第20話バスケ部の悩み
そして放課後の理事長室ーー
「それでは、今日もまた理事長様のお悩み相談いきましょうっ♪」
円香さんが楽しそうに始まりの合図をだす。
「なんかすごい久しぶりな気がするのです。」
「ではでは、お悩み相談コーナーの回答をお願いします♪」
結衣さんも楽しそうだ。
「任せて!」
天音さんが頷く。
「それじゃ、投書を読み上げますね。」
私は複数の投書の中からちゃんとした内容の紙を選び、読み上げる。
『バスケ部です。部員が少なくて困っています。試合に出る人数は足りているのですが、練習が試合形式にできなくて困っています。このまま試合に出るのが不安です。助けてください。』
「ということなんですけど・・・。」
すると遥さんが口を開く。
「部員を勧誘すればいいのですっ!」
「遥さん、ズバリきましたね。・・・でも運動ができる人は大抵すでにどこかの運動部に入ってらっしゃいますし。」
「他の部から引き抜いたりしたら今度はそっちが困るだろうしねぇ。」
円香さんが答える。
「この学園、やけに部活の種類が揃ってますからねぇ。実は他の部活も似たようなものなんじゃないですか?」
私はみなさんに尋ねる。
「そうね・・・他の部活も試合に出られない人数のとこはあるはずよ。」
天音さんが答える。
「バスケ部、実は恵まれてる方なのです。」
「・・・統廃合、したほうがいいのかしら。」
「それはちょっと・・・みなさんそれぞれそのスポーツが好きでやってらっしゃるんですから。」
天音さんの意見に私が口をはさむ。
「そうだね、やりたくない活動を強制されても楽しくないだろうしねぇ。」
「ならその話はなしね。」
「決断はやっ!」
そもそも天音さんは、学園を楽しくしようとお悩み相談の活動をしているのだ。
生徒のみんなが楽しめないと分かれば、迷う要素は一つもないのだろう。
「でも、そういうことでしたら運動が得意じゃない方を勧誘されてもやっぱりご迷惑ですし。」
結衣さんがそう言うと、みんなでうーんと考え込む。
少し整理して、原点にかえってみたほうがいいかもしれない。
「あの、新部員の勧誘じゃなくて、今回は練習の対戦相手がいればいいわけですよね?」
私はみなさんに尋ねる。
「そうですね、今回はそういうことになるでしょうか。」
「それで、他の運動部も似たような問題を抱えていそう、と。・・・でしたら、互いに練習相手をお願いしたらよいのでは?」
思いついた解決策を提案する。
「・・・他の部に協力してもらうの?」
天音さんが尋ねる。
「はい、ギブアンドテイクでバスケ部にも同じ事をしていただいて。」
「専門外のスポーツじゃ、弱っちくないです?」
遥さんが口をはさむ。
「運動部の方ならそんなに酷くないでしょうし、それに弱くてもいいんです。練習相手なんですから。」
「よろしいの、ですか?」
「コテンパンにしたらむしろ自信がつきます。」
「葵ちゃん、さりげなく鬼畜だね・・・。」
「そ、そうですか?」
自分では普通のことを言っただけなので、少し戸惑う。
「とにかく、そんな方向でどうでしょう。」
天音さんに向けてお伺いを立ててみる。
「・・・・悪くはないけれど、一つ問題が。」
「駄目、ですか?問題って・・・。」
「駄目ではないけれど。それはそれで話を進めるべき。でも、他の部と話し合ったりすると時間がかかりすぎるわ。」
「・・・急げば、明日にでも話し合いをすることができるとは思いますけど。」
結衣さんが言う。
「それでも遅いかも。バスケ部、今週末に試合があるのよ。」
「えっ!?そうなの?」
円香のさんが驚いて叫ぶ。
「ええ、遠征の申請書類に判子を押したわ。」
天音さん、こういうところは流石だなと思う。
学園のみなさんのことしっかり事細かに把握してるんだなぁ。
頼りないとこもあるけれど何だかんだで立派な理事長だ。
「つまり、相談を送ってきたのも実はそれなりに切羽つまっているんでしょうか。」
「今日は木曜日だから、悠長なことをしている時間はないと思うの。」
「ええと、ええと、ならばどうするのです?」
まぁ、今すぐどうにかしようと思うなら・・。
方法は一つしかないわけで。
「今日のところは、私達で相手してみます?」
