第13話葵の決意
放課後になり、天音さんが円香さんに話しかける。
「東雲さん、よかったら、これから買い物に付き合ってほしいのだけれど。」
「別にかまわないわよ。じゃあ結衣と遥にも聞いてみるね。」
円香さんはそう言うとスマホでメッセを送った。
「それでしたら私も一緒にーー」
いいかけたところで天音さんが口をはさむ。
「葵はいいの、寮で待っておいてちょうだい?」
「え、でもそれじゃ天音さんの警護が・・・。」
「それなら大丈夫。ちゃんと警護班を手配しているから。」
「そうですか・・・。わかりました。」
すると円香さんが話しかける。
「そういえばさ、葵ちゃんってスマホ持ってないの?」
円香さんが私に尋ねる。
「お屋敷にいた頃は業務用をもたされていたんですが今はないですね。寮の電話で事足りますし。」
すると天音さんが口を開く。
「私も持ってないわね。寮に入るまで私、友達っていなかったから・・・。」
すると円香さんのスマホが鳴る。
「あ、返信がきたわ。二人とも大丈夫だって。」
そして私は一人で寮に向かった。
(天音さん、いったいどうしたんでしょうか・・・。今まで私と以外で買い物なんてしたことないのに・・・。女の子だけじゃないと買えないもの?)
お屋敷いたころは大抵の日用品は使用人が買い揃えていた。
(そうですよね。天音さんは私が男の子だって分かってるから連れて行かなかっただけですよね?)
そう思っていたのだが、どうやら違った感じだった。
夕食時、天音さんがみなさんに話しかけてきた。
「ねぇ『円香』、このあと部屋に行っても
いいかしら?あ、『結衣』と『遥』もきてほしいのだけど、」
「うん、別にいいわよ。って、今、円香って?」
「聞き間違い・・じゃないですよね?」
「はるかも、聞きましたです!」
「ダメ・・・かしら?」
「そんなことないです!ずっと、葵様だけ名前で呼んでずるいって、思ってたんです!」
「そう・・・じゃあ、改めてよろしくね。円香、結衣、遥。」
「はいっ。」
「それじゃ後で円香の部屋に集合ね。葵は部屋でゆっくりしていてちょうだい。」
(私だけ呼ばれなかった・・?やっぱり天音さんから避けられてる?)
イヤな予感だけが頭の中をよぎる。
(いやいや、たまたまなだけですよね。天音さんが、私を避ける理由がありませんよね。それに、天音さんに私以外にちゃんと友達ができたことを喜ばなきゃ。)
自分にちがうと言い聞かせる。
しかし事態はどんどん私の思いたくない方へ進んでいった。
翌日、また私以外のメンバーだけで買い物にでかけてしまったのだった。
(いったいどうして?私が男の子だから?私が一緒にいてはいけないということだろうか?わざわざ天童家の警護班を動かしてまで私を避ける理由って・・・。)
考えれば考えるほど涙が出そうになる。
(円香さんも、結衣さんも、遙さんも私と仲良くしてくれて、あんなに笑顔を見せてくれた。でもそれは私を女の子だと思っているからだ。私は男の子だ・・・。みなさんとは違う。私はみなさんを騙している。あんなにいい人たちに私は嘘をつき続けている。これはそんな私への罰なんだろうか?)
罪悪感がこみあげて来る。
(いけない、夕食の支度をしなくちゃ!)
そして私は泣きそうな顔で夕食の準備をしたのだった。
夕食時、みなさんの態度はいつも通りだった。いつものように楽しい会話。でも、私はあまり耳に入ってこなかった。
「ねぇ、葵、聞いているの?葵ってば!」
天音さんの声にはっとした。
「あ、すみません!何の話でしたっけ?」
「アリエル祭の話よ。どうしたのかしら葵?具合でも悪いの?」
天音さんが尋ねる。
「えっ!?お姉様、病気ですか!?大丈夫ですか!?早く休まないとっ!」
遙さんが慌てて私に話しかける。
この優しさに罪悪感から少し涙がでた。
「お姉様?泣くほどつらいのですかっ!?早くベッドに横になってください!」
「葵、後片付けは私がやっておくからあなたは部屋に戻って休みなさい。」
「私も手伝うわ。」
「お手伝いいたします。」
「はるかにもやらせてくださいなのです。」
ほかの3人が話す。
「わか、りました。」
私はそう言うと部屋に戻った。
別に体調は悪くはなかったのだが何もする気が起きず横になっていた。
コンコンっ
ドアがノックされる。
「お姉様、大丈夫なのですか?はるかにできることがあれば何でも言ってくださいなの。」
遙さんは中には入ってこず声だけ聞こえた。
「ありがとうございます。大丈夫ですから、熱もありませんから。寝たら良くなりますから。」
そう返事をした。
(この優しさが、・・・胸にチクリと痛みを感じる。私はみんなを騙している・・・。私なんかにそんなに優しくしないでください・・・)
しばらくすると天音さんが戻ってきて同じように私を気遣ってくれた。
そして次の日、私はみんなに心配かけないよういつも通り振る舞った。
(うん、考えないようにしよう!私はみんなといるこの空間が好きなんだ。例え偽りであったとしても、この雰囲気を壊したくない。)
その日1日は何事もなく過ぎていった。
夕食後、今日も円香さんの部屋にみんな集まっているようだ。
天音さんに聞いても円香さん・結衣さん・遙さんに聞いても答えてくれない。
(私には言えないことなのだろうか?お友達だと思っているのは私だけ・・・?)
私と、みなさんとの間には見えない大きな壁があることを痛感する。
私の考えていたことが決定的になったのは次の日のことだった。
今日は休日だ。
朝食を食べているとき天音さんが話しかけてきた。
「ねぇ、葵、今日1日出かけてきてくれないかしら?・・・そうね。お父様に届け物をしてきてちょうだい。届け物は後で渡すわ。」
「えっ?でも届け物でしたらバイク輸送の係がいますよね?」
「いいから、あなたに行ってきてほしいの!これは命令よ。それから夕方までは絶対に!帰ってきたらダメよ。私のことなら寮の外に警護を手配しているから心配ないわ。」
「・・・かしこましました。」
私は『命令』にしたがいお屋敷にむかった。
案外用事は早く済み、私は公園のベンチに座って時間をつぶしていた。
(私は天音さんの使用人・・・。代わりなんていくらでもいる。
あそこは女子寮。男である私がいる方が間違っている。
会長の命令に背くことになるけど、女装が精神的につらいと言い張ればあの会長のことだから許してくれるだろう。)
天音さんは男の子の私が同じ部屋にいたらしたいこともできないと考えているのかも知れない。
そして、他のみなさんも私がいなくなっても特に何も変わらないのかもしれない。
「私はお屋敷に戻ったほうがいい。」
そう決意したのだった。
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