第19話遥に芽ばえた想い

 そして放課後のこと。私は職員室の前でそわそわしながら行ったり来たりを繰り返していた。職員室の中では、遥さんがお説教を受けている真っ最中のはずだ。

しばらくすると遥さんが職員室から出てきた。

「おりょっ、お姉様っ!待っててくれたのです!?」

「ええ、なんか気になってしまって。それで、ゲームは返してもらえましたか?」

「はいなのです!もう二度と授業中にゲームはやらないっていう条件で返してもらえたのです。」

「これからは、学校にゲームを持っていくのはやめましょうね。そのかわり、休み時間に宿題は済ませて、寮でたくさん遊びましょうね。」

「はい♪」

「それじゃ、帰りましょう。帰ったら、続きやりましょうね。」

「あっ、はるか・・・まだ帰れないのです。」

「何か用事ですか?」

「今日は図書委員の当番なのです・・・。

あ、でもでも5時には終わるから寮で待ってて欲しいのです!」

そういえば遥さん、図書委員でしたね。

「でしたら、私もご一緒させてください。」

「ふぇ?・・・いいのです?」

「はい。たまには本でも読みたい気分でしたから。」

「ありがとうなのです。それじゃ、いきましょお姉様♪」

そして私達は図書館に向かった。

遥さんは受付にちょこんと座っている。

話しかけるのも邪魔になるから本でも読もう。

しかし、短時間に読めるものといえば絵本か雑誌くらいか。さすがに絵本を読むのはみっともない。しかたなく雑誌コーナーに行く。

「あ、新刊でたんですね。」

手にとったのは『月刊銃の世界』。

他に見るものもないので立ち読みしてみる。

しかし・・・やっぱり女子校には似合わない。

拳銃や小銃が表紙を飾っているのは乙女の園にはちょっと・・・。

「おぉ〜、さすがお姉様はお目が高いです!迷い無くそのコーナーに行くなんて。やはりお姉様は最高なのです!」

台車を押していた遥さんが駆け寄ってきた。

「あ、前回も思いましたが、やっぱりこれって遥さんが?」

「はいなのです。本館の司書から任されてる一角なのです。雑誌もはるかがリクエストして入れてもらってるのです!」

「趣味が滲み出てますし、まぁそうだろうと思いました。」

しかし、1年生にこういうことをいきなりやらせるなんて、ここの司書さんはなかなかできる人みたいだ。

「うひひ・・・やっぱりお姉様は他の人とは違うのです♪」

「どれだけ不人気コーナーなんですかぁ!」

いやまぁ、遥さんも常にここにいるわけではないから他にも気になって読んでいる人はいるかもしれない。

「委員ちょーには、異彩を放ってるねって言われたのです。」

「まぁ、放ってますね。」

そこは同意するしかなかった。

「やっぱり、変なの・・です?」

「遥・・・さん?」

「女の子がこんなの好きって、おかしいのです。」

ふと気がつくと、遥さんが困ったような表情をしていた。

「そんなことはありませんよ。」

「でも、みんなはるかのこと『変な子』だって噂してるのです・・。」

なんだかんだで、気にしているのだろうか。

「こないだも言いましたけど、私だってこういうの好きですよ?」

何故だか批判するつもりにはなれなくて、微笑みかける。

「だから、いいじゃないですか。ここにもう一人変な女の子がいるんですから。遥さんは一人じゃありませんから♪」

本当は男の子なんだけど。

「あの、無理しなくて、いいのです・・・?」

「無理なんてしてませんよ。私、やっぱりアサルトライフルはMC16よりAKです♪」

「ふぇ!?いきなりそこに切り込むとはやはり本物なのですっ!!」

証明のため言ってみたら、激しく反応する遥さん。

「そういえばお姉様、はるか愛用のルカーも知っていたのです。」

以前、遥さんの部屋にお邪魔したときモデルガンが置いてあるのが気になっていた。

「はい♪遥さんのご趣味は理解できますって前から言ってるじゃないですか♪」

それに、最近は一緒にゲームだってやっているわけで。

「何ということです・・普段がすごい女の子しているから肝心なことを失念していたのです。」

「・・・そうですか。」

・・いやまぁ、もういいけどね。

