★第八章★ 永遠の箒星(6)
「シホ……! ステラ……! やったッ……やったのネッ……!!」
消えゆく巨星の影に、メテオラが声をあげ目を滲ませる。
「――賭けはボクの負け……カ。まさかの大番狂わせだったヨ」
クエイザの声にメテオラが振り返るが――
「――まあ、手に汗握るいい勝負だったし、十分楽しめたかナ」
そこにクエイザの姿は無く――
「――メテオラ、賭けの勝ち分はツケておいてくれて構わないヨ。いずれ――何か望みが出来たら遠慮なく言ってくレ――」
残した言葉だけが虚ろに響いていた。
「お……のれ――」
どこまでも続く暗闇を見つめながら――ハレイが声を絞り出した。
法器の生み出した巨人の威容は既になく――白浜の砂のように、力なく散っていく。
「――このハレイに……ゆ、許さぬ……まだだ――まだッ……!!」
「――やあ、ハレイ。残念だったネ。ボクですらキミの勝ちに賭けていたって言うのニ」
ハレイが声のほうを見上げると――
自分とは天地逆さまの状態で浮かぶクエイザの姿が映った。
「クエイザ……!」
「――ボクらの契約もここまでみたいだネ。それを伝えに来たんダ」
「なっ……待てッ、クエイザ! まだ――まだ私は諦めてはいない! 体勢を立て直し再び――」
ハレイが胸に手を当て、訴えるが――
「そうは言われても、ネ。ほら上を見てごらんヨ? ――ああ、この状態だとキミからは足元と言ったほうが正しいのかナ」
「……? ――――!」
ハレイが眼下を覗き込むと――
そこには法器による制御を失い、不安定に形を歪めながら収束を始めている暗黒の空間が広がっていた。
「キミが残した負債だヨ。もうじきに消滅してしまうだろうけド、法器を失った今のキミが逃れるのはちょっと難しいんじゃないカ?」
「たっ――クエイザ、頼む。お前ならまだ私を――!」
ハレイが懇願するようにクエイザの顔を見上げる。が――
「それは――やめておくヨ。そういう事は契約には含まれていなかったシ――何よりそんなリスクを背負うメリットも見当たらないしネ」
クエイザは表情を変えることもなくそう告げる。
「でも、キミと仕事が出来て良かったヨ。キミの組織運営の
ハレイの下で、引力場が黒い水銀のように揺らぐ。
「今から奇跡の魔法、その力を目の当たりにすることはできそうだしネ。必ずボクの今後の仕事に役立つだろウ」
灰汁色の獣人は彼方に輝く二つの光を眺めたあと――
「ありがとう、ハレイ。いい
ハレイに向き直り、満足げに笑った。皮肉も悪意も込められていない、本当の笑顔だった。
「まっ――待って、待ってくれ――!」
手を伸ばすハレイと黒い空間の距離が近づいていき――
「じゃあ、ボクはそろそろ行くとするヨ。キミはいいビジネスパートナーだった。もしも縁があったら、また会おウ。……キミが奇跡の対象に入っていることを、願ってるヨ」
「クエイザッ、待――」
そこで音は途切れ――暗黒は最期に自らも呑みこんで、消えた。
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