★第七章★ 星を統べる者

★第七章★ 星を統べる者(1)

「さあ――最後の演目よ。約束通り、解体ショーを見せてあげるわ……!」

 ミーティアの瞳に、醜く歪んだ笑顔と、ゆっくりと振り上げられた刃が映った。

「そんな……ミーティアっ――!」

 悲鳴のようなメテオラの声が森を震わせた。

 プラーネが狂喜に震え、腕を降り降ろす。濃緑の光がミーティアに迫る――

「――!?」

 と同時、薄紫の砲弾のような光がプラーネに向かって飛来する。

 手を返し、咄嗟に刃でそれを防ぐ。

「ぐっ……ぐぐぐぐっ……!!」

 砲弾の威力に押され、刃を持つ手が震える。

「……はあっ!」 

 腕を払い、プラーネはどうにかそれを弾きそらす。軌道を外れた魔力弾が森へと進み――爆音と共に木々を粉砕した。

「ミーティアっ!」

 その間に白金の法器に乗ったシホが疾走する。プラーネとの間に入り、ミーティアに向かって手を伸ばす。

「シホっ……!」

 ミーティアも手を伸ばし、二人の手が繋がる。勢いそのままに宙を舞い――ミーティアがシホの法器後部に跨った。

 それを確認すると、シホはグリップを強く捻り、加速。轟音を撒きながら法器が大きく円を描く。距離をとるとシホは片足を地に着けて法器を止め、プラーネに向き直る。

 そのシホの姿にプラーネが目を開き、驚愕する。

「馬鹿な……その法器は……!」

 星の魔女、一等星級。星雲長ステラ専用に造られた特注の魔女の法器。

 通称――‘スター・バスター’

 白金色の光沢を放つボディを持ち、マニュアル型でありながら、幅広い魔法術式に対応。三角を描くように配置された三基のハイパワーエンジン。その凄まじい出力と重量ゆえ、高度な操縦テクニックが要求される。この規格外の法器を乗りこなせる魔女はステラのみとされてきた。

 しかし――

 しかし、今。こうしてそれを乗りこなす二人目の星の魔女が誕生した。

「もう……もうこれ以上、あなたに何も奪わせない……!!」

 シホは母から受け継いだ新たな法器ちからを強く握りしめる。

 ミーティアが飛び降り、本体のみとなった自分の法器を抜く。

「いくぞ……今こそあたしたちで、ヴィエラの、ベネットの敵を……!!」

 ミーティアの言葉に、シホが力強く頷く。

「覚悟して、プラーネ!」

「覚悟しろ、プラーネ!」

 二人は法器に乗り、プラーネへと疾走する。

「ほざけ……! この死にぞこない共がッ!」

 プラーネの握る刃が強く光り輝き――

「無能なゴミに心をとらわれ、本質を見失う馬鹿どもに……私が遅れなどとるものかッ!」

 濃緑の斬撃を放つ。

 ミーティアとシホが左右に展開し、斬撃を避け――プラーネを中心に周囲を旋回する。

「くッ、小癪な真似をッ……!」

 散開され、的を絞りきれないプラーネが斬撃を周囲にばら撒き続ける。

 しかし、凶刃は空を斬り――周囲の木々を斬り倒すのみだ。

 そして、ミーティアが僅かに頷くのを確認し――シホが、急速に動きを変える。

 スロットルグリップを握り直し、更に魔力燃料を燃焼させ高速で周回し――

 制動領域を展開する。エンジンノズルがすさまじい蒼炎を吐き――

 軌道を保ったまま、法器の先端がプラーネを捉え――

 魔法陣が展開。射出口に光が集い――

 渾身の魔力砲弾を放出する。

「おのれ……ッ!」

 正面から迫る砲弾にプラーネが斬撃を放つが――砲弾が斬撃を粉砕し、突き進む。

「!? ……おおおおおおーッ――!」

 プラーネが刃を立てて両手で構え、自らを圧壊せんと迫る魔力を受け止める。

 踏みしめる両の足が地を削り、身体が押し込まれていく。

「ゆ……許さん……ここまで私をコケに……! 貴様ら……必ず、必ず……!!」

 鬼の形相を浮かべ、なんとか踏みとどまりながら呪言じゅげんを吐くプラーネ。

「必ず――どうするってんだ?」

 ――!

 背後で――紫炎の刃が宿り、空気を震わせる音が聞こえた。

「――解体ショーは好みじゃないんだがな……汚れ役も道化ピエロの領分と――諦めるぜ!」

 紫炎の熱線が閃き――

 プラーネの右腕が力なく、重力に引かれ――

 斥力を失った魔法弾が加速し――

 悪魔を打ち砕く!

「ご……があぁぁぁぁぁっ……!!」

 熱を帯びた砲弾が胸骨を砕き、臓物を圧壊し、体躯を弾き飛ばしていく。

 プラーネは鮮血を吐きながら岩肌へと激突し――

 ついに――地へと伏した。

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