★第八章★ 永遠の箒星(3)

 巨人の表面が蠢き、湧き出すように白妙の獣が現れる。

 白磁のように光を照り返す皮膚に、尖った鼻先、牙を備えた大きく裂けた口。

 正円の紅い瞳は理性や知性を一切感じさせず、残虐さのみを宿す事を物語っていた。

 巨体を支える槌のような足で、もがくように宇宙へと這い出し、翼を広げる。

「ハレイ版のクーヴァってところか! ステラさんのと違って可愛げはないがな!」

 正面に広がる白き獣の群れを前に、ミーティアが小型法器を抜く。

「いくら出てこようと無駄! どいてっ!」

 二人の魔女が群がる巨体をすり抜け、暗黒を射抜く薄紫と紅の魔力線が次々と獣を駆逐する。しかし――

 獣が吼え、砕けた身体を再生させ、あるいは別の個体へと分裂し、魔女を狩らんと殺到する。

「くそっ、こんな雑魚に構ってるヒマはない――ここはあたしに任せてシホは行けっ!」

「わかった! ミーティアも気をつけて!」

 砲弾を撃ち、グリップを捻る。はだかる獣を破り抜き、突き抜け、シホが疾走する。

 ミーティアが法器を両手に構え、周囲に群がる魔獣を撃ち続ける。

「これなら間に合う――もう少しっ!」

 一直線に目標へと疾るシホの目に、だんだんとハレイの顔が見えてきた。

「ほう――あの軍勢を突破してくるとは」

 ハレイが呟く。

 巨人の顔――闇の中――に光が生まれた。

 そして眩いほどの輝きを放ち――

「――!?」

「シホ……避けろッ!」

 咄嗟にシホが機首を下げ、重心を傾けて天地を入れ替える。

 直後、足元を衝撃と――むしろ凍てつくような熱波が通り過ぎる。

「ウソ――で、しょ……」

 極大の熱線が闇を切り――蒼星の衛星に突き刺さった。

「――マジ……かよ」

 月の端が穿たれ――ごつごつとした表面をばら撒きながら、ゆるやかに球体が崩壊する。

「――シホ! また来るぞ!」

 シホが振り返ると――

 熱線を発したままの巨人が首を振り、闇を照らし上げていく。

「そんな……! あれを連発できるって言うの!?」

 滂沱の如く放出される死の光を、シホは法器を駆り、回転し、躍動し、疾走し――避ける。

 突き抜けた光は分子を震わせながら進み――彼方に宿る輝きを不規則な形に変える。

 このままでは――数多の星が犠牲になる。首が向かない死角は――

「――あそこなら……!」

 シホは一旦迂回すると、白き巨人の足元へと向かって飛ぶ。

「シホ、こっちだ!」

 ミーティアも同じポイントに向かい、二人は巨人の真下で合流する。

 眼下には蒼星、そして右手の方角には本来のバランスを崩し、軌道を変え始めた月が見える。

「ミーティア、正面から向かうのはもう無理だよ!」

「ああ。それにあたしらは避けれたとしても被害がデカすぎるぜ……!」

「うん。そうなると……」

「ああ、気は進まないが――ここを進むしかないな」

 そう言って二人は上を見上げる。

 視界に広がるのは数多の白き獣が蠢く、大地のような巨人の体躯。

 そして――その先に座しているであろう星女王ハレイ。

「ここを突破して――ヤツ本体を叩く。接近してあたしらの最大の魔法をかませば勝機はあるはずだ」

「わたしたちの最大の魔法――」

 シホは白金の法器を強く握りしめ――ミーティアを見て、頷く。

 ミーティアも頷くと小型法器を抜き――紫炎の刃を宿す。

「行くぞ――最悪、どちらかがヤツまで辿り着くしかない。もうお互いかばうのは無しだ」

「うん――必ずわたしたちでハレイを倒して宇宙を救おう! 行こう、ミーティア!」

 エンジンノズルが火を吹き――白き大地を疾走する。

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