしちゃう?」

円香さんが口を開いた。

「いえ、急な話で迷惑になるから私が独自にやるわ。」

もちろん私も理事長補佐としてお手伝いさせていただく。

「私と遥さんもお手伝いしますね♪」

「勝手に数に入れられたのです!?」

「ご迷惑ですか?」

「クク、我が力が欠かせぬというのであればやむを得まい。」

遥さんが堕天使口調で答えた。

「何だか楽しそうなことになってきましたねー。」

部長さんが言う。

「追加で何か作ろうかな〜。そうだ、あの、皆さん。」

「・・・・?どうかしたかしら西園寺さん。」

「何か欲しいものがあれば作るけどどう?お礼に安く売ってあげるよ♪」

すると部長さんも。

「そうですね。折角ですし。必要でしたらウェディングドレスだって作っちゃいますよ♪」

「すごっ。手芸部レベル高いですね!」

「ウェディングドレス・・・葵に着せてみたいわね。」

「絶対に着ません。」

即座に全力で拒否させて頂いた。

「葵様って、そういうのいつも嫌がりますよね?女の子みんなの憧れだと思うんですけど。」

結衣さん、わかって言ってますよね?

「お、お嫁に行くときまでとっておきたいんです。」

「おお〜、お姉様ってば乙女なのです!」

「はい・・・乙女なんです。」

・・・屈辱だ。消えてしまいたい・・・。

「てゆうか部長、さすがに1週間でドレスは無理だって〜。他には何かないかな?」

「あ、私はランチョンマットが欲しいです。できれば5人分おそろいで、花柄の皿に合うものを。」

私が欲しいものを提案してみる。

「指定細かっ!いいけど、それくらい作れるけどっ。」

「くすっ。買うのは気に入ったらでいいですからね?天音様は何かありますか?」

部長さんが天音さんに尋ねる。

「え・・・私?」

「はい、部員を気遣ってくれた理事長に何かお礼がしたいんです。」

「ええと・・・そうね。あ・・・っ。」

「何か思いつきました?」

「・・・ちょっと、こっちにきてくれるかしら。」

その時の私は西園寺さんとランチョンマットについて話し合っていたから。

天音さんと部長さんが隅でこそこそ話している内容までは聞くことができなかった。


 ーーそれからあっという間に1週間が過ぎて週末の土曜日。

滞りなく準備が進み、午後には問題なくイベントが開催される運びとなった。

「なんだかすごいあっさりと本番を迎えましたね〜。」

「問題なんて起きないほうがいいでしょ?」

私と天音さんはイベント会場の中庭を歩いていた。

「それはまぁ、そうなんですが。」

そもそも、中庭を開放して好きにやってもらうイベントだから大した準備が必要なわけではなかった。

せいぜいがテーブルとか備品を出したり、出品者同士の場所取りを調整する程度。

広報は新聞部に丸投げだし、あとは料理部とかが食べ物を出しているので保健所に指導をお願いしてもらったり、細々としたことはあったけど。

「大抵のことは私が許可を出すだけだもの。問題なんて起きるはずがないわ。」

「ですね・・・あはは。」

理事長の権力があればどうということはないのだった。

「・・・代わりに何かおきれば私の責任になるのだけど。」

「だ、大丈夫ですよ!今のところ順調みたいですよ。」

天音さんを励まし、改めて周囲の人たちに目を向ける。

急に決まったイベントだからか、大賑わい・・とまではいっていない。

それでも20を超える部が参加してくれて、生徒や地域からもお客さんがそれなりの人数分がきてくれていた。

・・・まぁ、ごく平和的に成功かなって雰囲気だ。

だけどそんなのんびりした雰囲気の中でもちゃんと喜んでくれる人たちはいる様子でーー

「あっ、天音様、お姉様っ!」

料理部の部長さんが話しかけてきた。

「こんにちは。調子はいかがですか?」

「うふふ、おかげさまで大好評だよ〜。二人は見回り?」

「ええ。そんなところ。料理部はカレーを出しているのだったわね。」

「うん、特製の究極カレー♪美味しいよ〜?すっごいレシピができちゃったから、早く色んな人に食べてもらいたかったんだ〜♪」

・・・確かにこのあたりにはカレーの凶悪なまでにいい匂いが漂っていた。

「究極カレー・・・気になりますね。」

「心配しなくても、葵が作るカレーもすごく美味しいわ。」

「いえ、別に張り合っているわけではっ。」

「そういえば、お姉様料理が得意なんだっけ〜。よかったら今度料理対決やってみる?」

「対決って、漫画じゃないんですから。」

「え〜、一度やってみたかったのに。」

「普通にレシピ教えてくれたりとかは駄目ですか?」

「勝負して勝ったら教えてしんぜよう。」

「ですからそういうのはいいですって。後で、試食させていただいて勝手に真似しちゃいますから。」

「普通にそれができるあたり、ただ者じゃないよね〜。」

「葵なら、簡単に料理部のエースになれると思うわ。」

「天音様、お姉様を料理部でもらっちゃダメ?」

「本人が入りたいならいいけれど。」

「入部は結構です。天音さんたちのお手伝いとお世話がありますから。」

「残念〜。でもそうやって理事長を支えてくれてるから私達の究極カレーもお披露目できてるわけだしね。」

「支えるとか、そんな大したことはしてないんですけどね。」

「でも今日のイベントの準備は大体あなたがやってくれたわよ?」

「言われたことをしただけですって。」

「ふむん。そう聞いちゃうとお礼にレシピくらい教えないと駄目かも・・・。まぁ勝手に真似しちゃうのでもどっちでもいいから、とにかく2人とも後で食べに来てね♪サービスしちゃうよっ。」