「自信ないですけど、それしかないでしょうね。」
「フフ、はるかは今ちょうど授業でやってるから余裕なのですっ!」
「でしたら決まりですね。みなさん騎士に選ばれるくらいですから運動はできるでしょうから。」
「球技は話が別だけどねぇ。」
円香さんが苦笑する。
「まぁ、今日だけですから。バスケ部のみなさんも、フォーメーションの確認とかできれば十分でしょうから。下手でもいいんです。」
そんなこんなで、バスケ部の練習を手伝うことになったのだけどーー
「はぁっ、はぁっ、ごめんなさい。もう、限界だわ・・・。」
天音さんが膝をつく。型を覚える武術と違い、バスケみたいに長時間走り続けるには体力が必要だ。
「早っ!もう体力切れなのですっ!?」
遥さんが言う。
小柄なわりに持久力はあるみたいだ。
試合形式の練習を始めて10分も経っていない。
「はぁ・・・・バスケットボールって、すごいハードなスポーツなんですね・・・。」
結衣さんも疲れ始めている。
「結衣お姉様も!?」
「私は、まだもう少しいけますけど。」
まぁ、バスケって、本気でやるとやたらすごい勢いで走り回るから、疲労がたまるのは仕方ないけど。
「あの、大丈夫ですか?まだ第1クォーターも終わってないですけど。」
私がみなさんに尋ねる。
普段あまり運動をしないお嬢様方の持久力を甘くみていたかと、早くも後悔しそうだった。
「ご、ごめんね?少し休憩にする?」
部長が申し訳無さそうに話しかける。
「そ、そうしてもらえると・・・。」
天音さんが返答する。
でもこれじゃ、練習にならない。
むしろ邪魔をしてしまっている。
「天音さん、もう少し頑張ってください。走らなくていいので、誰か来たら腕を広げるだけでいいですから。」
「え・・・・。」
休憩できると思っていた天音さんが絶句する。
「結衣さんはまだいけるっておっしゃいましたよね。せめてあと数分でいいので走ってください。」
「は、はいっ。」
「お姉様がちょっぴり鬼畜モードに・・。」
「はるかさんは、まだ元気いっぱいですね。パス回しますから全力疾走ですよ。」
「余計なこと言ったです!?でもお姉様が頼ってくれるんなら、頑張るのです!」
「というわけで、部長さん、あと五分はもたせますので、何か試したいことがあればその間にお願いします。」
「うん、ありがとう・・・でも大丈夫?」
これで、あとは私がへばっている天音さんのかわりに頑張ればなんとか練習になるだろう。
「私も今からは全力でいきます!みなさんもあと少しファイトですよ!」
(一同)
「お、おーっ!」
なんとかみなさんに奮起してもらい、練習を再開した。
「それじゃ、フォーメーションC、連携確認するよ〜!」
部長が部員に声をかける。
体育館の中に、シューズが擦れる音と、ボールをドリブルする音が響き渡る。
「部長っ、パスっ!」
まるでなっていない天音さんたちの守備を、真面目にパスを繋げてくぐり抜ける部員達。
「ナイッシュー!」
壁役でもいないよりはマシだと思いたい。
「次、右から行くよーっ!はいっ!」
「はぁっ、あひぃ。全然追いつけませ〜ん。」
結衣さんが部員の後ろをよたよたとついて行く。
「ナイッシューっ!」
次々シュートが決まる。
「やっぱり、なんかこれって。」
「すっごく、罪悪感が・・・。」
あまりに弱々しい相手に、自信どころか同情がわいてきているようだ。
「バスケ部の皆さん、敵に同情してどうするんですか!弱い相手でも全力で叩き潰す!そうしないと思わぬ落とし穴が待ってますよ?」
「お姉様どっちの味方なのです!?」
駄目だ。このままでは練習のお役に立つどころか闘争心を削ぐことになってしまう。
「だったら、油断大敵だと知ってください!」
「あっ、あぁっ!?」
少しは守備の練習になるように今度は私一人で
一気に敵陣に切り込む。
「うそっ!?抜かれた!?みんな戻ってっ!」
「よっ・・・と。」
油断をついたせいか、ノーマークでゴールにレイアップを決める。
「速すぎぃ〜!それに何あのジャンプの高さ!」
バスケ部員が驚く。
「わかりましたか?試合中に気を抜いたら駄目ですよ?」
「くっ・・・・なんか悔しい。先輩っ!こっちにください!」
「あ、うん・・・。」
「ですから、油断しすぎなんですってばぁ!」
