第9話理事長のお悩み相談

 昼休みになり、お弁当を食べているときだった。

ピンポンパンポーン

「天童天音さん、および一条葵さん。至急理事長室へお越しください。」

校内放送が流れた。

そして私と天音さんは理事長室に入ると、そこには天童会長がいた。

「いや、呼び出してすまなかったな。」

「それでお父様、ご用件はなんでしょう?」

「午前中の理事総会で天音の理事長就任が正式に決まった。」

「やはりそうなのですね。わかりました。私、頑張ります。」

「まぁ、理事長といってもそんなに仕事があるわけじゃない。大抵の業務は学園長が行うから天音は最終決定を下すだけだ。まぁ、主に提出された書類の確認と整理だな。まぁ葵くんがいれば大丈夫だろう。」

「はい。私もできる限り頑張ります。」

そして天音さんが正式に理事長に就任した。


 そして教室に戻り、天音さんが口を開く。

「私、せっかく理事長になったからには学生たちのためになることをしようと思うの。葵、みんなが楽しく学園生活を送れるようにするにはどうしたらいいかしら?」

「そうですね〜。さしあたってはみなさんの意見聴くところからでしょうか。」

すると円香さんが話し合いに入ってきた。

「それならさ、お悩み相談とかどうかな?意見箱みたいなの用意してさ。」

「ん、それ採用!さっそくやってみるわ。」

そう言うと天音さんは教室を出ていった。

しばらくするとまた校内放送が流れる。

ピンポンパンポーン

「みなさん、ごきげんよう。この度、理事長代理に就任した天童天音です。みなさんに伝えたいことがあります。私は理事長として皆様のお役に立ちたいと思っております。さしあたりまして、理事長室の前にお悩み相談箱を設置いたしました。小さなことでもかまいません。困ったことがあれば何でも投書してください。以上です。」

「ほへぇ、天音さん、行動早いわねぇ。」

「ですね。天音さんらしいです。」


 そして翌朝、私と天音さんは寮生の3人を連れて理事長室に向かう。

理事長室の前に設置してある意見箱を確認するとさっそくいくつか投書されていた。

しかしほとんどが天音さんへのファンレターだった。

「あの、あたし達まで理事長室にきて良かったの?」

円香さんが尋ねる。

「ええ。お悩み相談を受ける上で、色んな生徒の意見も聞きたいから。」

そして私は一通の手紙を手にとる。

「あ、これは相談みたいですよ?読んでもよろしいでしょうか?」

「そうね、お願いするわ。」

「えっとですね・・・『もうすぐ中間テストだから助けて!』って書いてあります・・・。」

「それだけなのです?」

とてもシンプルな悩み相談だった。

「・・・何を、どう助ければいいのかしら。」

天音さんが言う。

「ええと・・・テストを延期する、とか?」

結衣さんが言う。

「なるほど。」

天音さんが真剣な表情で頷く。

「お願いですから検討しないでください!冗談ですから!」

私は真剣な天音さんに叫んだ。

どうしてこんな提案を真面目に考え始めてしまうのだろう。

「悩み相談というより、愚痴なのです!