「そうさせてもらうわ。ありがとう。」

「じゃあ、また後でねっ。ありがとうっ♪」

とまぁ、楽しんでもらえていてなによりだ。

「天音さん、皆さんいつもより楽しそうです。天音さんのおかげて楽しい学園になっていますよ。」

「イベント・・・やってよかったわ。」

恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに天音さんが微笑む。

「おっと、いたいた。天音様っ、お姉様っ!」

続いて声をかけてくださったのは手芸部の西園寺さん。

天音さんと歩いているだけで千客万来だ。

「こんにちは、西園寺さん。」

「うん、ごきげんよう♪」

「ごきげんよう。調子はどうかしら?」

「おかげさまで〜。編みぐるみとかすごい売れちゃった♪」

「売れましたか。よかったですねっ!」

「うん、かわいいって言ってもらえてね。やっぱり色んな人に見てもらえるのは嬉しいね♪」

そもそものきっかけが西園寺さんの憂鬱だったからこうして嬉しそうにしているのを見ていると良かったなと思う。

「そうそう、それよりも、お姉様に頼まれてたランチョンマット出来たから見てもらおうと思って♪」

「あ、はい。楽しみにしてたんです♪」

そして西園寺さんはわざわざ持ってきてくれたらしく、鞄から何枚かの布生地を出した。

「こんな感じで、2種類作ってみたんだけど、お皿の柄に合いそうかな?」

ーー見た瞬間にキュピンときた。

「こっちの、いいですね。お世辞抜きで!」

「そ、そうかな?」

「はい♪一目惚れしちゃいました!寮のテーブルに置いて、あのお皿にミネストローネの赤を合わせて・・・最高です!」

「なんかよくわかんないけど、すごく具体的だよ!」

「本当に私、これ大好きです!絶対買います!おいくらですかっ!?」

「あはは、そんなに気に入ってくれたんならお安くしておくね?」

「ぼったくりでも買っちゃいます!」

「気持ちが揺れるからそんなこと言わないでっ!よかったら同じのもっと作ろうか?」

「いいんですかっ!?西園寺さん、大好きですっ!」

「うわっ。告られた!でも、私ノーマルだからごめんねー。」

すると天音さんがーー

「むぅぅ・・・・。」

「あれ、天音様、なんか不機嫌そう?」

「何でもないわ・・・。気にしないで。」

ああ、今日は本当に素敵な出会いをしてしまった♪

渡されたランチョンマットに夢中で、私は天音さんが肩を落としているのにも気づかなかった。

「あ、そういえば天音様が部長に頼んでたやつなんだけど、まだもうちょいだけ仕上げが残ってるらしくて・・・。」

「そ、そう。」

「でも、あともう少しだからフリマ終わるまでには部長が持っていくってさ。」

「・・・わかったわ。楽しみに待っているわね。」

「うん、伝えておくねー?」

「ところで、天音さんは何をお願いしたんですか?」

私は天音さんに尋ねる。

「ええと・・・それは・・・。」

「お姉様まだ聞いてないんだ。あはは・・。」

どうして西園寺さんは微妙な顔をしているのだろう。

追求しようかと思ったけどーー

「あっ、お姉様、天音様。いいところに。ちょっといいかなー?」

何かを言うより先に、また別の人から声をかけられてしまう。

それも、今度は運営側の仕事で呼ばれてるっぽい。

「すみません、西園寺さん。また後でお金を持って伺いますね。」

一応ランチョンマットを返して呼ばれた方へ向かうことにした。

「・・・それじゃ、失礼するわ。」

「こっちこそお仕事の邪魔してごめんね。また後でー。」

そんなこんなで、天音さんが頼んだものについては有耶無耶になってしまった。


 その後は、運営委員として思いの外忙しく走り回ることになっていた。

というのも、軽音部が演奏を始めると何ごとだろうとたくさんの人が集まってきたからだ。

何気にアリ女軽音部のガールズバンドは人気があるらしくて予想以上に盛り上がっていた。

もちろんそれはいいことだけど、人が増え過ぎたら色々と対応しなくちゃいけないわけで。

ドタバタしている間にあっという間に時間が過ぎて、気がつけば日も傾きイベントは終わりに近づいていた。

「なんとか無事に終わりそうですねぇ。」

結衣さんが口を開いた。

「クク、軽音部もなかなかやるのです。我が堕天使軍の軍楽隊に加えてやってもいいかもしれぬ。」

「遥さん、お部屋の隅に転がってるギター、弾いてみたくなってます?」

「ふぇっ?ち、ちょっとだけ・・・。」