何だか取れそうなコースにパスが飛んできたから手を伸ばしてパスカットしてみる。
「やだっ、ちょっとっ!」
「みんな、ディフェンスっ!って間に合わない〜っ!」
再び私がゴールを決める。
「何ですかこれ、守備の方はガバガバじゃないですかぁっ!」
「ごめん、弱小校で・・・。」
「もうっ、何やってるんですか!リバウンドくらいちゃんと取ってください!」
「は、はい!ごめんなさいっ!」
ーーそして、離れたところで遥さん達が、話している。
「お姉様、すごっ!一人でバスケ部全員と対等なのですっ!」
「うちのバスケ部、たしかに県内最弱ですけど・・・。」
「最初から葵一人で良かったんじゃないのかしら。」
その後しばらく私は一人でバスケ部のみなさんと、コートのなかを走り回るのだった。
「はぁっ、はぁっ、もう無理・・・。」
「お姉様つよすぎぃ・・・。」
休憩になるなり床に座りバスケ部員が呟く。
「あの、すみません。あつくなっちゃって。」
「いえっ、ご指導ありがとうございましたっ。コーチ!」
「コーチって・・・。」
「お姉様上手すぎるんだもん。色々教えてくれてありがとうございました。」
「そんな、大げさな。」
「大げさじゃないよ〜、たった一人であたしたち全員を相手しちゃうんだもん。知ってる?バスケって人数が一人でも多いほうが圧倒的に有利なんだよ?」
「知ってますよ。それでも私一人を止められないなんて皆さんが弱すぎるんです。反省してください、いえ猛省してください。」
「やっぱり、コーチ・・・。」
「あわわ、すみません。差し出がましいことを・・・。」
「いいえ、コーチ。もっと叱ってください!あと、できれば正式にコーチになってください!」
「えっ、あの。」
「てゆうか、お姉様がいればあたしたち勝てるんじゃ・・・?」
「お願い!是非バスケ部に!」
「入部してください!」
バスケ部員から次々に声があがる。
「ごめんなさい、それは無理です。」
だって本当は男だから・・・。
こうして練習に付き合うのはいいけど、試合に出るのはルール違反だ。
「私、部活動はできないんです。天音さんのお世話や、料理、家事もしなくてはいけないので・・・・。」
正直に理由を説明するわけにもいかないのでそんな言い訳をした。
「その言い方、まるで私達がダメ人間みたいね。」
天音さんが口を開いた。
「割と、そのとおりですけど?」
「葵様、最近私達に対して厳しいですよね・・・。もしかしてこれが本性だったんでしょうか。」
言われてみるとそうかもしれなかった。
少しくらい自分を見せても、友達だから許してもらえると油断しているのかもしれない。
きっとそれは悪いことではないのだろうが、親しき仲にも礼儀ありと言うからなぁ。
・・・甘えすぎないように気をつけよう。
「・・・とにかく、入部はごめんなさい。練習なら時間があれば少しはお手伝いしますから。」
「ホントっ!?お姉様、コーチしてくれるの?」
「コーチは勘弁して下さいっ!」
そして、無事にバスケ部の練習は終わった。
ーー寮に帰ると、私は遥さんと一緒に夕食の支度をしていた。
「今日のお姉様かっこよかったのですっ!」
「いえ、バスケ部の方々のレベルが低かっただけですよ。」
「そうなのです?」
「そうですよ。」
そんな会話をしながら、そういえばまだ洗濯をしていないことに気がついた。今日はバスケ部の練習で体操服を使ったのだった。
「遥さん、すみませんがお鍋見ててもらえませんか?肉じゃがですから、汁がなくなったら火を止めておいてください。」
「わかったのですっ!」
遥さんなら任せても大丈夫だ。
そして洗濯物の回収に向かうことにした。
みなさんの洗濯物を集めてきて、自分の部屋に向かう。
部屋の扉をノックして・・・・
「失礼します、入りますよ、天音さーー
・・・・えっと・・・?」
何かを被っている天音さんの姿。
「スゥ、はぁ、はぁ、はふぁ・・・。」
扉を開けた瞬間、見てはいけないものを見てしまった。
「ぁあ・・・汗の香りが、クンカクンカ・・・!すぅぅ♪」
天音さんが体操服のハーフパンツを被ってくねくねしている。
「ペロッ、ちゅぅ・・・しょっぱくておいしいわ・・・。」
しかも匂いのみならず舐めてるの!?
