★第八章★ 永遠の箒星(7)

 時に神が起こす気まぐれ――これが奇跡と呼ばれるものなのだろうか。

「大きくなったわね――シホ」

 その魔女ひとは、強く――

 その女性ひとは、美しく――

 そのひとは、優しく――

 わたしにとって一人だけの、かけがえのない大切な――

「……お母、さん――……」

「……シホ」

 見つめ合い――

「お母さんッ――会いたかった……お母さんっ……!!」

 その懐に飛び込んだ。飛び込んで、泣いた。

「わたし、お母さんを探すために――探すために頑張って――頑、張っ、でッ……」

「こんなに……立派になって――本当に、本当に頑張ったわね――シホ」

 その腕に強く抱きしめられ――

「でも……でもッ……そのせいで……そのせいでこんなッ……ミーティアを――みんなを……ッ!」

 嬉しくて、そして哀しくて――

「そればかりか……そればかりかお母さんにまでッ……ごめんなさい……ごめんなさいッ……」

 泣き続けた。泣き続ける事しか、もう出来なかった。

 ――――。

「シホのせいじゃない――シホのせいじゃないのよ。全ては私の――お母さんのせい。あなたは何も悪くない」

 優しい吐息が耳にかかる。その声は強く優しく――そして少し、震えているようだった。

「シホ。落ち着いて……それに、大丈夫。――大丈夫よ」

「…………?」

 泣き顔のままシホは顔を上げる。

 シホのポケットから、水晶盤が――『失われし魔術書』が舞い――

「シホには――私たちには、まだ希望がある。そう――あなたが、みんなが守った奇跡の力が――」

 二人の間で――ゆっくりと回転する。

「駄目なの――その力は嘘なの――奇跡なんて、起こせないの……!」

 シホが目を絞り、首を振る。

「――奇跡は、一人で起こせるものじゃないのよ。奇跡を願う人と――その人を想い、その幸せを願う人がいてこそ出来る事なの」

 ステラがシホの左手をとり――

「そして――奇跡は自分の為に起こすものじゃない。自分が想う大切な人の為に起こすもの」

 シホが顔をあげる。そして――

「『失われし希望ロスト・グリム』は、そのとき初めて――奇跡となって舞い降りる」

 ステラの手をとった。奇跡の水晶盤が光を放ち――

 組み合わさった二つの魔法陣が展開する。

「――起こしましょう。奇跡を」

 ステラが微笑み――シホが頷く。

「……さあ、シホ。聞かせて。あなたの願いを」

「わたしの――わたしの、願いは――――」

 ――――。

 二つの魔法陣が光を放ち――世界を照らす。

 この日――宇宙そらには数多の流星ほしが注ぎ、そして光となって舞い降りた――

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