「でも30分で諦めるとこが見えちゃいました♪」

「むむ、結衣お姉様は予知能力者なのです。」

「自分でもそうなる予感はしてるんですね?」

「あぅぅ・・・ほっといてなのですぅ。」

まぁ、そんな軽音部の余韻はさておいて。

「結衣、遙、円香も手伝ってくれてありがとう。とても助かったわ。」

「いえ、お役に立てたなら良かったです。」

「まぁ、のりかかった船だからねっ♪」

「お姉様と天音お姉様が困ってたから当然のことをしただけなのですっ。」

「でも、感謝しているの。お疲れ様。」

「くす、まだ終わってないよっ?」

「帰ったら、料理部のみなさんに負けないくらいのおいしいご飯を作りますね♪」

なんだかんだで色々な人が喜んでくれて、やってよかったなと思う。

だから、そんな風に少し早くねぎらいの言葉を交わしているとーー

「あの〜、天音様。ちょっといいですか?」

「お姉様もしばらくぶりっ。」

ふいに私の後ろから、西園寺さんと手芸部長さんが話しかけてきた。

「そろそろ片付けるからランチョンマット持って来たよ。」

「あ、すみません。これから伺おうかと思ってたんです。」

「ううん、忙しそうだし気にしないで。」

すると結衣さんが口を開く。

「それで、首尾の方は如何でしたか?布代とかなんとかなりそうですか?」

「うん、当分はなんとかなるくらい稼げちゃった。しかもこのあとお姉様もお買上げだし♪」

「ええと、五枚でおいくらになりますか?」

お財布を取り出し、西園寺さんと値段の交渉に入る。

と、それとは別に、部長さんが持っていた包みを天音さんに渡していた。

「天音様、これできましたよ。」

「ありがとう・・・見てもいいかしら?」

「それはもちろん、確認していただかなきゃ、ですけど・・。」

なぜだかわからないけど、部長さんが私に視線を向けてくる。

「それじゃ、拝見するわね。」

「ここで開けるんですか!?」

「駄目なの?」

「いえ、私はいいんですけど。天音様が平気なら・・・。」

そんなよくわからない会話の後で、ラッピングされた包み紙を開いていく天音さん。

「ところで、お姉様。」

西園寺さんが私に話しかける。

「はい、何でしょう?」

「お姉様と天音様はどういう関係なの?」

「どうって、急になんですか?」

「いや、だって・・・。」

何だかちょっと困ったように天音さんの手元を見る西園寺さん。

釣られるように私も天音さんの手元に目を向けてみる。

「ふひゅ・・・・♪いいわ。これ・・・。」

「・・・・って。」

「可愛い・・・・気に入ったわ。これ、買うわ♪ぬふっ。」

「あ、ありがとう。気に入ってくれたならよかったです。」

天音さんか持っていたのはぬいぐるみだった。

アリ女の制服を着たような女の子のぬいぐるみで。っていうかアレはどうみても・・・。

「アレって、お姉様のぬいぐるみなのです?」

「そだね・・・。すっごい可愛いけど。」

「ちょっ、ちょっと天音さんっ!?」

「はぁ・・はぁ・・宝物にするわ。ジュルっ・・・。」

「天音さん?よだれがたれていますわ。」

「だって・・こんないいもの手に入れたら・・・ふひっ。」

上流階級のお嬢様にあるまじき、残念極まりないだらしない笑顔をしていらっしゃった。

・・いや、そんなことよりも。

「はふぁ・・・♪あおいぃっ・・♪」

本当に嬉しそうに、ぬいぐるみをギュっと抱く天音さん。

「やっぱりお姉様の名前がつくのです?」

「当たり前よ・・はふぁ♪ふかふかぁ♪」

「エヘへ、折角だから抱き心地よくなるようにこだわって作ってみました。」

「いい仕事ね・・・ぎゅぅぅっ♪葵、あおいぃ〜〜♪」

「ひぃぃ〜っ!や、やめてください!」

なんか背筋がぞわぞわする。

「あの、まるで意味がわからないんですけどっ!どうしてそんなもの作られてるんですかっ!」

「天音様に頼まれたから?」

「天音さんっ!?どうしてそんなもの頼んだんですか!」

「だって、あなた本人は抱きしめさせてくれないじゃない。だからこれで我慢するわ。」

「いや、あの、それって・・・。」

天音さんの返答に、私はますます困惑した。

「やっぱりただならぬ関係なのかな・・・。」

西園寺さんがつぶやく。

「天音様、私許されない恋でも応援します!」

部長が天音さんに言う。

「お姉様っ、実際のところどうなの?」

「どうって言われましても!」

何なのこれ!何の罰ゲーム!?

天音さん、色々隠す気なさすぎる!