「へ、変態だぁーーっ!」
「・・・・?誰かいるの?」
「ちょ、ホントに何なさってるんですかぁっ!?」
「その声は、・・・葵?」
「それ、私の体操服ですよねーっ!?」
「・・・自分の体操服の匂いを嗅ぐ趣味はないわ。」
「他人の体操服の匂いを嗅ぐ趣味はあるんですかっ!!」
とりあえず私は、つかつかと天音さんの方へ歩み寄る。
「ていっ!!」
天音さんからハーフパンツを奪い取る。
「あ、あぁ・・・・。」
すると、天音お嬢様はまるでおやつを取り上げられたような目を向けてくる。
「返して・・・・もう少しだけ・・・。」
「ぜ、絶対に嫌ですっ!」
「どうしても・・・・?」
「どうしてもです!お嬢様!」
「・・・何故お嬢様と呼ぶの?」
「変態が友人だと認めたくないからでしょうがっ!」
「変態だなんて、酷いわ。」
「酷いのはどっちですかっ!人の体操服で何してるんですか!」
「あなたも、私の体操服被っていいのよ?」
・・・・ほんの若干、気持ちが揺らいだのは認めよう。
「だから、それを私に・・・・。」
「だ、駄目です!没収です!すぐに洗います!」
「そんな、勿体ないわ・・・。」
「これ以上言うならお暇をいただきますからね!?」
「あぅ・・・仕方ないわ。出て行かれても困るもの・・・。」
私が体操服を抱えてジリジリと離れるとようやく天音お嬢様も諦めてくれる様子だった。
「でも・・・堪能させてもらったわ。ごちそうさまでした。」
笑顔でそんなことを言うお嬢様。
「いや、何を仰ってるんですかお嬢様。」
「あの、びっくりするくらい声が冷たいのだけれど。」
「・・・一つお聞きしても?」
「ええ、何かしら・・・・?」
「一体、何をしてらっしゃったんですか?」
「あなたが見たとおりよ?葵の下半身の匂いを嗅いでいたわ。」
・・・ばかな。
反省の色どころか、恥ずかしがる素振りすらないなんて。
「お嬢様は本物の変態でいらっしゃるんですか?」
「・・・?言っている意味が分からないわ。というか、そろそろお嬢様はやめてほしいのだけど。」
「どうして体操服を被ろうと至ったのか、納得のいく説明が頂ければ考えますっ!」
返答如何によっては、友達をやめようかと揺れながら聞いてみたところーー
「・・・好きな人の匂いは気になるわ。」
「え・・・?えっと・・・・。」
「告白したのに返事をくれないんだもの。寂しくて体操服を被りたくもなるわ。」
「そ、その理屈はちょっと・・・。」
「あなたは好きな人の体操服が目の前にあって被りたくならないとでも言うの?」
「なりませんよ!・・・たぶん。」
「本当の本当に?」
「・・・ごめんなさい、ちょっとだけ自信がありません。」
「でしょう?」
笑顔で同意を求める天音さん。
「いえ、ドヤ顔されても。実行するのは変態ですから。」
「もう変態でいいわ。あなたが返事をくれないから私は変態になったのよ。」
責任転嫁にもほどがある!
・・・でも返事をしていないのは事実なわけで。
「ええと、あの・・・すみません?」
「本当に悪いと思ってるの?」
「い、一応・・・?」
あれ?どうして私が責められる流れに?
「なら、お詫びにその体操服がほしいわ。」
「あ、はい。断固拒否します。」
「しょぼん。」
「そんな顔をしても駄目です。何に使われるかわかったもんじゃありませんから。」
「あなたのせいなのに。誠意が感じられないわ。」
「お詫びはいいですけど、他のことでお願いします。」
「それじゃ、今日から私より先にお風呂に入って?」
「え・・・?どうしてですか?」
自分の後に入られるのが嫌なのかなと首を傾げる。
「葵が入ったあとの残り湯が飲みたいの♪」
「天音さんは私に嫌われようとしてるんですかっ!?」
「え・・・どうしてそうなるの?」
「不思議そうな顔しないで下さいよう!!」
・・・頭を抱えて絶叫するはめになった。
「あの、私のこと・・・嫌いになった?」
そして今さら不安そうは顔で見つめてくる天音さん。
・・・もしかして、本当に変態の自覚なかったのか?
「残り湯と体操服に手を出さないと約束して頂けるならまだ間に合います。」
「・・・わかったわ。」
悪意がなかったなら・・・何とか、まあ。
「上履きもダメ?」
「舐めてる姿を見たら100年の恋も冷めますよ!?」
「が、我慢するわ・・・。 」
聞き分けがいいだけマシだけど、どうしようこれ。
「それで、あの、こないだの告白の返事をそろそろ聞きたいのだけど。」
「お願いですからこのタイミングで聞かないでくださいっ!」
「なぜ?」
「ついさっきまで前向きに検討していたんです!でも今は迷ってるんです!天音さんが変態だから!」
「そんな・・・・。私、なんてことを・・。」
「とりあえず、変態行為をやめて頂けるなら改めて検討しますから!」
「わかったわ。あなたが嫌がるならもうしないわ。」
「お願いしますよ。本当に・・・。」
「その・・・嫌われたくは、ないのよ。」
私の私物と、残り湯に手を出さないと約束してもらいほっと息をつく。
でも、あの告白やっぱり夢じゃなかったんだ。
そう考えると、安心したような、相手が変態と知ってあまり嬉しくなくなったような。
「ああもう、すごい複雑・・・っ!」
「お、怒らないでね?」
どうしてこの人は、こうも肝心なとこで残念なんだ・・・。
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