これ・・・。」

「回答自体を期待されているとは思えないですね。」

「でもまあ、気持ちはわかるよねぇ。あたしも同じこと愚痴りたい・・・勉強したくないもん。」

円香さんが言う。

「そう言われても、してくださいとしか答えられないです。」

私が答える。

「冷たい・・・葵ちゃんは勉強できるからいいよねぇ。だがここに期待の新入生がっ!遥もバカだよね!仲間だよねっ!?」

「わわ、なぜそう思ったのです・・っ?」

「皆本さんは学年十位以内よ。」

天音さんが間髪入れずつっこみする。

「え、うそっ!?」

「えっ?」

私も驚いた。

「お姉様も驚くのですっ!?はるか、バカって思われてたです!?」

「・・・すみませんでした。」

私は素直に謝る。

「認めちゃったです!?ホントにバカって思われてたです!」

「くすっ、はるかさんってこれで意外と真面目さんですから。」

結衣さんがフォローした。

「天音さんは、勉強できる方?って、葵ちゃんがついてるんだから決まってるか。」

「私は・・まあまあね。」

「天音さんは、勉強に関しては真面目にしてますから私は何も教えたことはありませんよ。」

「ということは勉強できないのはあたしだけっ?そっかぁ・・・。葵ちゃん、お願いしますまたノート貸してください。」

「かまいませんが、借りただけだと意味ないんですよ?分かってます?」

「だって、やっぱり勉強って楽しくないんだもん・・・。」

気持ちは分かるけど・・・と私や遥さんが苦笑したときのことだ。

「・・・楽しく。」

ピクリと天音さんが反応した。

何だか嫌な予感。

「楽しくないのは・・・問題だわ。」

「あの・・・天音さん?」

天音さんは、学園を『楽しく』したいと希望されている。

だから、それは放置しておけないワードだったのだろう。

「相談がきているなら答えるべきだと思うわ。」

「たしかに、言い換えると『勉強が楽しくないからやりたくない』という意味にもなるのです。」

「・・・葵、勉強を楽しくする方法を考えて。」

そうくると思いましたよ。

・・・でも。

「ちょ、ちょっと無茶ぶりが過ぎませんか?」

「私も考えるから、あなたも考えて。」

「そう言われましても、難題にもほどが。」

こんな無茶ぶりでも天音さんは真剣なのだろう。

だったら私も真面目に考えてみようと思う。

「う〜〜ん・・・。」

私が考えていると円香さんが口をはさむ。

「いや、勉強はどうやったってつまらないでしょ。」

「楽しかったらみんな苦労はしないのです。」

だけど、それでも。

ほんの少しだけでも嫌じゃなくする方法くらいは。

「勉強していて、楽しかったこと・・。あっ。」

「えっ。何か思いついたのです!?」

「いえ。たいした内容じゃないんですけど。」

「何でもいいから言ってみて?」

天音さんが尋ねる。

「円香さんとの勉強会は、少し楽しかったかな・・・なんて。」

「あ〜、なるほどなのです。」

「たしかに、あたしも葵ちゃんと勉強した時は楽しかったわ。」

「・・・そういうものなのね。」

天音さんが言う。

もしかして、いつも私に頼らず一人で勉強している天音さんにとってはお友達と勉強会は未知の行為?


「でも・・・うん、いいですわね。

やりましょうか♪」

結衣さんが口を開く。

「やるって、勉強会を?」

円香さんが尋ねる。

「はいっ、円香さんがちゃんと勉強しているか見張ることもできますし♪」

「ぅえ〜、でもまあ・・赤点は取りたくないし、教えてもらえるならありがたく。」

「ふふ、お菓子とか持ち寄って、みんなでお勉強・・・きっと楽しいです♪私、お菓子作りますねっ。」

結衣さんが笑顔で言う。

(一同)

「それはいらない(です)!!」

勉強にならないどころか地獄絵図確定なので全員で揃って拒絶した。

「手作りお菓子なら葵ちゃんに作って欲しいな〜♪」

「簡単なものでよければご用意しますね。」

「はるかも手伝うのです!主に結衣お姉様の襲撃から守るのです!」

「納豆ショートケーキ、作りたかったのにぃ・・・。」

どうしてそんな怪しいメニューを思いつけるのか。

「まぁ、いいですっ。それで、いつにしますか?勉強会。」

結衣さんがみんなに尋ねる。

「あたしはいつでも平気だけど、用事なければ今日にでも集まっちゃう?」

「ですね、場所は寮の食堂とかで・・・。」

と、結衣さん主導で話がまとまりかけた時。

「・・・あの、内輪の話ではないのだけれど。」

少し申し訳なさそうに、天音さんが口をはさむ。

「悩み相談のことがあるから、学園行事にしたいのだけど。」

「勉強会を、ですか?」

結衣さんが尋ねる。

こくりとうなずく天音さん。

「あなた達だけで勉強会しても相談者さんは助けてあげられないわ。」

「それはまぁ、そうですけど。」

「天音さん、生徒全員を心配して下さってるんですね。」

私が言う。

「それは・・理事長だもの。」

天音さんのこういうところ、素敵だな・・と私は思う。

自分の周りだけでなく、本気で生徒みんなを大切にしようと思っているのだから。

「わかりました。学園行事で勉強会ですね?

考えてみます。」

「葵様がその気になっちゃいました。」

「お姉様、相変わらず天音お姉様に甘々なのです。」

「とはいえ、これはあたしたちも協力するしかないかっ。」

苦笑まじりではあるけれど、結衣さん達も賛同してくれる様子だった。


 昼休み、みんなで話し合いになった。

「ええと、でも学園でみんな集まって勉強していたら単なる自習ですよね?」

私はみんなに尋ねる。

「・・・そうね。どう違うのかしら。」

「強制されたらそれは自習なんじゃない?楽しくないし。」

「そうですね・・・自由参加なのは当然でしょうね。」

「あと、お喋りOK!勉強しなくてもよし!」

円香さんが楽しそうに言う。

「よくはないです。休憩が長くなるのは、ままありますけど。」

これも、確かに・・黙々と机に向かっていたら今回の目的は達成できないだろう。

「あとは、お茶とお菓子!欠かせないのです!」

「天音さん、教室にお菓子とか飲み物持ち込んでも大丈夫ですか?」

私が天音さんに尋ねる。

「ん・・・許可するわ。

紅茶くらいなら、学園の方で用意できると思うけれど。」

「でしたら、それは遠慮なく使わせて頂くとして・・・。」

放課後の教室をフリードリンク制の自習室に。

お菓子の持ち込みはご自由に、静粛も求めない・・・と、こんなところだろうか。

出てきた意見を1つのアイディアにまとめて、これでどうでしょうとお伺いを立ててみる。

「・・・教室と備品の使用は問題ないけれど。」

「みなさん、勉強してくれるでしょうか・・・?」

結衣さんが不安そうな顔で言う。

「お喋りだけになったら、ただのお茶会なのです。」

「そもそも、誰も参加しないかも・・・?」

本当にこんなのでいいのか、不安だらけだ。

「そういうのは、とりあえず試してみればいいんだって。早速今日でも大丈夫?」

「大した準備がいるわけではないけれど。」

「じゃあまずはウチのクラスだけで。

おーい。みんなー!今日の放課後なんだけどー!」

クラスのみんなに呼びかけながら円香さんは教壇に駆け上がっていく。

・・・即断即決、感心するくらいの行動力だ。

「なんだか、決まっちゃったみたい、ですね?」

「やるしかないですね・・・あの、天音さん。」

「お茶の用意くらいでいいのよね・・・手伝ってくれるかしら。」

「もちろんです、よろしくお願いしますね。」

かくして、放課後には自由参加の勉強会が開かれることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る