「こんなの、肖像権の侵害ですよ〜っ!」

「幸せぇ・・・♪ギュっ・・・あおいぃ♪」

抗議の声をあげてみても、ぬいぐるみに夢中の天音さんには届かなかった。


・・・イベントの片付けも終わり、寮に帰ってきてからのこと。

「我もお姉様のぬいぐるみ欲しいのです・・・。」

夕食の手伝いをして頂いている遥さんがぽつりとつぶやいた。

「私としては、見なかったことにしたいのですが・・・。」

「でも、可愛かったので・・・。」

「手に入れて何をするつもりですか?遥さんの場合、呪いの人形とかにされちゃいそうなんですが・・・。」

「お姉様のぬいぐるみにそんなことしないのです!部屋に飾るだけだもん。」

「本当ですか?」

「・・・抱いて寝るくらいはするかも?」

・・まぁぬいぐるみってそういうものだけど。

「どうしても欲しいなら、手芸部の部長さんに頼めば同じものを作ってくれますよ?」

「お姉様は、やっぱり作ってほしくない?」

「恥ずかしいので、できれば勘弁いただけたらと。」

「うー、分かったのです。お姉様がイヤなら諦める。」

「遥さん・・・・っ!」

遥さんは本当にいい人だ・・・。

それに比べて天音さんときたらーー

「それより、えっとお姉様?」

頭の中で文句を言っていると、遥さんが躊躇いがちに呼んでくる。

「どうかなさいました?」

「あの・・・・ね?本当のところ、どうなのかなって・・・。」

「どうといいますと?」

「その、お姉様と天音お姉様どういう関係なのです?」

「・・・ただのお友達ですけど。」

内心の動揺を出さないように、それだけを告げた。

「でもね?わざわざぬいぐるみを作ってもらうなんて、なんだか・・その。天音お姉様も、お姉様のこと好きなのかなって・・・。」

「あの、天音さん『も』って・・・それだとまるでーー」

「あ、わわっ!それはそのっ!」

「女の子同士ですよ?私と遥さんも、天音さんとも。」

「う、うん。そうだよねっ。やはは、はるかちょっと変な事言ったかも。」

「ふふ、天音さんは友達ですし、遥さんは可愛い後輩ですよ。私にとっては♪」

「えー、そこは可愛い妹って言って欲しいのです。」

「恐ろしい堕天使じゃなくてもいいんですか?」

「それは、その、表の顔と真の姿みたいな?」

自分の正体を隠すためには、こういう言い方をするしかなかった。

・・・でもなんだか、遥さんに告白されて振ってしまったみたいな会話だったかもしれない。

「とにかく、天音さんとは本当にただのお友達ですから。」

惚けて言いながら、心臓の鼓動が乱れていくのを自覚する。

「まぁ、うん。そういうことにしておくのです・・・。」


 ーー普通にお友達。嘘は言っていない。

だって、私は告白の返事をしていないのだから。

しかし、私が天音さんを好きかと聞かれたらもちろん大好きだ。でもそれは恋愛感情とは違う気がする。子どもの頃からそばにいて、私が支えてきた守るべき存在。でも、私が天音さんをどうかしたいとは微塵も思わない。恋愛として好きならば好きな人には触れたいとか思うのだろうか・・・。


「あ、遥さん。お鍋の火、止めてください。」

「はーい♪これで完成?」

「そうですね。あとはお皿に盛り付けるだけです。」

ーと食器棚からお皿を出そうとして・・・。