「でもでも、お姉様、本当にそれでいいの・・です?」

「え・・・どういう意味ですか?」

「AKよりM16の方が絶対格好いいですっ!禍々らしいのですっ!」

「あ・・そっちですか。」

「えへへ、こういう話できるのはやっぱり楽しいのです♪今までお話できる人はネットにしかいなかったのですよ。」

「女子校ですからね。それに私だって同じようなものです。」

同じクラスの子と話していると、やっぱりガールズトークみたいになるけれど。

正直、話題についていくのが大変なくらいだ。

その点、遥さんとお話している時だけは、自分の趣味に添った会話ができるというか。

「私と遥さんって、意外と相性がいいのでしょうか・・・?」

「何故意外なのか多少気になるですけど、悪くはないです?」

「頂いたゲームもドハマりしてますからね。あれって、銃や戦車も使えるとこがいいですよね。」

「にひひっ♪はるかもそう思うのですっ♪」

気づいていなかったわけではないけれど、遥さんとの会話はいつだって楽しく弾んでいた。

そして、きっと遥さんもまた、私との会話を誰よりも喜んでくれていて。

・・・もっともっと遥さんと色々なお話をしたいと思った。

「あの、遥さん。ゲーム以外にも、何か興味があることとかないですか?」

「ふぇ?いきなりどうしたです?」

「いえ、何となく。色々なことをして遊びたいなって思っちゃいまして。」

ゲーム中の会話も楽しいけど、それでは彼女の操るキャラクターのことしかわからない。

だけど、私は出来るならもっともっと遥さんの色々な姿を知りたくて・・・・。

「お姉様と遊びたいこと・・・。ホントにな、何でもいいのです?」 

「はい♪」

「じゃあね、じゃあねっ、あのねっ。」

私が頷くと、遥さんはうじうじしながら言ってくる。

「決闘したいのです!」

「・・・・・・・・はい?」

だけど、そこはやっぱり少しだけ変人の遥さん。

・・・斜め上の返答に、絶句して首を傾げるのだった。


 寮に帰ると、とりあえず着替えて玄関先に再集合。

夕食の支度もしなきゃだけど、遥さんが手伝ってくれるなら日が暮れてからでも間に合うだろう。

「はい♪お姉様はこれ使ってくださいなの♪」

「はぁ、ありがとうございます・・・。」

渡されたのはエアガンだった。

「ワルサーP38ですか。」

「はい♪ルパン歌っていいのです♪」

「だめです。それより、これで撃ち合うんですか?」

「はいなのです♪背中を向き合って、三歩離れたら勝負開始なのです!」

つまり、西部劇みたいな決闘をやりたいらしい。

エアガン持ってたら、誰かと撃ち合いたくなる気持ちはわかるけどね。

女の子同士だと言い出しにくい遊びなのもよくわかる。

「あ、その前にゴーグルはありますか?」

「ふぇっ?」

「サバゲー用の、目を覆うやつです。」

「そんなの、持ってない・・・です?」

「なら、人に向けて撃つのは駄目です。」

「ふぇぇぇ〜っ!何でです!?」

「危ないからです。今度、ゴーグル用意してからやりましょうね。」

「そんなぁ〜、ちょっとくらい大丈夫なのですっ。」

「駄目なものは駄目です。万が一のことがあったらどうするんですか。」

「ふぇぇぇ・・・。」

拗ねてしまった。でもこればっかりはなぁ。

「じゃあ、撃ち合うのは駄目ですけど、空き缶とかを撃って勝負しませんか?」

「そんなの、一人でも遊べるのです・・。」

「一人で勝負はできませんよ。折角なので何か賭けますか?」

「わ、わぁ〜、賭け事!お姉様ワルなのですっ!」

「お金は駄目ですけど、・・・そうですね。夕食のおかず一品というのでどうでしょう。」

「いいですよっ!勝利のエビフライの味はさぞかし美味なのです♪」

「もう勝った気でいるんですか?随分な自信ですね。」

「シューティングゲームで鍛えてるのです♪」

「それじゃ、、何か的になりそうなもの持ってきますね。」

「はいなのです♪」

ーー台所から空き缶を取ってくると、寮の庭先、外には飛んでいかないような角度を考えて、飾り石の上に空き缶を置いた。

で、遥さんと並んでエアガンを構え、勝利を始めたのだけど・・・。

「いくのです!エターナルフォースファイヤー!!」

「なんで半端にドイツ語の発音が混ざってるですかぁ!」

「撃て撃て撃て〜♪」

派手に腕を広げて大胆なポーズを取りながら、何回か引き金を引く遥さん。

・・・しかし。

「どうなのですっ!見事に全弾・・・・。」

「当たってないですから!全部外れ弾ですからね!?」

「あれっ!?おかしいのですっ!なんで当たらないですっ!?ちゃんと狙ったはずなのに。」

「あんな撃ち方で当たるはずありませんから…。」

「今のは練習なのですっ!次はちゃんと当てるもんっ!」

そう言って、再び腕を伸ばしてP08を構える遥さん。

・・・でもしかし。

「かすりもしてませんね。」

「なんでですぅっ!?これ、おかしいのですっ!」

「銃のせいにしないで下さいね?」

オモチャメーカーを舐めてはいけない。ただのエアガンだろうと、ちゃんと狙えばきちんと当たるくらいの精度はあるはずだ。

「ふぇぇぇ。お姉様は、はるかがヘタクソだと言いたいのです?」

「有り体に言えば・・・。もしかして遥さん、あまり撃ったことがないのでは?」

「だって・・・部屋の中で撃ったら怒られるのです。」

「外に持って行って試し撃ちとかは?」

「一人でやるのは怖いのです・・・。お巡りさんが来ちゃったりしたらどうするのです・・・?」

「普通にエアガンの試し撃ちだと言えばいいのでは?」

「でも、親呼び出しとかなったら困るのです。」

人目は気にしないくせに、何だかんだでビビリだった。

「なら、今のうちに構え方からやってみましょうか。」

「お姉様、教えてくれるのです?」

「私も見よう見まねですが、遥さんの構え方よりは正しいはずですから。」

言いながら両手でP38を構え、片足をひいて狙いを定める。

「わ、わぁ!当たったのです!」

「こんな感じです。やってみてください。」

「は、はいなのですっ。」

遥さんが構えを取ると、後ろに回り込んで補助をする。

「ふあっ・・・。お姉様・・・・?」

「何をぼーっとしてるんですか?射撃は集中力が大切ですよ。」

「は、はい・・・なのです。でも・・・。」

「どうかしましたか?」

「そんなにくっつかれると、そのぉ・・・。」

「・・・えっと。」

言われて初めて、二人羽織よろしく密着してしまっていることに気がついた。

「な、なんかこれ、ドキドキするのです・・・?」

「お、女の子同士で何言ってるんですか、もうっ。」

「そ、そうだよねっ。女の子同士だから、何も恥ずかしいことはないのですっ!」

「そ、そうですよ・・・?ちゃんと集中してくださいね?」

でも、何だか女の子に触れていると思うと意識してしまいそわそわしてしまう。

・・・というか、どうして遥さんまで照れているのだろう。

「ええと・・・。離れたほうがいいでしょうか?」

「ううん、平気なのです・・・。むしろこのままで・・・・。」

そう言われつつ離れてしまうのは、女子のフリをしている身としては、余計な疑いを招きかねない。

自分にそう言い訳をして、とりあえずはこのまま遥さんに触れていることにした。

「そ、それじゃ、狙いを定めるのです!」

「・・・ですね。こうやって両手で持つと安定しますから。」

「たしかに、銃が動かなくて狙いやすいのです・・・でもなぁ。」

「でも・・・?なんですか?」

「なんか、普通なのです。」

「・・それはまぁ、普通に構えてますから。」

「あんまり格好良くないかも・・・?」

「そんなことはないと思いますけど。」

「銃を横向きにして構えるのは、アレはダメなのです?」

「当たらないですよ?」

「ふぇぇ。何だかちょっと物足りないのです。」

遥さん的にはたぶん小芝居の気持ちよさも重要なのだろう。

そういうことなら・・・・。

「遥さん、思い違いしてはいけません。基本を逸脱するのはむしろ素人がやることです。」

「ふにゃ?お姉様?」

「プロは基本を崩しません。それできっちり命中させて仕事を果たす・・・それこそ真の格好良さじゃないですか?」

「・・・・っ。お姉様の言うとおりなのですっ!」

あっさり説得されてしまった。チョロいなぁ。

「では、このまま狙いを定めてください。」

「は、はいなのです!」