遥さんも同時に食器棚に手を伸ばし、互いの手が触れてしまった。

「あ、わわっ。ごめんなのですっ!」

「はは、はい。だだ、大丈夫です。お皿は私が出すので遥さんはテーブルを拭いてきていただけますか?」

「うんっ!」

ちょっと手が触れただけで、心臓の鼓動が激しくなるのを感じた。

そして、自分自身まだこの時には、今目の前にいるこの人に対して私が抱いている感情に気づいていないのだった。


 ーー夕食の片付けが済んだ後、私は天音さんに告白の返事をするため、自室の扉の前まできた。

「はぁ・・・・。」

私は小さくため息をついた。

天音さんが、どうしてあんなぬいぐるみを作ったのか考えると罪悪感がこみあげて来る。

「でも、ちゃんと返事をしないと。」

そして、扉をノックする。

「あ、葵。今日はお疲れ様。あなたのおかげでとても助かったわ。」

「いえ。天音さんが頑張ったから今日の成功があったんですよ。西園寺さんも、他の皆さんもとても楽しんでいらっしゃいました。天音さんのおかげで『楽しい学園』になってます。」

「そう?それなら良かったわ。それで、あの、ごめんなさい。」

「・・・?どうして天音さんが謝るんですか?」

「その、葵に黙って勝手にあなたのぬいぐるみを作らせて・・・。嫌だったわよね?」

「あー、そのことですか。複雑ではありますが、嫌というわけではないです。むしろ謝らなきゃならないのは私の方です。」

「葵?」

「いつまでも、告白の返事をしないままですみませんでした。私がはっきりしないせいで天音さんに寂しい思いをさせてしまってました。ずっと考えて、やっと答えを出せました。今、返事をさせていただいてもよろしいですか?」

すると、天音さんは少し深呼吸をしたのち、真面目な表情になる。

「いいわ。聞かせて。覚悟はできたわ。」

「はい。では、結論から言わせていただきます。私は、天音さんとお付き合いすることはできません。」

「そう・・・。理由を聞かせてもらってもいいかしら?」

私が言ったことに全く表情を変えずに天音さんは私に尋ねる。

「はい。私にとって、天音さんはとても大切な人です。天音さんのことは大好きです。でも、その好きは恋愛の好きとは違うのです。」

「でも、好きなら付き合ってたら恋愛感情に発展するんじゃないかしら。」

「そう、かもしれません。無いとは言い切れません。でも、私は恋愛の気持ちがないのに天音さんとお付き合いすることはできません。私は天音さんの真剣な気持ちには真剣に答えたいんです。だから、すみません・・・。」

私は深く頭を下げる。

「頭をあげてちょうだい。あなたの気持ちはわかったわ。残念だけれど、しかたないわ。でも、勝手に想うくらいは許してね?」

「は、はい。私にとっても、天音さんは大切なお友達ですからこれからもよろしくお願いします♪でも、変態行為はやめてくださいね?」

「が、頑張るわ。あなたに嫌われたくはないもの。いえ、あなたに好きになってもらえるように努力するわ。」

「が、頑張ってください?でいいんでしょうか・・・。」

そうして、私は天音さんの告白にようやく返事をすることができたのだった。

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