「足はもう少しひいて、身体の重心がブレないように意識して・・・・。」

「こ、こうなのです・・・?」

「引き金を引くときは、力を入れすぎないよう絞る感じで・・・。」

「はいっ、なんかいける感じが・・・。」

「あとは集中です。好きなタイミングで撃ってみてください。」

小さく深呼吸をして、それから息を止めてまっすぐに、標的の空き缶を見つめる遥さん。

ーーそして。

「てぇっ。」

標的を見つめる私達の視線の先では・・・。

「あ・・・・・。」

アルミの軽い缶が弾け飛び、地面に転がっていた。

「ーー命中、確認です。」

「あはっ♪当たった!当たったのです♪」

「はいっ。お見事ですっ♪」

「なにこれっ!すっごい気持ちいいのですっ!楽しいぃ〜〜〜っ!」

「でしょ?妙に興奮しちゃいますよね。」

「もっとやるのですっ!いっぱい命中させるのですっ♪」

「ふふっ。そんなに慌てなくてもあの的は逃げませんよ。」

「あのねっ、次はねっ、お姉様も一緒にーー」

と、遥さんが振り向いた瞬間。

「あっ・・・・。」

「ふぇ・・・・。」

密着していたせいで、唇がくっつきそうなくらい遥さんの顔が近づいていた。

「ふぇっ、わ、近い・・・。」

「あ、あの・・・。」

一瞬、びっくりして身体が硬直してしまう。

離れるという選択肢を思いつかないまま、しばしの間、数センチの距離で見つめ合っていた。

「キス・・・・しちゃいそう・・・なのです。」

「し、したいんですか・・・?」

「それは・・・あの・・・。」

「・・・・・・・。」

迷うように、遥さんは唇を震わせて・・・。

「おおお落ち着くのですお姉様!

そそそそんなの女の子同士でするはずないのですっ!」

「で、ですよねーっ!?」

我に戻った瞬間、大急ぎで顔を背け合う。

「そ、そんなことより今は射撃訓練なのですっ!」

「はい、そうですね。日が暮れるまでみっちり叩き込みますから♪」

なんだかおかしくなった空気を振り払うよう再びP08を構える私と遥さん。

・・・なのだけど。

「あ、あれれ。何だか手が震えて・・・っ」

狙いを定めるどころかあたふたして銃を落としそうになるくらい。

「しゅ、集中しないと・・・このままじゃ当たりませんよ。」

「わかっているのですっ、でもっ、はぅ。」

私としても、遥さんの身体のぬくもりが無視できなくなっている。

「ちょ、ちょっと無理かも・・・ですぅ。」

「そ、そういえばそろそろ晩ごはんも作らないと・・・!今日はもうこれくらいにしましょうっ!」

「は、はいなのです!ご飯の支度なら仕方ないのですっ!」

急速に申し訳無さと罪悪感がこみあげてきて言い訳をしながら離れることにした。

(遥)

(はぅぅ。心臓バクバクしてる・・・)

しかし、どうして遥さんまで慌てているのだろう。


その後は、遥さんに手伝ってもらいながら食事の準備をして、食事をして、後片付けをして。

ほかにも洗濯をしたり、家事に追われるように時間が過ぎていった。

「あはは、結局ゲームはできませんでしたね。」

もう布団に入らなきゃいけない時間になっていた。

「はい。でも、明日があるのです♪」

「ですね。今度こそ水竜を倒しましょう。」

「はい♪約束なのですっ!」

「ではまた明日です。おやすみなさい。」

「おやすみなさいなのですっ♪」

そして遥さんはにっこり笑って部屋に帰った。


(遥)

「はふぅ・・・・。」

部屋に戻って後ろ手にドアを閉めながらはるかは小さくため息をついた。

「また明日・・・・また明日・・・。」

お姉様にさっき言われた言葉を噛みしめる。

「あは・・・・あは・・・♪」

どうしてだろう・・・こんなに顔が緩んでしまうのは。

「お姉様の手・・・まだ感触が残っているのです・・・。」

エアガンを試し撃ちしたときの、密着したお姉様の体温・・・。

それを思い出すと心臓の鼓動が乱れてしまう。

「あぅあ・・・。ドキドキ、止まらないのです・・・。」

最近は油断しているとすぐこんな感じになってしまう。

・・・この気持ち、何だろう・・・。

どうして、

お姉様に触れるとこんなに胸が苦しくなるのだろう?

「これって・・・・不整脈っ!?」

・・・そんなわけない。

言ってみただけなのです。

「やっぱり・・・・。そうなのかな・・・。」

全く何もわからないほど、はるかは子どもじゃない。

でも、だけど・・・その感情に、名前をつけようとして途方に暮れてしまう。

「女の子同士で・・・・そんなはずないのです。あは・・・。」

呟いて否定をしてみても、胸が苦しくなるだけだった。

「違う・・・・のです・・・。」

だけど、他にどういう解釈をすればいいのか。

・・・はるかにはわからなかった。


ーー結衣さんに正体がバレ、天音さんに告白された日から数日が経過していた。

その数日の間に中間試験があり、試験休み明けの平日の朝。

私はいつもどおり早起きをして、朝食の準備を始めていたのだけど。

「あぅ、また失敗・・・。」

手伝ってくれていた遥さんが、崩れたオムレツを前に肩を落としていた。

「大丈夫ですよ。それくらいなら食べてしまえば一緒です♪」

「でもでも、お姉様みたいに上手く作りたいのですっ!奥義、堕天のエッグリターン!ってやりたいのです。」

「何ですか。その恥ずかしい技名は・・・。」

「お姉様も使っていいのです♪かっこよく決まると楽しくなるのですよ♪」

最近、遥さんの言動に中二病的なのが増えてきた気がする。今まで自分を見せてなかっただけで、もともとだったのかもしれない。

「うむむ、でもどうしてお姉様みたく綺麗にくるってできないのです?」

「力みすぎなんだと思いますよ。ほら、こんなふうに。」

遥さんの前で、今度は私がフライパンを握り実演してみる。

「よ・・・・っと。」

「おぉぉっ!お見事なのですっ!これはもはや堕天ではなく、天使のインメルマンターン!」

「すみません、何を仰ってるのか全く分かりません。」

「とても綺麗で素晴らしいって意味なのです♪」

「・・・・お褒めに預かって恐縮です。」

「ねぇねぇっ、次ははるかがやるのです!」

「でも、もうオムレツは人数分できちゃいましたし。」

「ええぇ・・・。」

「また明日、挑戦しましょう。手伝って頂いても構わないのでしたら。」

「もちろん手伝うよっ♪うん、じゃあ明日こそオムレツを成功させるのですっ!色々教えてねっお姉様♪」

「はい、喜んで。」

「えへ・・・♪えへへ♪よかったぁ♪」

と、何だかくすぐったそうにニコニコする遥さん。

「どうしてそんなに嬉しそうなんですか?」

「えっとね・・・?約束してくれるってことは、お姉様本当にずっといてくれるんだなぁって♪」

「・・・その節はご迷惑をおかけして。」

「もうどこにも行かないのです?いなくなったりしない?」

「はい、そのつもりはありませんから。退学にでもならない限りずっといますから。」

「そっかー♪なら、お姉様の成績なら安心っぽいのです♪」

まぁ、本当の性別というヤバイ秘密がバレたら退学になるかもしれないけれど。

「ところで、成績といえば遥さん、中間試験はいかがでした?」

「はぅっ。今日あたりからもう返ってくるよね・・・。」

あれれ、何だか憂鬱そうな反応が。

「ちょっとケアレスミスが色々・・・点数見たくないのです・・・。」

「そんなに悪そうなんですか?」

「たぶん、全教科90点いけばいいかなーってくらい・・・。」

かなりレベルの高いとこで落ち込んでいた。

心配することはないみたい。

「まぁ・・・・できたはずなのにやらかしたってなると悔しいですよね。」

「はぁ・・・オムレツもうまく作れないし、最近のはるかはダメダメなのです。これはもしや天使たちの妨害工作なのです?」

「天使・・・やることのスケールが小さいですね。同じ間違いをしないのなら、失敗も経験ですからね。それに復習も自己採点もしていて偉いです♪」

「そ、そう?・・・えへへ♪」

手を拭いて、遥さんの頭を撫でると、照れ臭そうにモジモジし始める。

「今日からまた、頑張りましょうね。」

「はいなの♪」

こうして、いつもと変わらない平穏な1日が今日も始まるのだった。

そう、変わらない1日。

天音さんからの告白から返事をすることなく、何も変わらない数日が過ぎていたのだ。

告白からのこの数日何もなかった。

天音さんの態度もいつも通りだ。

(やっぱり、どうにかしないとダメだよね・・・。)

しかし、まだ自分の天音さんへの気持ちに答えは出せないままなのだった。

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